上 下
12 / 75

12話 屋敷をゲット

しおりを挟む
 翌朝。
 シンヤとミレアはケビンに連れられ、街の中を歩いていた。

「……随分と賑やかなところなんだな」

 シンヤが呟く。

「はい。この大通りは、王都や帝都にも負けず劣らずの活気があります」

「そうなのか」

「この街はグラシア領の中でも、商業都市と呼ばれています。交易の中継地点として栄えているのです」

「なるほど」

 シンヤはあたりをキョロキョロと見回す。
 ダンジョン巡りの合間にミレアと歩いたことはあったが、改めて見るとやはり新鮮な光景であった。

「それでは、こちらに参りましょうか」

 ケビンに連れられて、屋敷の前に着いた。
 二階建てのなかなかに立派な家だ。

「ここか?」

「ええ。ここが一つ目ですな。やや敷地面積が控えめですが、大通りに近くいろいろと便利です。ただ、少々騒がしいかもしれません」

「ふむ。なるほど」

 シンヤはケビンに促されて中に入る。
 中は広々としていて、調度品もそれなりに高級そうなものが揃えられていた。
 寝室とリビングはどちらも十分な広さがあり、清潔で掃除が行き届いている。
 次に風呂場とトイレを見る。
 どちらも魔石を利用しており、日本のそれと比較しても遜色ないように思えた。

「いい家だな。本当にもらってもいいのか?」

「もちろんでございます。ただ、候補は後二つ用意してございます。全て案内致しますので、最も気に入ったものを選んで頂ければ幸いです」

「ありがとう。助かるよ」

 ケビンに案内され、シンヤは残りの候補地に向かった。
 二つ目の家は、三階建てになっていた。

「こちらは、敷地面積としては先ほどよりも少し広い程度です。ただ、三階建てですので居住スペースとしては大きな差がありますな。大通りからは外れますが、近くに衛兵の駐屯所がありますので治安は抜群でしょう」

「ほう……」

 シンヤが興味深そうに建物を見上げる。
 そして、中に入り各部屋を確認する。

「お気に召しましたか?」

「ああ。悪くない。ところで、この街の治安はどうなってるんだ?」

「全体的に良好ですよ。酔っぱらい同士の喧嘩やスリ程度なら日常茶飯事ですが、殺人などの凶悪犯罪はほとんど起きていません」

「そうか……。それはよかった。だが、そうなるとこの場所を選ぶメリットが薄れるんじゃないか?」

 シンヤの指摘に、ケビンは苦笑する。

「確かにその通りです。シンヤ様は抜群の戦闘能力をお持ちですし、なおさらかもしれません」

「そうだな。まぁ……その辺も含めて考えるか」

「はい。それがよろしいかと思います」

 三つめの家に着く。
 今度の家は、二階建ての家だった。
 敷地の広さは他と比べてかなり大きい。
 前の二つが家と呼ぶべき広さであることに対して、こちらは屋敷と言っても過言ではない広さだ。

「ここは大通りに面しておらず、駐屯所や冒険者ギルドなどからも距離があります。はっきり申しまして、街の中でも開発中の区域であり、僻地ですな。ですが、その代わり庭が広く取れます。また、裏には小さな林がありますので、鍛錬を行うことも可能です」

「ふむ……。悪くないな」

 シンヤはぐるりと家の中を見て回る。
 風呂やキッチン、トイレなども揃っている。
 魔石を利用した構造となっており、日本における生活感と極端な差はなさそうだ。

「どうでしょう? ご意見を聞かせて頂きたい」

「そうだな……。まずは立地条件がいいと思う。俺は静かで広い場所が好きなんだ」

 地球において魔法の鍛錬を行う際は、山奥や草原によく赴いていた。
 こちらの世界に来るきっかけとなった最後の鍛錬は、太平洋のど真ん中で行った。
 さすがに山奥や草原を日常の住処にすることはないものの、せめて大通りではなく閑静な住宅街を選びたいというのは当然の希望であった。

「ふむふむ」

「そして、裏に林があるというのもいい。鍛錬が捗りそうだ」

 本格的な鍛錬を行う場合は、地球でそうしていたように山奥や草原に赴くことになるだろう。
 しかし、日々のちょっとした精神統一や魔法の鍛錬程度であれば、この林でも十分に行えるように思えた。

「なるほど。では、ここが第一候補ということですね」

「ああ」

 シンヤの言葉に、ケビンは満足げな表情を浮かべた。

「ところで、ミレアはどう思う?」

「えっ?」

 急に話を振られたミレアは戸惑う。

「いや、俺一人で決めるのも良くないと思ってな」

「普通は奴隷になんて聞かナイ。だが……」

 ミレアは屋敷の中をキョロキョロと見回す。

「あたしも広いところは好きダ。あの林も自然を感じることができてイイ。悪くないところだと思うゾ」

「なるほど。そういうことなら決まりだな」

 シンヤは屋敷の外に出ると、ケビンに話しかける。

「ケビン。この家で頼む」

「かしこまりました。では、譲渡の処理を進めておきますので」

 こうして、シンヤたちは新たな住まいを手に入れたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Flower

恋愛
普通の女子高生の宮井麻希子。 出版社に勤める麻希子の従兄の宇野智雪。 5月のある日、麻希子の何も変哲のない日常が新しい出会いで少しずつ変わり始める。なんの変哲もない日常が、実は鮮やかな花のような日々だと気がついた麻希子の一時の物語。 表題の花はその日の誕生日の花となっております。一応重複をしないため、一般的でない物も色違い等も含まれております。文内には、その花の花言葉が必ず含まれております。それほどキツイ描写はないのですが、性的なものを匂わせる部分はありますのでR指定をかけております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...