転生王女のもふもふライフ 〜ひと目で尋常ではないモフモフだと見抜いたね〜

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

文字の大きさ
上 下
4 / 4

四章 冒険者ギルドへの報告と王城への帰還

しおりを挟む
「ただいま帰りましたよ!」
 冒険者ギルドに顔を出すなり、私は大声で言った。
「お早いお帰りですね。……って、その狼はなんですかっ!?」
 受付嬢のクリスさんが驚いた顔でそう言う。
「私の相棒のリルです! もふもふライフの第一歩を踏み出しました!!」
「わう!」
「えぇ……」
 彼女の顔が引きつった。
「も、もしかするとそれが依頼対象の狼型の魔物では……? 魔力反応も大きいですし……。Bランクといったところですか……」
 彼女が魔力を計測する魔道具を持ってそう言う。
「そういえば、そんな依頼もあったね。確か、討伐か調査だったっけ?」
「は、はい。しかし、まさか連れてくるとは……。というか、なぜ門番に止められていないのですかっ!?」
「うーん。何か言っていたような気もするけど、よく覚えていないなあ……」
 リルの移動を止められるような人たちじゃなかったし。
 素通りしたようなものだ。
「ま、いいじゃない。討伐か調査だけど、連れて帰ってきても依頼達成でいいでしょ?」
「は、はい。それは問題ありませんが……。くれぐれも、街の中で騒ぎを起こしたりしないでくださいね……」
「わかってるってばー」
 私は適当に返事をする。
 こうして、冒険者としての私の初任務は成功で終わったのだった。
「あ、そういえば……」
「まだ何か?」
「森の中でゴブリンキングを見かけたよ」
「……は?」
 クリスさんは固まった。
 そして、しばらくした後、再起動して叫んだ。
「ゴブリンキングですって!? それはマズイですよ……。一刻も早く討伐隊を編成しませんと……」
「あ、それなら大丈夫だよ」
 私はリルの頭を撫でながら言う。
「……え?」
「私が倒したから」
「…………はああぁーーーーーー!!?」
 彼女が絶叫した。
「な、何を言っているんですかあなたはっ!! Bランクのゴブリンキングを一人で倒すなんて不可能でしょう!?」
「本当だってば。ねぇ、リル?」
「わうっ!」
 私の言葉を聞いて、リルが鳴く。
「ほらね」
「ほらねって、そんな馬鹿な……」
 クリスさんが絶句する。
「本当に……倒したのですか?」
「うん。これが証拠」
 私はアイテムボックスからゴブリンキングの魔石を取り出して、カウンターの上に置いた。
「今のは希少な空間魔法!? それにこの魔石はっ!? た、確かに本物みたいです……!」
 彼女が混乱気味にそう言う。
「一体どうやって?」
「えっと、剣でこうスパパッと。リルも手伝ってくれたしね」
 私はゴブリンキングを倒した時のことを思い出しながら、説明した。
「そんなことが可能なのですか……? いえ、実際に魔石を提出されてしまった以上信じるしかないのですが……」
 クリスさんはまだ信じられない様子だ。
「それで、どうなるの? もしかして、ランクアップとかある?」
「ありますとも! EランクからDランク……いえ、Cランクまで上げておきましょう!」
「やったー!!」
 Cランクになれば一人前の冒険者と言ってもいいだろう。
 モフモフに関する情報も多く集まってくるはず。
 私のもふもふライフは、ようやくスタートラインに立ったのだ。
「でも、そんなにいきなり上げてもいいの?」
「Dランクまでは受付嬢の判断に一任されておりますので、まったく問題ありません。Cランクへの昇格も、やや例外的ですが権限逸脱というほどのものでもありません。有望な新人が現れて早急なランクアップが必要と判断した場合などに対して、柔軟に対応する権限がありますので」
「なるほど~」
 冒険者ギルドというのは、私が思っていた以上に柔軟な組織らしい。
「それに、今朝彼らを一蹴したときからノアさんの強さは認めていました」
 受付嬢がそう言って、横に視線を向ける。
「彼ら?」
 私もつられてそちらを見た。
「……何やってんの?」
 そこにはまだ氷漬け状態の冒険者がいた。
 今朝私に絡んできた奴らのリーダー格だ。
 確か、名前はダストンだったかな?
 周りには、彼の仲間もいる。
 こちらは氷漬け状態から解放されている。
「あ、兄貴ぃ! あと少しで完全に溶けやすぜ!」
「は、早くしろ……! もう限界だ……!!」
 彼の仲間たちが火魔法を発動したり、氷をこすったりしている。
 ダストンの氷を少しでも早く溶かそうとしているようだ。
「限界って? 私の氷結牢獄は、体に害はないはずだけど……」
 私はそう話しかける。
 そういうコンセプトで創った魔法だ。
 体が凍傷になったりはしない。
「ひっ! で、出たあ!!」
 彼らが悲鳴を上げる。
 まるでバケモノを見るような目つきでこちらを見ている。
 失礼な連中だ。
「ダストンさんの氷だけ、溶けるのが遅いみたいで……」
 クリスさんがそう言う。
「へぇー」
 私は興味深げにその様子を見つめる。
 適切に魔法の出力を調整したはずだけど、一人だけ溶けるのが遅いなんて。
「もしかしたら、直前に肉体へダメージを負わせていた影響かなあ」
 ダストンにだけは、私のパンチを食らわせた後で魔法を放った。
 それ以外の者へは、初手がこの氷結牢獄だ。
 ダストンの魔法抵抗力は、一時的に減衰していた可能性がある。
「私の魔法制御もまだまだ甘いなあ……」
 もふもふライフのためにも、もっと上を目指さないと。
「そ、そんなことはいい! 早く解除してくれえぇ!」
 リーダー格がそう叫ぶ。
「ええー。放っておいてもそのうち溶けると思うけど……。人体に害はないでしょ?」
「…………なんだ」
「え?」
「漏れそうなんだよおおぉっ!!!」
 ダストンが絶叫した。
「ああ、そっか」
 凍傷は防いでも、尿意までは抑えられない。
 そこへの配慮もまだまだだね。
 仕方ない。
「氷結牢獄解除」
 私は彼にかけていた魔法を解除した。
「はあっ……! た、助かった……! 急いでトイレに……っ!?」
 彼は水から上がった人のように息を吐き、そして、そのまま漏らした。
 安堵のあまり油断してしまったのだろう。
「ぎゃああぁっ!! 見るなあっ! 見ないでくれえぇっ!!!」
 彼の絶叫が冒険者ギルド内に響いた。
 オッサンのお漏らしシーンなんて、誰得だよ……。

