3 / 4
三章 リルとの再会とゴブリンキング討伐
しおりを挟む
私は今、森の中を歩いている。
「この辺りかな?」
私は立ち止まって周りを見る。
ここはまだ、王都近郊にある比較的安全なエリアだ。
もちろん、油断は禁物だけど。
今のところは何もいないみたいだ。
「それじゃあ、早速やってみよう!」
私は右手を前に出して集中する。
すると、手の先に魔法陣が展開される。
これは、魔力操作の訓練によって身につけた力だ。
前世では魔力量が足りずにうまく発動できなかったが、今のこの体ならまったく問題なく発動できる。
「魔力探査」
私を中心に半径百メートルほどの空間に、魔力反応があるかどうかを調べる魔法だ。
「あ、いた。あれかな?」
私は対象に近づいていく。
そこには、体長数メートルはあろうかという狼がいた。
「わぁ~! モフモフだ~」
その毛皮は艶々とした薄い青色で、見ているだけでモフモフの触感が伝わってくるようだ。
私はゆっくりとその魔物に近づいていく。
パキッ。
足元で枝が折れる音が響く。
「グルルルゥ」
その音に気づいたのか、その青い魔獣はこちらに顔を向ける。
そして、いきなり飛びかかろうとしてきた。
「おっと」
私はそれをひらりとかわす。
しかし、その攻撃は終わらなかった。
「ガウッ!」
その魔獣はさらに連続で攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ちょっ! 待っ! 危ないってば!」
私は必死で避ける。
しかし、その攻撃を一発食らってしまった。
「きゃあっ!」
私はバランスを崩して地面に倒れ込む。
そこへ、さらに追撃が来る。
「も~! おイタはダメだよ?」
ガシッ!
私は、その攻撃を受け止めて優しく諭すように言う。
「ガウ!?」
さすがに自分の攻撃が受け止められることは予想外だったのだろう。
驚いた様子で私のことを見つめている。
「ほら、大丈夫だから。何もしないよ」
そう言って私は微笑みかける。
「ガルル……」
彼はしばらく私の様子を見ていた。
そして、私が敵意を全く見せないので安心したらしい。
私の方に顔を近づけてきて、スンスンとその匂いを嗅ぎ始めた。
「ふふっ。くすぐったいよ」
私は笑いながら身を捩る。
そして、そのままの姿勢でそっと囁いてみた。
「おいで? いっぱいなでなでしてあげるから」
「……ワフッ」
どうやら、私の言葉を理解してくれたみたいだ。
彼は静かに伏せの体勢になり、頭をこちらに差し出してくる。
「よしよし。いい子だね」
私はまず、彼の背中を撫でてみる。
……おお!
素晴らしい手触りだ。
まるで上質な毛布のように柔らかく滑らかだ。
私は夢中になって、なで続ける。
「あぁ……癒される……」
こんなにも心地よい感触は初めてだ。
私は思わず声に出してしまう。
「グルル」
そんな私を見て、彼もまた嬉しそうな表情を浮かべる。
これが初対面とは思えないリラックスっぷりだ。
私と彼は、運命的な波長で繋がっているようにも思える。
相性抜群だ。
「そうだ! 名前をつけないと!」
私は彼に話しかけながら考える。
体毛が青っぽいから……瑠璃?
いや、ちょっと女の子っぽい感じになっちゃうな。
なら……。
「決めたよ! あなたのお名前は、リルね! よろしく、リル!」
「わふっ!」
リルも気に入ってくれたようだ。
彼が無邪気に吠える。
その瞬間。
ズキッ!
