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<三章:大切なモノを奪還せよ>
今、俺達にできること
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ぐるるるる~。
もしかしたら魔王城に勇者が攻め込んでいるかもしれない。その可能性をクスノに提示されたわけだが、確かにそれはまずいだろう。
何がまずいって、そりゃあ……。
……。
「別に良くね? 俺たちここにいるわけだし」
「よかないわ! 壺がぁ! あのこそ泥勇者に壺取られるんじゃあ!」
ぴょんぴょんと低身長を俺の顔に近づけては離れ、近づけては離れしている魔王。お菓子売り場でこういうの見たことがあるな。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ! 壺取られるのは嫌なんじゃあ!」
どんだけ壺大事なんだよ。たとえ詐欺であの壺を売りつけたとしても、その詐欺師に罪悪感を抱かせる程の愛着を持ってしまっていた。
「つっても今の勇者って、宿屋で元気もりもり全快なんだろ? 流石に弱体化してるお前と俺達じゃ勝てないって、諦めろ」
「ぐすん」
このように涙でグシャグシャになっていた時に響いたのが、冒頭の「ぐるるるる~」だったのである。
いや、待てよ? 壺に関しても、もしかすると戻らなくてもいいんじゃないのか?
「おい、お前の放送魔法で魔王城の様子を映すことはできないか?」
それができれば、勇者達が来ているのかがわかる。ついでに壺の無事が分かれば魔王の溜飲も下がるという作戦だった。しかし神官の女子は難しそうな顔をする。
「いや無理でしょ、私から放送するんだから。馬鹿じゃないの? 隠しカメラを仕掛けてるならまだしも」
杖を取り上げて天にかざした。「返して~!」となきべそをかいているのはさておき、魔王が俺たちの会話を聞いて閃く。
「隠しカメラ! それじゃ!」
「あんの?」
「いやないが、軽度な放送魔法ならわしも使える。そして――」
わしの部下の目を、放送することができる。
魔王はそういうと、早速目を閉じて瞑想を始めた。むむむむ~っと精神を集中すると「はぁ!」と両手を空中にかざす。すると、ブオンという効果音とともに、何もない空間に視界が現れた。
缶詰を食べている骸骨やゾンビ、スライムたちの姿があった。
「お前ら! 備蓄と言っておるじゃろが! 食いすぎじゃ!」
『うげ、魔王様!? どうして心の中から!?』
どうやら、部下たちの中でも会話ができる者もいるらしい。そいつをピックアップをして監視カメラの代わりにしたということか。それにしても抜き打ちで上司がリモートで叱ってくるとか、恐怖でしかないな。
「命令じゃ! エントランスを見張るんじゃ!」
食べ物を全部たいらげ、骸骨らしき一体がガジャガジャと走る。VRゴーグルの映像を平面で見ている気分で少しは酔いそうだったが、紆余曲折を経て、俺が最初に来たエントランスにたどり着く。壺の置かれただだっ広いエントランスへ。
その景色は、ぽつねんと壺が置かれているだけで、本当に何もなかった。殺風景で壺がとても存在感を放っていた。透明なキラッとする何かがあるような気がするが、光の反射でガラスの破片か何かが映っているだけなのだろう。それ以外本当に何もなかった。
「何も、来てないな」
「ふぅ~、よかった~」
魔王城の無事が確認され、更に魔王の溜飲も下げることに成功する。取り敢えず大丈夫か。
「よしお前、わしらが戻るまでそこで壺を見張っとってくれ! 勇者とかに見つからんようにな!」
