転生王女のもふもふライフ 〜ひと目で尋常ではないモフモフだと見抜いたね〜

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

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三章 リルとの再会とゴブリンキング討伐

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 私は今、森の中を歩いている。
「この辺りかな?」
 私は立ち止まって周りを見る。
 ここはまだ、王都近郊にある比較的安全なエリアだ。
 もちろん、油断は禁物だけど。
 今のところは何もいないみたいだ。
「それじゃあ、早速やってみよう!」
 私は右手を前に出して集中する。
 すると、手の先に魔法陣が展開される。
 これは、魔力操作の訓練によって身につけた力だ。
 前世では魔力量が足りずにうまく発動できなかったが、今のこの体ならまったく問題なく発動できる。
「魔力探査」
 私を中心に半径百メートルほどの空間に、魔力反応があるかどうかを調べる魔法だ。
「あ、いた。あれかな?」
 私は対象に近づいていく。
 そこには、体長数メートルはあろうかという狼がいた。
「わぁ~! モフモフだ~」
 その毛皮は艶々とした薄い青色で、見ているだけでモフモフの触感が伝わってくるようだ。
 私はゆっくりとその魔物に近づいていく。
 パキッ。
 足元で枝が折れる音が響く。
「グルルルゥ」
 その音に気づいたのか、その青い魔獣はこちらに顔を向ける。
 そして、いきなり飛びかかろうとしてきた。
「おっと」
 私はそれをひらりとかわす。
 しかし、その攻撃は終わらなかった。
「ガウッ!」
 その魔獣はさらに連続で攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ちょっ! 待っ! 危ないってば!」
 私は必死で避ける。
 しかし、その攻撃を一発食らってしまった。
「きゃあっ!」
 私はバランスを崩して地面に倒れ込む。
 そこへ、さらに追撃が来る。
「も~! おイタはダメだよ?」
 ガシッ!
 私は、その攻撃を受け止めて優しく諭すように言う。
「ガウ!?」
 さすがに自分の攻撃が受け止められることは予想外だったのだろう。
 驚いた様子で私のことを見つめている。
「ほら、大丈夫だから。何もしないよ」
 そう言って私は微笑みかける。
「ガルル……」
 彼はしばらく私の様子を見ていた。
 そして、私が敵意を全く見せないので安心したらしい。
 私の方に顔を近づけてきて、スンスンとその匂いを嗅ぎ始めた。
「ふふっ。くすぐったいよ」
 私は笑いながら身を捩る。
 そして、そのままの姿勢でそっと囁いてみた。
「おいで? いっぱいなでなでしてあげるから」
「……ワフッ」
 どうやら、私の言葉を理解してくれたみたいだ。
 彼は静かに伏せの体勢になり、頭をこちらに差し出してくる。
「よしよし。いい子だね」
 私はまず、彼の背中を撫でてみる。
 ……おお!
 素晴らしい手触りだ。
 まるで上質な毛布のように柔らかく滑らかだ。
 私は夢中になって、なで続ける。
「あぁ……癒される……」
 こんなにも心地よい感触は初めてだ。
 私は思わず声に出してしまう。
「グルル」
 そんな私を見て、彼もまた嬉しそうな表情を浮かべる。
 これが初対面とは思えないリラックスっぷりだ。
 私と彼は、運命的な波長で繋がっているようにも思える。
 相性抜群だ。
「そうだ! 名前をつけないと!」
 私は彼に話しかけながら考える。
 体毛が青っぽいから……瑠璃?
 いや、ちょっと女の子っぽい感じになっちゃうな。
 なら……。
「決めたよ! あなたのお名前は、リルね! よろしく、リル!」
「わふっ!」
 リルも気に入ってくれたようだ。
 彼が無邪気に吠える。
 その瞬間。
 ズキッ!
 私を頭痛が襲った。
 なんだか、以前にもこんなやり取りがあったような……。
 私は前世の記憶を持っているが、断片的なものが多い。
 前世の自分の名前や家族の有無、それにモフモフたちの記憶は欠けている。
 モフモフが好きだったことだけは覚えているんだけど……。
 私は不思議に思いながらも、今はこの幸せを堪能することにした。
「それじゃあ、次はブラッシングだね!」
 私はアイテムボックスの中からブラシを取り出す。
 これはギルドの売店で買ってきたものだ。
「はい、座って?」
「グルルゥ」
 リルが素直に従う。
 よしよし、良い子だ。
 私は彼を膝の上に乗せると、丁寧にブラッシングを始める。
「気持ちいい?」
「わんっ!」
「それは良かった!」
 私は満面の笑みで答える。
 あぁ、可愛い。
 この世界に来て初めて見つけた、心安まるモフモフの時間だ。
 それからしばらくの間、私たちは森の中でじゃれ合っていた。

