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<四章:人間の国を調査せよ>
オタクは早口
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翌朝。翌朝という言葉を初めて使ったけれど、睡眠という脳のメンテナンス機能の偉大さにむせび泣きそうな、そんな爽快感だった。正月元旦の朝に新品のブリーフを履いていると言った方が正確か。とにかく翌朝。俺達はこの前魔王に案内された食卓に集まり朝ごはんを食べていた。と言っても勇者からアイテムボックスと一緒に取り戻した食料を、種や家畜から再び栽培畜産するサイクルに戻すためにはもっと期間を要するのだろうが、それはクスノに任せるとして。それまでは缶詰ということになる。その缶詰も残りわずかなのだが。
「いや、元旦のブリーフどころか、ブリーフもないんだけど、何で私今もテーブルクロス一丁なのよ! 聞いたことないわよテーブルクロス一丁なんて言葉!」
と、神官の女子は朝ごはんのフルーツ缶詰を食べてぷんすかしている。そういえば服燃やしてそのままだったな。
「アイテムボックスと言えば。勇者のズボン脱がしただろ、あれ履けよあれ」
「嫌よ汚い!」
まぁそうか。ならもう服なんてないのだが。そう思案していると、クスノが骸骨にあるものを運ばせて見せびらかした。
「こんなこともあろうかと、メアリー様の服を仕立てさせていただきました」
と、漆黒の動きやすいドレスを出してきた。スカートこそ短いものの、ウエストがきゅっと引き締まっており、花のレースが編み込まれてある。鎖骨辺りにヒラヒラとしたものが取り付けられており、優雅さにかわいらしさがデザインされていた。こいつ、裁縫もできたのか。
「私、服着て、いいの?」
「ええ、もう我慢する必要はございません」
切実に、というか初めて味のある食料を口に含んだ戦災孤児のように、ほろほろと涙を流しながら袖を通す。公園で泥だらけの喧嘩をして泣いて帰ってきた少年が、お母さんに「とりあえず風呂入ってきな」と服を脱がされる描写が思い起こされた。服が涙で汚れるじゃねーか。
着ると、流石はプリーストックでトップを登り詰めるほどの実力者だけはあり、顔は特に資本なのだろう、服の煌びやかさをギリギリ貶めないほどには着こなしていた。そんな神官の女子が前かがみになり、谷間を無駄に協調させて、膨らませた口元を手で押さえる。
「ぷぷぷ、良いのよ素直にかわいいって言ってくれても。それかこいつみたいに真っ赤になってもいいのよ?」
「ちょ、止めてくださいよ、僕本読んでるからであって、メアリー様を見て顔を背けているわけではないので」
がばっと神官の女子が肩に触れると、神官の男子、もといマサトは耳を真っ赤に染める。昨日魔王から魔王城にある部屋に案内されるついでに図書館を覗いたところ、壁という壁が本を収納するスペースとなり、本でできた部屋と言っても過言ではないくらいの書物が揃えられていた。恐らくここを重宝していた誰かがこれほどの本を集めたのだろうが、検索エンジン無き今、マサトには地道な調査を強いることになってしまっていた。その作業の一貫なのか、食卓には数冊の持ち運べる本が積まれている。
そんな本を持ち込みつつも食卓を囲んでくれるところを見るに、俺達への警戒はほどほど無くなったと見ていいんだろうが。
「休みも大切だぜ?」
「いえ、これは自分のためです。丁度いいところなんですよ」
と、読書に意識が再び戻る。真剣な表情に思わず笑みが漏れた。これが本来のマサトなのだろうと思うと、やはりこいつの言う皆から引きはがして正解だったように思う。調査もしてくれることだし。
「当然のように無視しなくてもいいでしょ!」
「似合ってる似合ってる。だがその恰好は目立つから、俺の身たてた変装服を着てもらう」
「変装? どっか行くの?」
あ、そういえば言ってなかったな。おほんと咳払いして皆に向く。
「目的地は、始まりの町『トースター』だ」
「トースター!? あの始まりの町のか!?」
と、魔王が机をバンと叩いて身を乗り出す。あの始まりの町って、俺がさっき言ったんだから繰り返さなくても。だがそれよりも、他の奴等も少なからず意識がこちらに向くような反応を示している。そういえば、あの魔神(仮)が流行った物語とか言ってたっけ。
「知ってるのか?」
「この世界で知らない者はおらんよ、『勇者の超冒険』は皆の共通語じゃ」
『勇者の超冒険』。それが物語のタイトルなのか。それが世界中に伝わっている物語、思わず息を呑んだ。俺の世界で言うところの、キリスト教の聖書みたいなもんか。
「どんな物語なんだ?」
聞いてみるも皆黙り、しかし両手の平を上にして魔王が率先してため息を吐いた。そしてすぅぅぅっと息を溜める。
