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10話 ミレアの過去
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シンヤとミレアが探索を進めていく。
このダンジョンはグラシアの街の近くにある。
その上、シンヤとミレアがいるのは一階層だ。
”探索する場所などないのでは?”と思うかもしれないが、そういうわけでもない。
ダンジョンは意思を持ち、魔物に破れて死亡した冒険者の体や魔素を吸収することを目的としている。
各階層に宝箱を意図的に設置し、冒険者を誘き寄せているのだ。
そのため、先人によって探索済みの浅い層であっても、新人冒険者が探索する意味はある。
まあ、一階層程度では大した中身は入っていないので、狩りのついでに小遣い稼ぎをしているような感覚でしかないが。
「そういえば、ミレアはダンジョンに入ったことがあるのか?」
「ああ。二年くらい前カナ。当時は十四歳だったので、今よりもずっと弱かったガ……」
「へぇ……。そうなのか」
ということは、今のミレアは十六歳らしい。
シンヤよりも少し年下だ。
確かに体格や顔つきはまだ幼さを感じられる。
「あの頃はパーティーを組んでいてナ。四人組だったんダ」
「おお。それは心強そうだな」
「ああ、仲間は皆いい奴らだったヨ。……でも、もう会えないんダ」
「え……?」
「村がドラゴンに襲われた。あたしは運良く生き残ったが、他の三人は死んだ。村の皆もだ。行くあてのないあたしは、ケビンに保護される代わりに奴隷身分になったんダ」
「そっか……」
シンヤはそれ以上何も言えなかった。
少ししんみりとした雰囲気になりつつ、その日の探索は終えた。
初日なので、一階層でひたすらにスライムを狩っただけである。
冒険者ギルドに寄り、たくさんの豆粒サイズの魔石と、いくつかのスライムゼリーを売却した。
合計で銀貨五枚となった。
「うーむ。やっぱり少ないか?」
「そうだナ。スライムゼリーは悪くない味だが、根気よく倒せば誰でも手に入るモノだからナ」
「だよなぁ。……とりあえず、明日もがんばろう」
「頑張るのは良いことだ。あたしもシンヤのためにできるだけのことをスル」
「ありがとな。何か必要な物があればいつでも言ってくれ」
「ああ。ワカッタ」
こうして、シンヤとミレアの冒険者生活が始まったのだった。
シンヤとミレアが初めてダンジョンに挑戦した日の夜。
ケビンに誘われて、シンヤとミレアは晩ご飯を共にしていた。
食事の席を共にするのは、初日に歓迎会を開かれて以来のことである。
大商会の会長であるケビンは相応に忙しいのだ。
「それで、シンヤ様。ダンジョンの方はいかがでしたかな?」
「今日はまだ様子見だな。一階層でスライムを倒していただけだ」
「ああ、あそこにあるダンジョンの一階層はスライムが出るのでしたな。あまり強くはありませんが、慣れないと倒すのに苦労すると聞きます」
スライムの上位種になると、体に触れるだけで溶かす溶解液を出してくるものもいる。
その点、このダンジョンのスライムは最下級の魔物であり、そこまで強力なものはいない。
厄介な点を挙げるとすれば、スライム種に共通した液状の体だろう。
剣などの武器で攻撃しようにも、液状の体はそれを無効化してしまうのだ。
「ミレアの格闘技はなかなかのものだった。スライムの核を的確に打ち抜いていたよ」
「ほう! それは素晴らしい!」
「あ、ありがとう……。シンヤのためなら、いくらでもガンバル」
ミレアが照れ臭そうにしている。
「ふふふ。しっかりと戦えているようで安心しました」
ケビンから見たミレアは、”戦闘力は高いが対人のコミュニケーションに一癖ある未教育奴隷”だ。
ミレア本人の希望と、満更でもなさそうなシンヤの様子を見て、彼に譲ることを決めたのである。
もしうまくいっていないのであれば他の奴隷との交換も検討せねばならないと考えていたが、それは杞憂だった。
「ミレアの戦闘能力については問題ないと思うが、課題は今後の活動方針だ」
「ふむ? シンヤ様とミレアのデュオパーティであれば、浅層の内は全く問題ないと思いますが……。いずれは中層や深層すら攻略可能かと……」
「俺もどんどん攻略するつもりではいるんだけどな。いつまでもここでお世話になるわけにもいかないし、宿屋に移るか一軒家の購入を検討しようと思っているんだ」
「なるほど。……別に、ずっとここにいてくださっても構いませんよ?」
ケビンから見れば、シンヤは将来的に高ランク冒険者になることがほぼ確定している。
有望な冒険者に強力なコネができると考えれば、自邸の客室を長期間貸し出すことにためらいはなかった。
「いや、そういうわけにもいかないだろう」
シンヤはチラリとミレアの方に視線を向ける。
彼女の健康的な肉体は、シンヤを大いに刺激していた。
客として招かれている部屋でハッスルするのもどうかと思い、自重し続けているのだ。
「自立したいということですか。気持ちは分かります。私も昔はそうでした。あれは私が十五歳の頃……」
ケビンの昔話が始まる。
今は大商会の会長まで上り詰めたが、最初は一行商人だったそうだ。
そこから成り上がって来たという。
シンヤと初めて会ったときに危険な森を突っ切るという無茶をしていたのも、かつてがむしゃらに挑戦していた頃の名残なのだ。