******

「はぁ~、楽しかったぁ~」
 私はすっかり満足していた。
「でも、結構時間が経っちゃったかも?」
 空を見上げると、太陽の位置が高くなっていた。
「早く戻らないと、また怒られちゃう」
 私は少し慌てて駆け出す。
 もちろん、リルもいっしょだ。
 きちんと私に懐いていることを見せれば、街に入ることも可能なはず。
「わふっ!」
「乗せてくれるの? ありがとう!」
 リルのお言葉に甘えて、私はその背に乗ることにした。
「乗り心地も最高!」
 狼型の魔物だけあって、走るスピードはかなり速い。
 それに何だか、最初に会った頃よりも彼から立ち上る魔力が増しているような気がする。
 毛並みも段違いにいい。
 ブラッシングの効果だろうか?
 毛並みを整えただけなのに?
 私の愛が通じたのかもしれないな~。
 さすが私!
 そんなことを考えつつ、リルの背中の乗り心地を堪能させてもらう。
 本当に速い。
 これなら、すぐに森から抜けられるはずだ。
 しかし、そう思っていた時だった。
「グルルルゥ」
 突然、リルが立ち止まったのだ。
「え? どうしたの?」
 私は驚いて尋ねる。
 すると、その答えはすぐにわかった。
 ガサガサッ。
 茂みをかき分けて、巨大な影が現れる。
「グオオォッ!!」
 現れたのは、体長五メートルはあるかという魔物だった。
 こいつは……。
「ゴブリン……。いや、ゴブリンキング……?」
 その姿を見て、私はつぶやく。
「グルル……」
 リルはその鋭い牙を見せて威嚇している。
 ゴブリンキングはBランクの魔物だ。
「どうして、こんなところに……。」
 ここは王都の近郊の森だ。
 一定数の魔物が生息している。
 リルのように人に害があるか不明な魔物は調査依頼から始まる。
 しかしゴブリン系統の魔物は、人類共通の敵とみなされている。
 人を襲い、女を犯し、作物を荒らす。
 さらには繁殖力が強くてすぐに増える。
 そのため、優先的に討伐がされているのだ。
 だから、この辺りには滅多に出ないはずだった。
「……どうしよう」
 私はリルをチラリと見る。
「ガルル……」
 彼はやる気だ。
 ゴブリンキングは強いだろうけど、リルも同じくらい強いかもしれない。
「大丈夫かな……?」
 私が心配しても仕方がない。
 でも、万が一ということもある。
 私はいつでも魔法が使えるように身構える。
「グルルッ!」
 先に動いたのはリルの方だった。
 一気に距離を詰めると、爪で切り裂く。
「グオォ!」
 だが、相手もただ黙って切られてはいない。
 手に持っていた棍棒を振り回して、リルを追い払おうとする。
「リル! 危ないっ!」
 私は思わず叫んでしまう。
 だが、次の瞬間。
「ワフッ」
 リルが余裕を持ってその攻撃を避けていた。
「すごい……」
 Bランクの魔物の攻撃を避けるなんて……。
 リルはさらに距離を取ると、今度はブレスを吐いた。
 氷のブレスだ。
 リルは氷属性持ちらしい。
 体毛も青系統だしね。
「グオォ!?」
 まともに食らったゴブリンキングの動きが止まる。
 リルはそのまま追撃をする。
「ガウウッ!」
「ガアァ!」
 リルの容赦のない攻撃により、ゴブリンキングにダメージが蓄積していく。
 この調子なら勝てるかも……。
「ガアアアアァッ!!!」
 と思ったのだが、ゴブリンキングが突然大きな叫び声を上げた。
 そして、周囲からたくさんの魔物が近づいてくる気配を感じる。
 奴の配下のゴブリンたちのようだ。
 ……まずい!