私を頭痛が襲った。
なんだか、以前にもこんなやり取りがあったような……。
私は前世の記憶を持っているが、断片的なものが多い。
前世の自分の名前や家族の有無、それにモフモフたちの記憶は欠けている。
モフモフが好きだったことだけは覚えているんだけど……。
私は不思議に思いながらも、今はこの幸せを堪能することにした。
「それじゃあ、次はブラッシングだね!」
私はアイテムボックスの中からブラシを取り出す。
これはギルドの売店で買ってきたものだ。
「はい、座って?」
「グルルゥ」
リルが素直に従う。
よしよし、良い子だ。
私は彼を膝の上に乗せると、丁寧にブラッシングを始める。
「気持ちいい?」
「わんっ!」
「それは良かった!」
私は満面の笑みで答える。
あぁ、可愛い。
この世界に来て初めて見つけた、心安まるモフモフの時間だ。
それからしばらくの間、私たちは森の中でじゃれ合っていた。
******
「はぁ~、楽しかったぁ~」
私はすっかり満足していた。
「でも、結構時間が経っちゃったかも?」
空を見上げると、太陽の位置が高くなっていた。
「早く戻らないと、また怒られちゃう」
私は少し慌てて駆け出す。
もちろん、リルもいっしょだ。
きちんと私に懐いていることを見せれば、街に入ることも可能なはず。
「わふっ!」
「乗せてくれるの? ありがとう!」
リルのお言葉に甘えて、私はその背に乗ることにした。
「乗り心地も最高!」
狼型の魔物だけあって、走るスピードはかなり速い。
それに何だか、最初に会った頃よりも彼から立ち上る魔力が増しているような気がする。
毛並みも段違いにいい。
ブラッシングの効果だろうか?
毛並みを整えただけなのに?
私の愛が通じたのかもしれないな~。
さすが私!
そんなことを考えつつ、リルの背中の乗り心地を堪能させてもらう。
本当に速い。
これなら、すぐに森から抜けられるはずだ。
しかし、そう思っていた時だった。
「グルルルゥ」
突然、リルが立ち止まったのだ。
「え? どうしたの?」
私は驚いて尋ねる。
すると、その答えはすぐにわかった。
ガサガサッ。
茂みをかき分けて、巨大な影が現れる。
「グオオォッ!!」
現れたのは、体長五メートルはあるかという魔物だった。
こいつは……。
「ゴブリン……。いや、ゴブリンキング……?」
その姿を見て、私はつぶやく。
「グルル……」
リルはその鋭い牙を見せて威嚇している。
ゴブリンキングはBランクの魔物だ。
「どうして、こんなところに……。」
ここは王都の近郊の森だ。
一定数の魔物が生息している。
リルのように人に害があるか不明な魔物は調査依頼から始まる。
しかしゴブリン系統の魔物は、人類共通の敵とみなされている。
人を襲い、女を犯し、作物を荒らす。
さらには繁殖力が強くてすぐに増える。
そのため、優先的に討伐がされているのだ。
だから、この辺りには滅多に出ないはずだった。
「……どうしよう」
私はリルをチラリと見る。
「ガルル……」
彼はやる気だ。
ゴブリンキングは強いだろうけど、リルも同じくらい強いかもしれない。
「大丈夫かな……?」
私が心配しても仕方がない。
でも、万が一ということもある。
私はいつでも魔法が使えるように身構える。
「グルルッ!」
先に動いたのはリルの方だった。
一気に距離を詰めると、爪で切り裂く。
「グオォ!」
だが、相手もただ黙って切られてはいない。
手に持っていた棍棒を振り回して、リルを追い払おうとする。
「リル! 危ないっ!」
私は思わず叫んでしまう。
だが、次の瞬間。
「ワフッ」
リルが余裕を持ってその攻撃を避けていた。
「すごい……」
Bランクの魔物の攻撃を避けるなんて……。
リルはさらに距離を取ると、今度はブレスを吐いた。
氷のブレスだ。
リルは氷属性持ちらしい。
体毛も青系統だしね。
「グオォ!?」
まともに食らったゴブリンキングの動きが止まる。
リルはそのまま追撃をする。
「ガウウッ!」
「ガアァ!」
リルの容赦のない攻撃により、ゴブリンキングにダメージが蓄積していく。
この調子なら勝てるかも……。
「ガアアアアァッ!!!」
と思ったのだが、ゴブリンキングが突然大きな叫び声を上げた。
そして、周囲からたくさんの魔物が近づいてくる気配を感じる。
奴の配下のゴブリンたちのようだ。
……まずい!