『承知しました!』
元気のいい返事をして、魔王城の骸骨は壁に隠れて見続ける。その映像をしばらく維持し、戻る算段を立てる。
「しかし、今戻る間に勇者と対峙しては監視する意味がありますまい。ここで体力を回復させたからのほうが良いかと存じます」
クスノは恭しく提案した。出来の良い部下で大変よろしいが、出来の悪い上司は刻一刻と迫るであろう壺への危機に、首肯しかねていた。
「いいじゃねぇかよ、実は俺結構体力使ってて腹減ってんだよなぁ」
と、俺はクスノにチラと視線を向ける。それだけで意図を察したのか、クスノがやれやれと笑む。
「そうですね、ここでジメット湿原の宝の真価をご覧に入れましょう。少々お待ちください」
そういうと、クスノ本体、つまりでかい木そのものが幹をベリベリと縦に割れた。あまりに大きな木なので、それだけでも地響きがする。まるで巨大な宝箱が開かれたようだ。そしてクスノ本体の中から、数粒の、人の頭ほどの大きさの種が出てきた。
「これが、宝か」
「左用でございます。通称~モモの種~」
クスノはその光り輝く種を体から取り出す。根っこによって耕した柔らかい土に、その種を埋めた。
すると、その埋めた穴からすぐににょきにょきと芽が出始めた。さながらジャックと豆の木のような、このまま天の向こうまで伸びるのではないかと思うほどの成長速度で、芽は無数の葉を作り、それらを支える茎は深緑色をさらに深め、幹にと言うほどの高度になっていく。
もう木と言っても差し支えないほどにまで成長したところで、その枝葉には、小さなつぼみが出来ていた。それでも成長は続き、そのつぼみが開き、ピンク色の、小さくも綺麗な花が咲き誇った。いつの間にか、ピンク色の花弁が周囲に散らされている。絵の中に入ったような幻風景に、息を呑んだ。
そして散っていった花のところから、細いラグビーボールのような物体が、小さなものからどんどんと大きく育っていく。それは枝をしなだれかからせるほど成長したところで、全体の木の成長が止まった。恐らく、時間でいうと3分ほどしかかかっていなかったのだが、それでも、命が誕生し命を生み出すその3分は、短いという感想よりは、儚く、しかし素晴らしいと言うべきだった。
「なんか、凄いな」
「そうですね、そう言って頂けると、彼もお喜びになることでしょう」
クスノのその表情は、俺達若者に向けるおじいちゃんのそれではなく、遠い遠い昔を懐かしむような、そんな笑顔だった。
もしかしたら魔王城に勇者が攻め込んでいるかもしれない。その可能性をクスノに提示されたわけだが、確かにそれはまずいだろう。
何がまずいって、そりゃあ……。
……。
「別に良くね? 俺たちここにいるわけだし」
「よかないわ! 壺がぁ! あのこそ泥勇者に壺取られるんじゃあ!」
ぴょんぴょんと低身長を俺の顔に近づけては離れ、近づけては離れしている魔王。お菓子売り場でこういうの見たことがあるな。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ! 壺取られるのは嫌なんじゃあ!」
どんだけ壺大事なんだよ。たとえ詐欺であの壺を売りつけたとしても、その詐欺師に罪悪感を抱かせる程の愛着を持ってしまっていた。
「つっても今の勇者って、宿屋で元気もりもり全快なんだろ? 流石に弱体化してるお前と俺達じゃ勝てないって、諦めろ」
「ぐすん」
このように涙でグシャグシャになっていた時に響いたのが、冒頭の「ぐるるるる~」だったのである。
いや、待てよ? 壺に関しても、もしかすると戻らなくてもいいんじゃないのか?
