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67話 手
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「ううっ……。お家の再興が……。魔導師としての栄光が……。やっと掴んだチャンスなのに……。なのに、なのにぃ……」
ついには泣き崩れてしまった。
しかし、それで許されるほど冒険者試験は甘くない。
誰も彼もが、自分のことで必死なのだから。
こうして、魔導師アーシアのBランク昇格試験は幕を閉じる――はずであった。
「大丈夫か?」
彼女に手を差し伸べる者がいた。
シンヤ・レギンレイヴである。
「な、何を……? あなたまで失格になりますわよ……?」
「大丈夫さ。まだ間に合う」
シンヤは軽い調子で答える。
彼には身体能力強化系の魔法がある。
それを使えば、まだまだ追いつくことも可能だろう。
「早く立て。置いて行かれるぞ」
「え? ……ま、まさか、本気で言っていますの? 今から追いかけたとしても、とても……」
アーシアは戸惑いながらも、差し出された手を握り返した。
すると、身体中に力が湧いてくる。
(これは一体……?)
今まで感じたことのなかった感覚だ。
まるで、何かが自分の中に流れ込んでくるような――。
「これなら、行けるはずだ」
「い、行けますけど、何が起こっているんですの!? どうして急に力が……。それに、なんだか気分も高揚していますわ!」
「俺の魔力を注入したのさ。ちょっと前の件で、お前はかなりの魔力を使ってしまっていただろ? その分を補充したような感じだ。これが本来のお前の実力だよ」
「ほ、本当の実力……。こ、これで、本当に合格できるのでしょうか……?」
「さぁな。あとは全力を出すだけだ」
シンヤの言葉を聞いたアーシアは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、前を走る参加者たちの背中を見つめる。
(ここからなら、ギリギリ届きそうですわね)
アーシアは深呼吸をして気持ちを整えると、一気に駆け出したのだった。
ついには泣き崩れてしまった。
しかし、それで許されるほど冒険者試験は甘くない。
誰も彼もが、自分のことで必死なのだから。
こうして、魔導師アーシアのBランク昇格試験は幕を閉じる――はずであった。
「大丈夫か?」
彼女に手を差し伸べる者がいた。
シンヤ・レギンレイヴである。
「な、何を……? あなたまで失格になりますわよ……?」
「大丈夫さ。まだ間に合う」
シンヤは軽い調子で答える。
彼には身体能力強化系の魔法がある。
それを使えば、まだまだ追いつくことも可能だろう。
「早く立て。置いて行かれるぞ」
「え? ……ま、まさか、本気で言っていますの? 今から追いかけたとしても、とても……」
アーシアは戸惑いながらも、差し出された手を握り返した。
すると、身体中に力が湧いてくる。
(これは一体……?)
今まで感じたことのなかった感覚だ。
まるで、何かが自分の中に流れ込んでくるような――。
「これなら、行けるはずだ」
「い、行けますけど、何が起こっているんですの!? どうして急に力が……。それに、なんだか気分も高揚していますわ!」
「俺の魔力を注入したのさ。ちょっと前の件で、お前はかなりの魔力を使ってしまっていただろ? その分を補充したような感じだ。これが本来のお前の実力だよ」
「ほ、本当の実力……。こ、これで、本当に合格できるのでしょうか……?」
「さぁな。あとは全力を出すだけだ」
シンヤの言葉を聞いたアーシアは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、前を走る参加者たちの背中を見つめる。
(ここからなら、ギリギリ届きそうですわね)
アーシアは深呼吸をして気持ちを整えると、一気に駆け出したのだった。
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