リルがいくら強くても、さすがに多勢に無勢だ。
「「ギャオオォッ!」」
ゴブリンたちがリルを取り囲み、威嚇する。
「ガルルッ!」
リルが必死に応戦しようとしているけど……。
「大丈夫だよ。リルは下がっていてね」
私は前に一歩踏み出す。
そして……。
「氷結地獄」
唱えたのは上級魔法の呪文だ。
たちまち地面から冷気が溢れ出す。
「「ギャッ」」
「「ガアッ!」」
ゴブリンたちは一瞬にして凍りつく。
この程度の魔物なら、何匹いても問題ない。
私はさらに魔法を唱える。
「氷柱乱舞」
すると、氷漬けのゴブリンを囲むようにして無数の氷の柱が生成される。
「行け!」
私の指示に従って、氷柱がゴブリンたちを襲う。
「「「ギャオオォッ!!!」」」
「よしっ!」
ゴブリンたちは全て息絶えた。
魔力によって形成されていた体が霧散し、魔石が残される。
「後は、君だけだね」
私はゴブリンキングに向かって言う。
「グウゥゥ……」
ゴブリンキングが怯えるように後ずさる。
そして、背中を見せると逃げ出した。
だけど……。
「私から逃げられるわけないじゃん」
私は闘気を開放し、超速でゴブリンキングの行く手に立ち塞がる。
懐から剣を抜く。
父上からいただいた、氷結蒼刃だ。
「覚悟はいい?」
私はその剣を横から薙ぎ払う。
剣の心得はそれなりにある。
王城に剣術の家庭教師を招いて、剣術の手ほどきを受けたことがあるからだ。
それに、剣技大会にも出場した。
私は魔法だけの女じゃないのだ。
モフモフのために、ひと通りのことは修めている。
「覇王一閃」
私の一撃は、見事にゴブリンキングを両断した。
程なくして奴の体が霧散し、魔石が残される。
一応回収しておく。
「ふぅー。終わったよ、リル!」
振り返ってリルに声をかけると、彼はお座りをして待っていた。
「わうっ!」
リルが尻尾を振っている。
褒めてほしいらしい。
確かに、彼の戦闘も見事だった。
途中で獲物を横取りした形になったのは少し悪かったかもしれない。
それにしても、かわいいなぁもう!
「よくやったね! えらいぞ、リル」
そう言って、彼の頭を撫でてやる。
すると、リルは気持ち良さそうな顔をする。
私はそんな彼を抱きしめて、思う存分モフモフしてあげた。
「ねえ、リル? 君はどうやってここに来たのかな?」
この森は、王都の近郊にある。
生態系保護のため魔物を狩り尽くしたりはしていないが、ゴブリンなど明確に害のある魔物は優先的に討伐されている。
そして、リルのような大型の魔物は綿密に調査をして討伐・保護・観察などの対応策が取られる。
つい最近まで目撃情報がなかったということは、どこかから移り住んできた可能性が高い。
「……ワフ?」
首を傾げられた。
「あ、そっか。わからないよね……」
リルはただの狼ではないみたいだし、何か特別な事情があったのかもしれない。
彼にはどことなく懐かしさのようなものを覚える。
もしかして、前世で何か関わっていたのかなあ……。
彼の方も、私の魔力や気配に懐かしさを覚えてここまで来てくれたのなら嬉しいな。
ま、前世のことを考えるのはこれぐらいでいいか。
あんまり考えすぎると、頭痛に襲われるし。
「とにかく帰ろうか」
私はリルの背中に乗る。
「ワフッ」
リルが走り出した。
やっぱり速い。
みるみるうちに王都に近づいていく。