 リルがいくら強くても、さすがに多勢に無勢だ。
「「ギャオオォッ!」」
 ゴブリンたちがリルを取り囲み、威嚇する。
「ガルルッ!」
 リルが必死に応戦しようとしているけど……。
「大丈夫だよ。リルは下がっていてね」
 私は前に一歩踏み出す。
 そして……。
「氷結地獄」
 唱えたのは上級魔法の呪文だ。
 たちまち地面から冷気が溢れ出す。
「「ギャッ」」
「「ガアッ!」」
 ゴブリンたちは一瞬にして凍りつく。
 この程度の魔物なら、何匹いても問題ない。
 私はさらに魔法を唱える。
「氷柱乱舞」
 すると、氷漬けのゴブリンを囲むようにして無数の氷の柱が生成される。
「行け!」
 私の指示に従って、氷柱がゴブリンたちを襲う。
「「「ギャオオォッ!!!」」」
「よしっ!」
 ゴブリンたちは全て息絶えた。
 魔力によって形成されていた体が霧散し、魔石が残される。
「後は、君だけだね」
 私はゴブリンキングに向かって言う。
「グウゥゥ……」
 ゴブリンキングが怯えるように後ずさる。
 そして、背中を見せると逃げ出した。
 だけど……。
「私から逃げられるわけないじゃん」
 私は闘気を開放し、超速でゴブリンキングの行く手に立ち塞がる。
 懐から剣を抜く。
 父上からいただいた、氷結蒼刃だ。
「覚悟はいい?」
 私はその剣を横から薙ぎ払う。
 剣の心得はそれなりにある。
 王城に剣術の家庭教師を招いて、剣術の手ほどきを受けたことがあるからだ。
 それに、剣技大会にも出場した。
 私は魔法だけの女じゃないのだ。
 モフモフのために、ひと通りのことは修めている。
「覇王一閃」
 私の一撃は、見事にゴブリンキングを両断した。
 程なくして奴の体が霧散し、魔石が残される。
 一応回収しておく。
「ふぅー。終わったよ、リル!」
 振り返ってリルに声をかけると、彼はお座りをして待っていた。
「わうっ!」
 リルが尻尾を振っている。
 褒めてほしいらしい。
 確かに、彼の戦闘も見事だった。
 途中で獲物を横取りした形になったのは少し悪かったかもしれない。
 それにしても、かわいいなぁもう!
「よくやったね! えらいぞ、リル」
 そう言って、彼の頭を撫でてやる。
 すると、リルは気持ち良さそうな顔をする。
 私はそんな彼を抱きしめて、思う存分モフモフしてあげた。
「ねえ、リル? 君はどうやってここに来たのかな?」
 この森は、王都の近郊にある。
 生態系保護のため魔物を狩り尽くしたりはしていないが、ゴブリンなど明確に害のある魔物は優先的に討伐されている。
 そして、リルのような大型の魔物は綿密に調査をして討伐・保護・観察などの対応策が取られる。
 つい最近まで目撃情報がなかったということは、どこかから移り住んできた可能性が高い。
「……ワフ?」
 首を傾げられた。
「あ、そっか。わからないよね……」
 リルはただの狼ではないみたいだし、何か特別な事情があったのかもしれない。
 彼にはどことなく懐かしさのようなものを覚える。
 もしかして、前世で何か関わっていたのかなあ……。
 彼の方も、私の魔力や気配に懐かしさを覚えてここまで来てくれたのなら嬉しいな。
 ま、前世のことを考えるのはこれぐらいでいいか。
 あんまり考えすぎると、頭痛に襲われるし。
「とにかく帰ろうか」
 私はリルの背中に乗る。
「ワフッ」
 リルが走り出した。
 やっぱり速い。
 みるみるうちに王都に近づいていく。
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