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23話 ギルマスに認められる

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 三階層で突然変異のゴブリンキングを倒したシンヤとミレアは、冒険者ギルドに戻ってきた。
 何やら騒がしい。
 どうやら何かあったようだ。

「ミレア、ちょっと見てくる」

「あ、あたしも行くヨ!」

 2人で受付嬢のユイの元へ向かう。

「よう、ユイ」

「あ、シンヤさん! 良かった。無事だったのですね!」

「無事? 俺とミレアは特に怪我などしていないが。何かあったのか?」

「はい……。実は、先ほど緊急依頼が出ました。グラシア迷宮で一大事発生です」

「一大事だって? 詳しく教えてくれないか?」

「ええと……。もう少ししたらギルドマスターが来ると思うので、詳しい話はそれからになりますが」

「分かった。とりあえず待つことにしよう。ギルマスが来るまえに、魔石やドロップ品の買い取りだけでも頼む」

「そうですね。今のうちに処理しておきましょうか」

 ユイの了承を得て、シンヤはカバンから魔石やゴブリン鉱石を取り出した。

「わぁ……すごい量ですね。これだけの量があれば、結構な額になりますよ」

「そうなのか。なら、しばらく生活には困らないかな」

「そうだネ。しばらくはゆっくり過ごせるヨ」

 ミレアが嬉しそうにそう言う。

「シンヤ。あれは出さないのカ?」

「あ、そういえば忘れていた。……よっと」

 シンヤは布に包んだあるものを取り出す。
 それはゴブリンキングがドロップした棍棒であった。

「え? これは…… ええっ!?」

 ユイが驚く。

「そ、それってもしかして……」

「ああ。ゴブリンキングの棍棒だな」

「ゴブリンキングの……。でも、どうしてそんなものが……」

「三階層を探索中に、突然変異のゴブリンキングと遭遇してな。そいつがドロップしたんだ」

 シンヤがこともなげに答える。

「……は? …………え? ……………………はい?」

 ユイが混乱している。
 無理もない。
 ゴブリンキングの討伐例は、過去にもいくつかある。
 だが、そのどれもがBランク以上のパーティによる討伐だ。
 しかも、運良く倒せたとしても、ほとんどの場合で犠牲者が出るほどの強敵である。
 そんなゴブリンキングをシンヤとミレアの2人が倒したと聞いて、はいそうですかと信じられる者などいない。

「あー、ごほん。もう一度言おうか? 俺とミレアが倒したゴブリンキングが落としたんだ」

「……………………」

 ユイはなおも固まっている。
 その代わりに反応したのは、他のギルド職員や冒険者たちだった。

「おい、聞いたか?」

「ゴブリンキングを倒しただと?」

「決死の討伐隊が組まれているときに、たちの悪い冗談はやめろ」

「だが、あの禍々しい棍棒は紛れもなくゴブリンキングのものでは……?」

「いったいどういうことだ」

 ざわめきが広がる。
 ユイはなおも放心したままだ。
 そんなとき、ギルドの奥から一人の男が現れた。

「あー、あー、聞こえてるぞお前ら。まったく、何を騒いでいるんだか」

 その男は、いかにもベテランという風格をしていた。
 髪はやや薄くなっているが、眼光は鋭く、体格もいい。
 おそらく年齢は五十歳くらいだろう。

「あ、ギルドマスター……」

 ユイがつぶやく。
 ギルドマスターはちらりと彼女を見た後、シンヤに視線を向ける。

「君がシンヤか。噂はかねがね聞いているぞ。俺はこのギルドのギルマスをしているダンドだ。よろしくな」

「ああ、こちらこそ。シンヤだ」

「それで? お前がゴブリンキングを倒したというのは本当なのか?」

「ああ、もちろんだ。ここに証拠もあるぞ」

 シンヤは布に包まれた棍棒を取り出した。

「こ、こいつは確かにゴブリンキングのものだ……。それにしても、まさかゴブリンキングを単独パーティで倒すとは……。信じられん……」

「信じないのか?」

「……ゴブリンキングは災害級の魔物だ。先ほどまで、決死隊を編成していたところなんだ。討伐したのが本当なら、ギルドや街としてこれほど助かることはない。だが、もし嘘だったら……」

「嘘だったら?」

 シンヤが尋ねる。
 その答えは、言葉ではなかった。

「かあっ!!!」

 ダンドが威圧を放つ。
 それはまさに殺気そのもの。
 熟練の冒険者ですら震え上がるほどの圧力だ。

「ひいっ!」

 それを間近で受けたミレアが小さく悲鳴を上げた。

「あわわ……」

「ギルマスがお怒りだ……」

「あの新人、終わったな……」

「ぶくぶく……」

「こいつ、気を失ってやがる」

「無理もない。新人が、元Aランク冒険者のギルマスの”覇気”を受けちまってはな」

 周囲の冒険者の声が聞こえる。

「……」

 シンヤは涼しい顔をしながら、無言で立っていた。

(これが……ギルドマスター……。なるほど、なかなかの実力を持つようだ)

 シンヤは内心で納得していた。

「それで? 突然叫んでどうしたんだ?」

「ふはは! 俺の覇気を受けて、涼しい顔をしているとはな。どうやらゴブリンキングを倒したというのも、あながち嘘ではないらしい」

「ああ。別に嘘をつく理由もないしな」

「よし。シンヤのゴブリンキング討伐を認める方向で進めよう。討伐したのは三階層だったな?」

「ああ、そうだ」

「目撃例があったのもその階層だ。ただちに調査隊を派遣し、真偽のほどを確認する。……おい、ユイ! いつまで呆けてやがる! 調査隊を編成しろ!」

「は、はいっ! すぐに手配しますっ!」

 ユイやギルド職員が慌ただしく動き出す。
 それを尻目に、シンヤとミレアはのんびりとギルドを退出し、屋敷へと帰ったのであった。
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