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61話 トラブル

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 シンヤは再び、床に這いつくばった。
 彼が視線を向けるのは――

「ちょっ、どこを見ようとしているのですか?」

「ん? もちろん、スカートの奥だが」

 アーシアが身に付けているのは、ワンピース型魔導着だ。
 膝丈ぐらいなので、通常であれば大切なところが見えてしまうことはない。
 だが、シンヤのように露骨に覗き込もうとすれば話は別だ。
 顔を真っ赤にしながら慌てるアーシアに構わず、シンヤは彼女に這いずりよっていく。
 その姿、まるで変態のごとし。

「ひ、ひいぃっ! ス、スタッ……スタ……」

 彼女は必死に雷魔法『スタン』を唱えようとするが、動揺により詠唱がまとまらない。
 魔法とは、このように精神面に大きな影響を受ける技術なのだ。
 うまく使えれば肉弾戦闘員よりも遥かに強くなれるが、逆に使いこなせなければただの雑魚に過ぎない。
 そして、アーシアは今まさに後者であった。
 だが、そんな彼女もかろうじて詠唱を完成させる。

「ス、【スタン】!」

 バリィッ!
 彼女から雷がほとばしる。
 それは確実にシンヤの体を捉えた。

「おっ?」

 彼が体をビクつかせる。
 しかし、シンヤの動きを完全に止めることはできない。
 彼は再び動き出し、アーシアの下半身へと向かっていく。

「くうぅ……。な、なぜ止まってくれないです!?」

「さっきよりも威力がかなり低くなっているぞ。精神的な動揺が大きいようだが……。それ以外にも要因があるんじゃないか?」

「要因……はっ!?」

 心当たりがあるのか、アーシアはハッとした表情を浮かべる。
 それは、彼女のパンツであった。

 繰り返しの説明となるが、彼女が黒のTバックを穿いているのは趣味ではない。
 魔法的な能力を向上させる効果があるからだ。
 しかし、つい先ほどそれはシンヤによってズリ下げられてしまった。
 その装備効果は一時的に失われているのだ。

「くうっ! なんてこと……」

 アーシアは今さらながらにパンツへ手を伸ばし、股間部へ戻そうとする。
 だが、それを黙って見ているシンヤではない。

「させねぇよ」

 シンヤは這いつくばった状態のまま右手を伸ばし、アーシアのパンツを掴んだ。
 股間部へ戻そうとするアーシアの手と、それを阻止するシンヤの手が、黒のTバックを引っ張り合う形になる。

「きゃあっ!? は、離してくださ――あううっ!?」

 アーシアは悲鳴を上げ、必死に抵抗する。
 シンヤの方が身体能力は上なのだが、這いつくばった状態からでは力が入らなかったのだろうか。
 いい感じにその力は拮抗し、両者一歩も引かない展開となる。
 だが、それも長くは続かなかった。

「きゃあっ!?」

「ぬおっ!?」

 お互いがバランスを崩したせいで、2人の体勢が崩れた。
 元々寝そべっていた状態のシンヤの上に、アーシアが倒れ込む。

「むうぅっ!?」

「はぁんっ!?」

 シンヤがくぐもった声を漏らす。
 アーシアの股間が彼の顔に押し付けられたためだ。
 そして、敏感なところを刺激されたアーシアも悩ましげな声を漏らす。

「……何をやっているんダ。シンヤ……」

「とんでもねぇ人だぜ。シンヤ兄貴はよぉ……」

 シンヤやアーシアのドタバタなトラブルを、ミレアとレオナードは冷めた目で見ていたのだった。
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