「この辺りかな?」
私は立ち止まって周りを見る。
ここはまだ、王都近郊にある比較的安全なエリアだ。
もちろん、油断は禁物だけど。
今のところは何もいないみたいだ。
「それじゃあ、早速やってみよう!」
私は右手を前に出して集中する。
すると、手の先に魔法陣が展開される。
これは、魔力操作の訓練によって身につけた力だ。
前世では魔力量が足りずにうまく発動できなかったが、今のこの体ならまったく問題なく発動できる。
「魔力探査」
私を中心に半径百メートルほどの空間に、魔力反応があるかどうかを調べる魔法だ。
「あ、いた。あれかな?」
私は対象に近づいていく。
そこには、体長数メートルはあろうかという狼がいた。
「わぁ~! モフモフだ~」
その毛皮は艶々とした薄い青色で、見ているだけでモフモフの触感が伝わってくるようだ。
私はゆっくりとその魔物に近づいていく。
パキッ。
足元で枝が折れる音が響く。
「グルルルゥ」
その音に気づいたのか、その青い魔獣はこちらに顔を向ける。
そして、いきなり飛びかかろうとしてきた。
「おっと」
私はそれをひらりとかわす。
しかし、その攻撃は終わらなかった。
「ガウッ!」
その魔獣はさらに連続で攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ちょっ! 待っ! 危ないってば!」
私は必死で避ける。
しかし、その攻撃を一発食らってしまった。
「きゃあっ!」
私はバランスを崩して地面に倒れ込む。
そこへ、さらに追撃が来る。
「も~! おイタはダメだよ?」
ガシッ!
私は、その攻撃を受け止めて優しく諭すように言う。
「ガウ!?」
さすがに自分の攻撃が受け止められることは予想外だったのだろう。
驚いた様子で私のことを見つめている。
「ほら、大丈夫だから。何もしないよ」
そう言って私は微笑みかける。
「ガルル……」
彼はしばらく私の様子を見ていた。
そして、私が敵意を全く見せないので安心したらしい。
私の方に顔を近づけてきて、スンスンとその匂いを嗅ぎ始めた。
「ふふっ。くすぐったいよ」
私は笑いながら身を捩る。
そして、そのままの姿勢でそっと囁いてみた。
「おいで? いっぱいなでなでしてあげるから」
「……ワフッ」
どうやら、私の言葉を理解してくれたみたいだ。
彼は静かに伏せの体勢になり、頭をこちらに差し出してくる。
「よしよし。いい子だね」
私はまず、彼の背中を撫でてみる。
……おお!
素晴らしい手触りだ。
まるで上質な毛布のように柔らかく滑らかだ。
私は夢中になって、なで続ける。
「あぁ……癒される……」
こんなにも心地よい感触は初めてだ。
私は思わず声に出してしまう。
「グルル」
そんな私を見て、彼もまた嬉しそうな表情を浮かべる。
これが初対面とは思えないリラックスっぷりだ。
私と彼は、運命的な波長で繋がっているようにも思える。
相性抜群だ。
「そうだ! 名前をつけないと!」
私は彼に話しかけながら考える。
体毛が青っぽいから……瑠璃?
いや、ちょっと女の子っぽい感じになっちゃうな。
なら……。
「決めたよ! あなたのお名前は、リルね! よろしく、リル!」
「わふっ!」
リルも気に入ってくれたようだ。
彼が無邪気に吠える。
その瞬間。
ズキッ!
