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<三章:大切なモノを奪還せよ>
勇者のくせに生意気だ
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ズボンを脱がされ、羞恥の苦しみを乗り越えたとでもいうのか。とかそういう驚きをしようと思っていたのだが、そういえばこいつは既に情事を全世界にブロードキャストされていたことを思い出した。辱めなどはもう乗り越えているということだ。
つまり、失う物は何もない。
失う物がない物は、強い。
「ふん!」
刀身だけで成人男性並みの大きさがある両刃の剣が、片手で軽々と振り回される。操られているとはいえ、この無駄のない力の運び方は流石は勇者。流れるように大きな剣が薙がれている。しかし少し安心したことはといえば、こいつの文字通りの矛先は俺に向いているということだ。ならばこっちも思う存分動けるというものだった。
腰を即座におろしてうつ伏せに回避する。その目の前から勇者の蹴りが繰り出される。手足を利用して後方へとステップする瞬間。
(え? コップ?)
勇者が靴にコップをはめていることに気が付いた。それも多分だけれど、俺が言語疎通ポーションとやらを飲んだ時のコップだった。なんでコップはまってんの? あれかな、紐を小さいバケツかなんかにくくってカポカポ歩く、あのおもちゃ的な遊びをしようとしていたのだろうか? そんな邪推をしたくなるほどの、格好がつかない見た目だった。
しかし、そんな不安定な状態でさえ、動きが人間離れしている。蹴ったコップ付きの足で前に踏み込むと、そこから体を前に出して剣を振り下ろす。
俺はその剣を、両手を空に浮かせて、合掌した。
「くっ!」
何とか真剣白刃取りができたものの、重い。このまま重さで押し切って俺を一刀両断するつもりか? しかしこの膠着状態は俺にとって結構便利だったりするんだぜ?
なにせ考える時間を作ることができる。操られているというか、多分恨みによって突き動かされている人間は、考える余裕がない。そこが俺のチャンスだ。
踏ん張っている足はコップにはまっているものの、しっかりと地面を踏みしめているようにも見えた。ならば。
「せいや!」
その踏ん張るコップ付きの足を右足で内側に蹴る。すると、コップの滑りやすさによって踏ん張りが効かなくなり、力が横に逸れた。その逸れた方向に力を流し、剣を地面に受け流す。剣の半分ほどが、地面に突き刺さった。片手から両手に剣を持ち換えて抜き取ろうとするが、なかなか剣は抜けそうにない。
その手を剣の柄毎踏む。
「抜かせねーよ」
「……ぬかせ……」
呟いた声は小さかった。だがその怒気を帯びた声音に負けじと、踏みしだく。
「抜かせねーって言ってんだろ?」
「減らず口ぬかしてんじゃねーぞ!」
その激声が上がった瞬間、勇者の剣から発せられる光が、神官の男子の闇を引きはがして勇者に流れ込んでくる。そして、俺が剣を抜かせまいと踏んでいるのにも関わらず、その足が、浮く。
こいつ。
「はぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」
引き抜いた。バランスが崩れないように早めに足を離し、距離を取った。そして目の前を見る。
勇者の剣を引き抜けば、そいつは勇者になる。
そういう物語の定番というか、テンプレートが今まさに、目の前に体現されているようだった。
荘厳なあふれる光を身に纏い、剣を向けた。
「俺はお前を許さない! 絶対にメアリーを取り戻す!」
当の本人を見ると、ちょっとトゥンク……とときめいているようだった。こいつ、惚れっぽいとかじゃなく、愛に飢えてるからちょろいだけなのでは? だってこんなカッコいい剣を持ってカッコいいセリフ吐いているこいつ、パンツ一丁なんだぜ? パンツしか履いてないんだぜ?
「そうかよ、まぁいいさ。なら来いよ。俺はこいつを使わせてもらう。俺をたたっ切ることができればお前の勝ちだ」
そう言って、盾を持った。というのも、流石に武器無しだと分が悪いと判断した俺は、勇者の攻撃をかわしながら徐々に戦士君と魔法使いが伸びているところまで近づいていたのだ。その戦士君の盾を拝借する。
「さぁ、来いよ勇者」
男と男の戦いだ。
矛盾なく終わらせよう。
勇者は剣を振り上げる。勇者が纏う光が全て剣に集約され、大きな魔王城をも一刀両断するほどまで光が伸びる。ステンドグラスを貫いた。
そして光が、振り下ろされる。一心不乱に。何もかもを引き裂かんばかりに。
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「その本質は、命を矛から守る、絶対無敵の盾となる」
特別武具
「ジ・イージス!」
内なる魔力を盾に込めると、その盾はただの銀色の盾から、金色に、更に大きな大きな盾に姿を変貌させた。全ての攻撃から命を守るための盾に。
そしてそれは、光の剣を受け止める。全身に力を入れ、例えエッフェル塔が落ちてきても耐える気持ちで踏ん張った。
ピキ。
と、軋む音がする。
ピキピキ。
と、手元の武具が砕け散る。
俺が持っていた盾は真っ二つに割れ、そのまま足元に崩れ落ちた。
「すげぇな、お前。絶対割れないと思ったのに」
俺が盾を強化した絶対無敵の盾(多分だけど)を破ったのもそうだが、俺は勇者を本気で尊敬した。自分の心の中から湧き出る怒りを押させ込み、恨みの対象がいようとも、その矛をギリギリ押させ込むことができたことに。
友のために。
「うっせぇ卑怯者。俺はただ、敵は切っても、友達は切れねぇだけだ」
泣きじゃくる勇者の目には、俺の背後に倒れる二人の友が映っていた。
つまり、失う物は何もない。
失う物がない物は、強い。
「ふん!」
刀身だけで成人男性並みの大きさがある両刃の剣が、片手で軽々と振り回される。操られているとはいえ、この無駄のない力の運び方は流石は勇者。流れるように大きな剣が薙がれている。しかし少し安心したことはといえば、こいつの文字通りの矛先は俺に向いているということだ。ならばこっちも思う存分動けるというものだった。
腰を即座におろしてうつ伏せに回避する。その目の前から勇者の蹴りが繰り出される。手足を利用して後方へとステップする瞬間。
(え? コップ?)
勇者が靴にコップをはめていることに気が付いた。それも多分だけれど、俺が言語疎通ポーションとやらを飲んだ時のコップだった。なんでコップはまってんの? あれかな、紐を小さいバケツかなんかにくくってカポカポ歩く、あのおもちゃ的な遊びをしようとしていたのだろうか? そんな邪推をしたくなるほどの、格好がつかない見た目だった。
しかし、そんな不安定な状態でさえ、動きが人間離れしている。蹴ったコップ付きの足で前に踏み込むと、そこから体を前に出して剣を振り下ろす。
俺はその剣を、両手を空に浮かせて、合掌した。
「くっ!」
何とか真剣白刃取りができたものの、重い。このまま重さで押し切って俺を一刀両断するつもりか? しかしこの膠着状態は俺にとって結構便利だったりするんだぜ?
なにせ考える時間を作ることができる。操られているというか、多分恨みによって突き動かされている人間は、考える余裕がない。そこが俺のチャンスだ。
踏ん張っている足はコップにはまっているものの、しっかりと地面を踏みしめているようにも見えた。ならば。
「せいや!」
その踏ん張るコップ付きの足を右足で内側に蹴る。すると、コップの滑りやすさによって踏ん張りが効かなくなり、力が横に逸れた。その逸れた方向に力を流し、剣を地面に受け流す。剣の半分ほどが、地面に突き刺さった。片手から両手に剣を持ち換えて抜き取ろうとするが、なかなか剣は抜けそうにない。
その手を剣の柄毎踏む。
「抜かせねーよ」
「……ぬかせ……」
呟いた声は小さかった。だがその怒気を帯びた声音に負けじと、踏みしだく。
「抜かせねーって言ってんだろ?」
「減らず口ぬかしてんじゃねーぞ!」
その激声が上がった瞬間、勇者の剣から発せられる光が、神官の男子の闇を引きはがして勇者に流れ込んでくる。そして、俺が剣を抜かせまいと踏んでいるのにも関わらず、その足が、浮く。
こいつ。
「はぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」
引き抜いた。バランスが崩れないように早めに足を離し、距離を取った。そして目の前を見る。
勇者の剣を引き抜けば、そいつは勇者になる。
そういう物語の定番というか、テンプレートが今まさに、目の前に体現されているようだった。
荘厳なあふれる光を身に纏い、剣を向けた。
「俺はお前を許さない! 絶対にメアリーを取り戻す!」
当の本人を見ると、ちょっとトゥンク……とときめいているようだった。こいつ、惚れっぽいとかじゃなく、愛に飢えてるからちょろいだけなのでは? だってこんなカッコいい剣を持ってカッコいいセリフ吐いているこいつ、パンツ一丁なんだぜ? パンツしか履いてないんだぜ?
「そうかよ、まぁいいさ。なら来いよ。俺はこいつを使わせてもらう。俺をたたっ切ることができればお前の勝ちだ」
そう言って、盾を持った。というのも、流石に武器無しだと分が悪いと判断した俺は、勇者の攻撃をかわしながら徐々に戦士君と魔法使いが伸びているところまで近づいていたのだ。その戦士君の盾を拝借する。
「さぁ、来いよ勇者」
男と男の戦いだ。
矛盾なく終わらせよう。
勇者は剣を振り上げる。勇者が纏う光が全て剣に集約され、大きな魔王城をも一刀両断するほどまで光が伸びる。ステンドグラスを貫いた。
そして光が、振り下ろされる。一心不乱に。何もかもを引き裂かんばかりに。
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「その本質は、命を矛から守る、絶対無敵の盾となる」
特別武具
「ジ・イージス!」
内なる魔力を盾に込めると、その盾はただの銀色の盾から、金色に、更に大きな大きな盾に姿を変貌させた。全ての攻撃から命を守るための盾に。
そしてそれは、光の剣を受け止める。全身に力を入れ、例えエッフェル塔が落ちてきても耐える気持ちで踏ん張った。
ピキ。
と、軋む音がする。
ピキピキ。
と、手元の武具が砕け散る。
俺が持っていた盾は真っ二つに割れ、そのまま足元に崩れ落ちた。
「すげぇな、お前。絶対割れないと思ったのに」
俺が盾を強化した絶対無敵の盾(多分だけど)を破ったのもそうだが、俺は勇者を本気で尊敬した。自分の心の中から湧き出る怒りを押させ込み、恨みの対象がいようとも、その矛をギリギリ押させ込むことができたことに。
友のために。
「うっせぇ卑怯者。俺はただ、敵は切っても、友達は切れねぇだけだ」
泣きじゃくる勇者の目には、俺の背後に倒れる二人の友が映っていた。
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