「いやいや、それは読んでのお楽しみじゃよ。ちなみにわしはちゃんと本から入った派だから、アニメや漫画じゃなくて本から。だからメディアミックスした時には様々な描写が簡易化されて残念に思ったもんじゃ。13章第4節のあの勇者のシーンが特に、行間を読めば勇者の感情は憎しみではなく憂いじゃと分かるはずなのにそこが描かれておらんのじゃ。はーあ、わしがアニメ作ったら絶対もっと『ユウチョウ』の良さを引き出して見せたのにのぉ」
「あー、簡単に言うと、勇者が魔王倒す話よ」
俺は初めて、神官の女子の頭を撫でてやった。
「いや、元旦のブリーフどころか、ブリーフもないんだけど、何で私今もテーブルクロス一丁なのよ! 聞いたことないわよテーブルクロス一丁なんて言葉!」
と、神官の女子は朝ごはんのフルーツ缶詰を食べてぷんすかしている。そういえば服燃やしてそのままだったな。
「アイテムボックスと言えば。勇者のズボン脱がしただろ、あれ履けよあれ」
「嫌よ汚い!」
まぁそうか。ならもう服なんてないのだが。そう思案していると、クスノが骸骨にあるものを運ばせて見せびらかした。
「こんなこともあろうかと、メアリー様の服を仕立てさせていただきました」
と、漆黒の動きやすいドレスを出してきた。スカートこそ短いものの、ウエストがきゅっと引き締まっており、花のレースが編み込まれてある。鎖骨辺りにヒラヒラとしたものが取り付けられており、優雅さにかわいらしさがデザインされていた。こいつ、裁縫もできたのか。
「私、服着て、いいの?」
「ええ、もう我慢する必要はございません」
切実に、というか初めて味のある食料を口に含んだ戦災孤児のように、ほろほろと涙を流しながら袖を通す。公園で泥だらけの喧嘩をして泣いて帰ってきた少年が、お母さんに「とりあえず風呂入ってきな」と服を脱がされる描写が思い起こされた。服が涙で汚れるじゃねーか。
着ると、流石はプリーストックでトップを登り詰めるほどの実力者だけはあり、顔は特に資本なのだろう、服の煌びやかさをギリギリ貶めないほどには着こなしていた。そんな神官の女子が前かがみになり、谷間を無駄に協調させて、膨らませた口元を手で押さえる。
「ぷぷぷ、良いのよ素直にかわいいって言ってくれても。それかこいつみたいに真っ赤になってもいいのよ?」
「ちょ、止めてくださいよ、僕本読んでるからであって、メアリー様を見て顔を背けているわけではないので」
がばっと神官の女子が肩に触れると、神官の男子、もといマサトは耳を真っ赤に染める。昨日魔王から魔王城にある部屋に案内されるついでに図書館を覗いたところ、壁という壁が本を収納するスペースとなり、本でできた部屋と言っても過言ではないくらいの書物が揃えられていた。恐らくここを重宝していた誰かがこれほどの本を集めたのだろうが、検索エンジン無き今、マサトには地道な調査を強いることになってしまっていた。その作業の一貫なのか、食卓には数冊の持ち運べる本が積まれている。
そんな本を持ち込みつつも食卓を囲んでくれるところを見るに、俺達への警戒はほどほど無くなったと見ていいんだろうが。
「休みも大切だぜ?」
「いえ、これは自分のためです。丁度いいところなんですよ」
と、読書に意識が再び戻る。真剣な表情に思わず笑みが漏れた。これが本来のマサトなのだろうと思うと、やはりこいつの言う皆から引きはがして正解だったように思う。調査もしてくれることだし。
「当然のように無視しなくてもいいでしょ!」
「似合ってる似合ってる。だがその恰好は目立つから、俺の身たてた変装服を着てもらう」
「変装? どっか行くの?」
あ、そういえば言ってなかったな。おほんと咳払いして皆に向く。
「目的地は、始まりの町『トースター』だ」
「トースター!? あの始まりの町のか!?」
と、魔王が机をバンと叩いて身を乗り出す。あの始まりの町って、俺がさっき言ったんだから繰り返さなくても。だがそれよりも、他の奴等も少なからず意識がこちらに向くような反応を示している。そういえば、あの魔神(仮)が流行った物語とか言ってたっけ。
「知ってるのか?」
「この世界で知らない者はおらんよ、『勇者の超冒険』は皆の共通語じゃ」
『勇者の超冒険』。それが物語のタイトルなのか。それが世界中に伝わっている物語、思わず息を呑んだ。俺の世界で言うところの、キリスト教の聖書みたいなもんか。
「どんな物語なんだ?」
聞いてみるも皆黙り、しかし両手の平を上にして魔王が率先してため息を吐いた。そしてすぅぅぅっと息を溜める。
「いやいや、それは読んでのお楽しみじゃよ。ちなみにわしはちゃんと本から入った派だから、アニメや漫画じゃなくて本から。だからメディアミックスした時には様々な描写が簡易化されて残念に思ったもんじゃ。13章第4節のあの勇者のシーンが特に、行間を読めば勇者の感情は憎しみではなく憂いじゃと分かるはずなのにそこが描かれておらんのじゃ。はーあ、わしがアニメ作ったら絶対もっと『ユウチョウ』の良さを引き出して見せたのにのぉ」
「あー、簡単に言うと、勇者が魔王倒す話よ」
俺は初めて、神官の女子の頭を撫でてやった。
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