私を頭痛が襲った。
なんだか、以前にもこんなやり取りがあったような……。
私は前世の記憶を持っているが、断片的なものが多い。
前世の自分の名前や家族の有無、それにモフモフたちの記憶は欠けている。
モフモフが好きだったことだけは覚えているんだけど……。
私は不思議に思いながらも、今はこの幸せを堪能することにした。
「それじゃあ、次はブラッシングだね!」
私はアイテムボックスの中からブラシを取り出す。
これはギルドの売店で買ってきたものだ。
「はい、座って?」
「グルルゥ」
リルが素直に従う。
よしよし、良い子だ。
私は彼を膝の上に乗せると、丁寧にブラッシングを始める。
「気持ちいい?」
「わんっ!」
「それは良かった!」
私は満面の笑みで答える。
あぁ、可愛い。
この世界に来て初めて見つけた、心安まるモフモフの時間だ。
それからしばらくの間、私たちは森の中でじゃれ合っていた。
******
「はぁ~、楽しかったぁ~」
私はすっかり満足していた。
「でも、結構時間が経っちゃったかも?」
空を見上げると、太陽の位置が高くなっていた。
「早く戻らないと、また怒られちゃう」
私は少し慌てて駆け出す。
もちろん、リルもいっしょだ。
きちんと私に懐いていることを見せれば、街に入ることも可能なはず。
「わふっ!」
「乗せてくれるの? ありがとう!」
リルのお言葉に甘えて、私はその背に乗ることにした。
「乗り心地も最高!」
狼型の魔物だけあって、走るスピードはかなり速い。
それに何だか、最初に会った頃よりも彼から立ち上る魔力が増しているような気がする。
毛並みも段違いにいい。
ブラッシングの効果だろうか?
毛並みを整えただけなのに?
私の愛が通じたのかもしれないな~。
さすが私!
そんなことを考えつつ、リルの背中の乗り心地を堪能させてもらう。
本当に速い。
これなら、すぐに森から抜けられるはずだ。
しかし、そう思っていた時だった。
「グルルルゥ」
突然、リルが立ち止まったのだ。
「え? どうしたの?」
私は驚いて尋ねる。
すると、その答えはすぐにわかった。
ガサガサッ。
茂みをかき分けて、巨大な影が現れる。
「グオオォッ!!」
現れたのは、体長五メートルはあるかという魔物だった。
こいつは……。
「ゴブリン……。いや、ゴブリンキング……?」
その姿を見て、私はつぶやく。
「グルル……」
リルはその鋭い牙を見せて威嚇している。
ゴブリンキングはBランクの魔物だ。
「どうして、こんなところに……。」
ここは王都の近郊の森だ。
一定数の魔物が生息している。
リルのように人に害があるか不明な魔物は調査依頼から始まる。
しかしゴブリン系統の魔物は、人類共通の敵とみなされている。
人を襲い、女を犯し、作物を荒らす。
さらには繁殖力が強くてすぐに増える。
そのため、優先的に討伐がされているのだ。
だから、この辺りには滅多に出ないはずだった。
「……どうしよう」
私はリルをチラリと見る。
「ガルル……」
彼はやる気だ。
ゴブリンキングは強いだろうけど、リルも同じくらい強いかもしれない。
「大丈夫かな……?」
私が心配しても仕方がない。
でも、万が一ということもある。
私はいつでも魔法が使えるように身構える。
「グルルッ!」
先に動いたのはリルの方だった。
一気に距離を詰めると、爪で切り裂く。
「グオォ!」
だが、相手もただ黙って切られてはいない。
手に持っていた棍棒を振り回して、リルを追い払おうとする。
「リル! 危ないっ!」
私は思わず叫んでしまう。
だが、次の瞬間。
「ワフッ」
リルが余裕を持ってその攻撃を避けていた。
「すごい……」
Bランクの魔物の攻撃を避けるなんて……。
リルはさらに距離を取ると、今度はブレスを吐いた。
氷のブレスだ。
リルは氷属性持ちらしい。
体毛も青系統だしね。
「グオォ!?」
まともに食らったゴブリンキングの動きが止まる。
リルはそのまま追撃をする。
「ガウウッ!」
「ガアァ!」
リルの容赦のない攻撃により、ゴブリンキングにダメージが蓄積していく。
この調子なら勝てるかも……。
「ガアアアアァッ!!!」
と思ったのだが、ゴブリンキングが突然大きな叫び声を上げた。
そして、周囲からたくさんの魔物が近づいてくる気配を感じる。
奴の配下のゴブリンたちのようだ。
……まずい!