******

「知ーらないっと」
 私はこっそりと冒険者ギルドから脱出し、王城へと向かう。
 クリスさんが何か言っていたが気にしない。
 こういう後始末の彼女の仕事だろう。
 たぶん。
 それに、これから私は忙しくなるのだ。
 リルに乗って、風のような速さで駆ける。
 すぐに王城に着いた。
「これはこれは。お帰りなさいませ。ノア様」
 門番の騎士が敬礼する。
「ただいま。父上はどこに?」
「執務室においでです」
「ありがとう!」
 私は騎士に挨拶して、城内へと入る。
 成人して初日の成果を、しっかりと父上にも報告しておかないとね。
「父上、戻りました。入ります」
「うむ」
 私は父上の返事を確認してから、扉を開ける。
 部屋の中に入ると、机に山積みになった書類を前に、父上がペンを走らせていた。
 傍らには母上もいる。
 仕事を手伝っているようだ。
「どうだった?」
 父上が顔を上げずに聞いてくる。
「はい! さっそく森でモフモフの子と仲良くなりました!」
「わふっ!」
 私の声に、リルが被せる。
「モフモフ? 相変わらず何をわけの分からないことを……。って、なんだそれはあああぁっ!?」
 ようやく視線を上げた父は、私の後ろにいたものを見て驚愕の表情を浮かべる。
「狼です」
「見れば分かる! 大きすぎるだろ! 魔力の反応も大きい! なぜそんなものを連れてきたんだっ!?」
「森の中で一匹でいたところを保護しました。迷い狼かもしれません」
「迷い狼なわけあるか! 魔物だろそれ! 危険だ!」
「いえ、ちゃんと意思疎通はできます。ほら、リル。『わん』って言ってみて?」
「わんっ!」
 リルは私の指示通り、元気よく吠えた。
「お、おお……! ま、まさか本当に言葉を理解しているのか?」
「はい。私とリルの絆は強いのです」
「……。そ、そうか。わかった。それが今日の成果か」
「そうですね。あと、ゴブリンキングを見かけたので倒しておきました。もちろん一人でです。あ、いや。リルと二人でですね」
「…………」
 私がそう言うと、父は再び沈黙した。
「ノアよ。お前が優秀であることはよく知っている。だが、もう少し常識というものを覚えてくれ……」
「え? でも、普通のことですよね? ゴブリンキングを倒すくらい」
「普通じゃない。ゴブリンキングといえば、国軍の小隊あるいは中隊で対処にあたるような魔物だぞ」
「そうなんですね」
「そうなんですね、ではない。はあ……。まあいい。害のある魔物を討伐できたのは、民のためにもなる。これ以上の小言はやめておこう」
 そう言いながら、父はため息をつく。
「ところで、兄や姉には会っていないのか?」
「ええっと……。今日は顔を見ていませんね」
 同じ城に住んでいるので、普段なら顔を合わせる機会はいくらでもある。
 しかし王族として多忙な日々を送っている兄や姉は、タイミング次第では数日間顔を見ないこともある。
「奴らはノアが成人する日を待っておったぞ。明日以降でいいから、一度顔を見せてやれ」
「はいっ! 分かりました!」
 モフモフに繋がる情報を持っているかもしれない。
 期待したいな~。
「よおしっ! 明日に備えて休みますね! ではっ!」
 私は父上に一礼して部屋を出た。
「こらっ! 話はまだ……」
「うふふ。いいじゃないですか。ノアが楽しそうで何よりです」
 閉まる扉の向こうから、父上と母上のそんな声が聞こえた。
 私はウキウキしながら、王城の廊下をスキップで駆けていく。
 私のもふもふライフは、ついに始まったのだ。
 胸の高鳴りを抑えきれない。
「待っててね。まだ見ぬモフモフちゃんたち!」
「わふっ!」
 私はリルと共に、さらなるモフモフを求めて突き進んでいくことになる。
 私の戦いはまだまだ始まったばかりだ!!!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...