なかなかに波乱万丈な人生を歩んでいる。
ケビンの話を聞きながら、シンヤは夕食を楽しんだのであった。
このダンジョンはグラシアの街の近くにある。
その上、シンヤとミレアがいるのは一階層だ。
”探索する場所などないのでは?”と思うかもしれないが、そういうわけでもない。
ダンジョンは意思を持ち、魔物に破れて死亡した冒険者の体や魔素を吸収することを目的としている。
各階層に宝箱を意図的に設置し、冒険者を誘き寄せているのだ。
そのため、先人によって探索済みの浅い層であっても、新人冒険者が探索する意味はある。
まあ、一階層程度では大した中身は入っていないので、狩りのついでに小遣い稼ぎをしているような感覚でしかないが。
「そういえば、ミレアはダンジョンに入ったことがあるのか?」
「ああ。二年くらい前カナ。当時は十四歳だったので、今よりもずっと弱かったガ……」
「へぇ……。そうなのか」
ということは、今のミレアは十六歳らしい。
シンヤよりも少し年下だ。
確かに体格や顔つきはまだ幼さを感じられる。
「あの頃はパーティーを組んでいてナ。四人組だったんダ」
「おお。それは心強そうだな」
「ああ、仲間は皆いい奴らだったヨ。……でも、もう会えないんダ」
「え……?」
「村がドラゴンに襲われた。あたしは運良く生き残ったが、他の三人は死んだ。村の皆もだ。行くあてのないあたしは、ケビンに保護される代わりに奴隷身分になったんダ」
「そっか……」
シンヤはそれ以上何も言えなかった。
少ししんみりとした雰囲気になりつつ、その日の探索は終えた。
初日なので、一階層でひたすらにスライムを狩っただけである。
冒険者ギルドに寄り、たくさんの豆粒サイズの魔石と、いくつかのスライムゼリーを売却した。
合計で銀貨五枚となった。
「うーむ。やっぱり少ないか?」
「そうだナ。スライムゼリーは悪くない味だが、根気よく倒せば誰でも手に入るモノだからナ」
「だよなぁ。……とりあえず、明日もがんばろう」
「頑張るのは良いことだ。あたしもシンヤのためにできるだけのことをスル」
「ありがとな。何か必要な物があればいつでも言ってくれ」
「ああ。ワカッタ」
こうして、シンヤとミレアの冒険者生活が始まったのだった。
シンヤとミレアが初めてダンジョンに挑戦した日の夜。
ケビンに誘われて、シンヤとミレアは晩ご飯を共にしていた。
食事の席を共にするのは、初日に歓迎会を開かれて以来のことである。
大商会の会長であるケビンは相応に忙しいのだ。
「それで、シンヤ様。ダンジョンの方はいかがでしたかな?」
「今日はまだ様子見だな。一階層でスライムを倒していただけだ」
「ああ、あそこにあるダンジョンの一階層はスライムが出るのでしたな。あまり強くはありませんが、慣れないと倒すのに苦労すると聞きます」
スライムの上位種になると、体に触れるだけで溶かす溶解液を出してくるものもいる。
その点、このダンジョンのスライムは最下級の魔物であり、そこまで強力なものはいない。
厄介な点を挙げるとすれば、スライム種に共通した液状の体だろう。
剣などの武器で攻撃しようにも、液状の体はそれを無効化してしまうのだ。
「ミレアの格闘技はなかなかのものだった。スライムの核を的確に打ち抜いていたよ」
「ほう! それは素晴らしい!」
「あ、ありがとう……。シンヤのためなら、いくらでもガンバル」
ミレアが照れ臭そうにしている。
「ふふふ。しっかりと戦えているようで安心しました」
ケビンから見たミレアは、”戦闘力は高いが対人のコミュニケーションに一癖ある未教育奴隷”だ。
ミレア本人の希望と、満更でもなさそうなシンヤの様子を見て、彼に譲ることを決めたのである。
もしうまくいっていないのであれば他の奴隷との交換も検討せねばならないと考えていたが、それは杞憂だった。
「ミレアの戦闘能力については問題ないと思うが、課題は今後の活動方針だ」
「ふむ? シンヤ様とミレアのデュオパーティであれば、浅層の内は全く問題ないと思いますが……。いずれは中層や深層すら攻略可能かと……」
「俺もどんどん攻略するつもりではいるんだけどな。いつまでもここでお世話になるわけにもいかないし、宿屋に移るか一軒家の購入を検討しようと思っているんだ」
「なるほど。……別に、ずっとここにいてくださっても構いませんよ?」
ケビンから見れば、シンヤは将来的に高ランク冒険者になることがほぼ確定している。
有望な冒険者に強力なコネができると考えれば、自邸の客室を長期間貸し出すことにためらいはなかった。
「いや、そういうわけにもいかないだろう」
シンヤはチラリとミレアの方に視線を向ける。
彼女の健康的な肉体は、シンヤを大いに刺激していた。
客として招かれている部屋でハッスルするのもどうかと思い、自重し続けているのだ。
「自立したいということですか。気持ちは分かります。私も昔はそうでした。あれは私が十五歳の頃……」
ケビンの昔話が始まる。
今は大商会の会長まで上り詰めたが、最初は一行商人だったそうだ。
そこから成り上がって来たという。
シンヤと初めて会ったときに危険な森を突っ切るという無茶をしていたのも、かつてがむしゃらに挑戦していた頃の名残なのだ。
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