リルがいくら強くても、さすがに多勢に無勢だ。
「「ギャオオォッ!」」
ゴブリンたちがリルを取り囲み、威嚇する。
「ガルルッ!」
リルが必死に応戦しようとしているけど……。
「大丈夫だよ。リルは下がっていてね」
私は前に一歩踏み出す。
そして……。
「氷結地獄」
唱えたのは上級魔法の呪文だ。
たちまち地面から冷気が溢れ出す。
「「ギャッ」」
「「ガアッ!」」
ゴブリンたちは一瞬にして凍りつく。
この程度の魔物なら、何匹いても問題ない。
私はさらに魔法を唱える。
「氷柱乱舞」
すると、氷漬けのゴブリンを囲むようにして無数の氷の柱が生成される。
「行け!」
私の指示に従って、氷柱がゴブリンたちを襲う。
「「「ギャオオォッ!!!」」」
「よしっ!」
ゴブリンたちは全て息絶えた。
魔力によって形成されていた体が霧散し、魔石が残される。
「後は、君だけだね」
私はゴブリンキングに向かって言う。
「グウゥゥ……」
ゴブリンキングが怯えるように後ずさる。
そして、背中を見せると逃げ出した。
だけど……。
「私から逃げられるわけないじゃん」
私は闘気を開放し、超速でゴブリンキングの行く手に立ち塞がる。
懐から剣を抜く。
父上からいただいた、氷結蒼刃だ。
「覚悟はいい?」
私はその剣を横から薙ぎ払う。
剣の心得はそれなりにある。
王城に剣術の家庭教師を招いて、剣術の手ほどきを受けたことがあるからだ。
それに、剣技大会にも出場した。
私は魔法だけの女じゃないのだ。
モフモフのために、ひと通りのことは修めている。
「覇王一閃」
私の一撃は、見事にゴブリンキングを両断した。
程なくして奴の体が霧散し、魔石が残される。
一応回収しておく。
「ふぅー。終わったよ、リル!」
振り返ってリルに声をかけると、彼はお座りをして待っていた。
「わうっ!」
リルが尻尾を振っている。
褒めてほしいらしい。
確かに、彼の戦闘も見事だった。
途中で獲物を横取りした形になったのは少し悪かったかもしれない。
それにしても、かわいいなぁもう!
「よくやったね! えらいぞ、リル」
そう言って、彼の頭を撫でてやる。
すると、リルは気持ち良さそうな顔をする。
私はそんな彼を抱きしめて、思う存分モフモフしてあげた。
「ねえ、リル? 君はどうやってここに来たのかな?」
この森は、王都の近郊にある。
生態系保護のため魔物を狩り尽くしたりはしていないが、ゴブリンなど明確に害のある魔物は優先的に討伐されている。
そして、リルのような大型の魔物は綿密に調査をして討伐・保護・観察などの対応策が取られる。
つい最近まで目撃情報がなかったということは、どこかから移り住んできた可能性が高い。
「……ワフ?」
首を傾げられた。
「あ、そっか。わからないよね……」
リルはただの狼ではないみたいだし、何か特別な事情があったのかもしれない。
彼にはどことなく懐かしさのようなものを覚える。
もしかして、前世で何か関わっていたのかなあ……。
彼の方も、私の魔力や気配に懐かしさを覚えてここまで来てくれたのなら嬉しいな。
ま、前世のことを考えるのはこれぐらいでいいか。
あんまり考えすぎると、頭痛に襲われるし。
「とにかく帰ろうか」
私はリルの背中に乗る。
「ワフッ」
リルが走り出した。
やっぱり速い。
みるみるうちに王都に近づいていく。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる