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<三章:大切なモノを奪還せよ>

クスノキモモノキ

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「彼はモモというアルクウッドでございます。私の旧友でして、料理スキルと食材調達スキルに秀でております。なので彼に頼めばその場に食材がなくとも、どこからでも即座に食材を調達し、調理してくれるのでございます」

 先の出来事を簡単に纏めてくれたクスノ。花びらが舞い散っていた時に懐かしんでいたのは、昔の友達だったらなのか。だが、これを現状の食糧難のための対応策としては使えないかもしれない。ウーバーイーツと同じくは普段使いできないのだ、高いから。モモの樹の実が尽きれば食糧難にまっしぐらだし。緊急的かつたまの贅沢として使うならまだしも。

「じゃのぉ、それに奪われた食料には固有種の食料もおったんでのぉ、奪われず残っていれば調理してもらっていたのじゃが」

 悠久の彼方を思うように、腹を鳴らして天を仰ぐ魔王だった。

「今はそんな贅沢言ってらんねぇよ、だがモモの料理スキルは本当に大したもんだ、頼んでみろよ」

 そんじゃあ、と頭をひねって手元の樹の実を取る。

「わしはギュウギュウ肉のステーキじゃ!」

「じゃ私はデスカルゴのソテー!」

 魔王と神官の女子が持つ各々の樹の実からモモが出てきて、そいつに食べたいものを注文した。二人のモモがぶっ飛んでいき、空に二筋の光の残滓が出来上がる。

「デスカルゴとはお目が高い」

 と、クスノは神官の女子の注文に関心を示した。ふふふ、と自慢げにテーブルクロスをぎゅっと抱きしめて、思いを馳せている。

「そーでしょーそーでしょーとも、あれは王様にご指名頂いた時のことよ」

「やっぱり水商売してんじゃねぇか」

「言葉のあやよ! ってか別に皆指名されたんだからね! 私だけじゃなくて!」

 ぷくっと頬を膨らませ、そしてまた恍惚とした顔になる。

「その時に出されたデスカルゴのバターソテーがマジのバリウマだったわけ! もう一度食べてみたいな~って思ってたのよ!」

 そうキラキラと顔を輝かせ、ぐるぐると腹を鳴らす。お前さっきカレーライス平らげてただろ、めっちゃ腹減ってるじゃん。と心のなかでツッコみ、モモが枯れる前に残したカレーライス(おかわりも用意してくれていた)を頬張る。

「しかし、よろしいのですかな?」

 首をかしげるクスノに、同じく神官の女子も首をかしげた。

「何を?」

「デスカルゴはチョッタカ山脈の山頂付近にのみ生息する珍しい食材です。いくらモモといえど、少々お時間をいただくことになりましょう」

 と説明している最中、肉がギュウギュウにキュッと引き締まった牛を持ってきたモモが帰ってきた。「うっひょ~!」と、勇者が来るかもしれない監視映像をさておいてよだれを垂らす。それを見て、神官の女子がこちらに向いた。

「ねぇ、カレーライス、くれない?」

「はぁ?」

 別に嫌じゃなかったのだが、卑しい奴にたかられるという状況そのものが不快だった。しかしめちゃくちゃ食べたそうにしているので、仕方がなく、俺が直々によそってやった。

「分かったから、大人しくしてろ」

 えへへ~とカレーライスをかき込む。ガツガツ食っている様子に思わずほくそ笑んだ。こういうのも悪くないな。元の世界では感じられなかった気持ちだぜ。俺らしくもない。

 ではなく。

「そのままぶくぶく太れば、お前のチャンネルに登録している奴は太ったお前に幻滅して登録を解除するだろうなぁっハッハッハ!」

「あぁー! 珍しく素直にくれたと思ったら! 良いもん! 女の子はちょっと食べるくらいが可愛いんだもん!」

 と、累計3杯目をよそおうとしている隣で、ようやく神官の女子が頼んだモモが帰ってきた。手には数匹の黒いカタツムリがうごめいている。正直言って気持ち悪かった。

「うげ、旨いのか?」

「待ってました!」

 よくもまぁ待ちわびれる。

 桜舞い散る中、肉の焼ける匂いとカタツムリが加熱される不思議な匂いに包まれながら、魔王と神官の女子の様子を見ていた。花見なんてしたことなかったけれど、こうして時間をゆったり過ごすのも悪くない、とやっぱり考えてしまう自分がいる。魔王とか勇者とか、魔族とか人間とか、そういう役割を考えていたらまず抱けない思いだっただろう。

 人は魔族の敵であるべきだ。とか。
 皆は同じことをすべき。とか。
 常識的に考えて、とか、普通、だとか。

 そういうのが無かったら、こんな世界でなくとも俺は人生を謳歌できたのかもしれない。

「もう食べられないよぉ、デスカルゴ一つ食べて」

「えぇ~、本当に旨いんだろうな?」

 そこまで思いを馳せているわけではないのだが、この一瞬で2、3匹のデスカルゴを食べていた神官の女子が、フォークでデスカルゴを突き刺し俺に向ける。

「食べてみてって! 絶対美味しいから!」

 満面の笑みでそうすすめられると、嫌とは言えない。大人しく、差し出されたフォークの先を口に入れた。
 もぐもぐ。何とも言えない食感が口に広がり、バジルのような青い香りが鼻を抜ける。

「どうどう?」

「うん、まぁ旨いな。流石はモモの料理だ」

 ニシシと破顔するところを見るに、俺の照れ隠しは通じていないようだった。
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