「おい、お前の放送魔法で魔王城の様子を映すことはできないか?」
それができれば、勇者達が来ているのかがわかる。ついでに壺の無事が分かれば魔王の溜飲も下がるという作戦だった。しかし神官の女子は難しそうな顔をする。
「いや無理でしょ、私から放送するんだから。馬鹿じゃないの? 隠しカメラを仕掛けてるならまだしも」
杖を取り上げて天にかざした。「返して~!」となきべそをかいているのはさておき、魔王が俺たちの会話を聞いて閃く。
「隠しカメラ! それじゃ!」
「あんの?」
「いやないが、軽度な放送魔法ならわしも使える。そして――」
わしの部下の目を、放送することができる。
魔王はそういうと、早速目を閉じて瞑想を始めた。むむむむ~っと精神を集中すると「はぁ!」と両手を空中にかざす。すると、ブオンという効果音とともに、何もない空間に視界が現れた。
缶詰を食べている骸骨やゾンビ、スライムたちの姿があった。
「お前ら! 備蓄と言っておるじゃろが! 食いすぎじゃ!」
『うげ、魔王様!? どうして心の中から!?』
どうやら、部下たちの中でも会話ができる者もいるらしい。そいつをピックアップをして監視カメラの代わりにしたということか。それにしても抜き打ちで上司がリモートで叱ってくるとか、恐怖でしかないな。
「命令じゃ! エントランスを見張るんじゃ!」
食べ物を全部たいらげ、骸骨らしき一体がガジャガジャと走る。VRゴーグルの映像を平面で見ている気分で少しは酔いそうだったが、紆余曲折を経て、俺が最初に来たエントランスにたどり着く。壺の置かれただだっ広いエントランスへ。
その景色は、ぽつねんと壺が置かれているだけで、本当に何もなかった。殺風景で壺がとても存在感を放っていた。透明なキラッとする何かがあるような気がするが、光の反射でガラスの破片か何かが映っているだけなのだろう。それ以外本当に何もなかった。
「何も、来てないな」
「ふぅ~、よかった~」
魔王城の無事が確認され、更に魔王の溜飲も下げることに成功する。取り敢えず大丈夫か。
「よしお前、わしらが戻るまでそこで壺を見張っとってくれ! 勇者とかに見つからんようにな!」
『承知しました!』
元気のいい返事をして、魔王城の骸骨は壁に隠れて見続ける。その映像をしばらく維持し、戻る算段を立てる。
「しかし、今戻る間に勇者と対峙しては監視する意味がありますまい。ここで体力を回復させたからのほうが良いかと存じます」
クスノは恭しく提案した。出来の良い部下で大変よろしいが、出来の悪い上司は刻一刻と迫るであろう壺への危機に、首肯しかねていた。
「いいじゃねぇかよ、実は俺結構体力使ってて腹減ってんだよなぁ」
と、俺はクスノにチラと視線を向ける。それだけで意図を察したのか、クスノがやれやれと笑む。
「そうですね、ここでジメット湿原の宝の真価をご覧に入れましょう。少々お待ちください」
そういうと、クスノ本体、つまりでかい木そのものが幹をベリベリと縦に割れた。あまりに大きな木なので、それだけでも地響きがする。まるで巨大な宝箱が開かれたようだ。そしてクスノ本体の中から、数粒の、人の頭ほどの大きさの種が出てきた。
「これが、宝か」
「左用でございます。通称~モモの種~」
クスノはその光り輝く種を体から取り出す。根っこによって耕した柔らかい土に、その種を埋めた。
すると、その埋めた穴からすぐににょきにょきと芽が出始めた。さながらジャックと豆の木のような、このまま天の向こうまで伸びるのではないかと思うほどの成長速度で、芽は無数の葉を作り、それらを支える茎は深緑色をさらに深め、幹にと言うほどの高度になっていく。
もう木と言っても差し支えないほどにまで成長したところで、その枝葉には、小さなつぼみが出来ていた。それでも成長は続き、そのつぼみが開き、ピンク色の、小さくも綺麗な花が咲き誇った。いつの間にか、ピンク色の花弁が周囲に散らされている。絵の中に入ったような幻風景に、息を呑んだ。
そして散っていった花のところから、細いラグビーボールのような物体が、小さなものからどんどんと大きく育っていく。それは枝をしなだれかからせるほど成長したところで、全体の木の成長が止まった。恐らく、時間でいうと3分ほどしかかかっていなかったのだが、それでも、命が誕生し命を生み出すその3分は、短いという感想よりは、儚く、しかし素晴らしいと言うべきだった。
「なんか、凄いな」
「そうですね、そう言って頂けると、彼もお喜びになることでしょう」
クスノのその表情は、俺達若者に向けるおじいちゃんのそれではなく、遠い遠い昔を懐かしむような、そんな笑顔だった。
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