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9話 グラシア迷宮一階層

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 数日後。
 シンヤとミレアはダンジョンに来ていた。
 グラシアの近郊にある迷宮だ。
 ケビンにより装備やアイテムも提供されており、準備は万端である。

「コッチだ」

 ミレアが先導し案内してくれる。
 ここ数日間、シンヤはケビン邸で過ごしていた。
 与えられた客室や庭の隅で、魔力の使い勝手を確かめていたのである。

 クリムゾンボアはぶっつけ本番で何とかなったが、今後もそううまくいくとは限らないからだ。
 シンヤがそうしている間に、ミレアはこの街の情報をケビンやメイドからあれこれ教わっていた。
 シンヤもミレアもこの街は初めてという点ではいっしょだが、異世界人であるシンヤよりもミレアの方がよほどこの世界の常識には詳しい。

「ここか。……大きい穴だな」

「ああ。シンヤならダイジョウブだと思うが、油断はできナイ」

「そうだな」

 シンヤとミレアは、大空洞の中へと足を踏み入れた。
 洞窟内に入った途端、空気が変わったような感覚を覚える。
 薄暗いせいだろうか?
 二人は慎重に進んでいく。

「……む。クル……」

 不意にミレアが呟いた。

「何か来るのか?」

「ああ。だが、種類までは分からナイ」

「なるほど。注意しよう」

 シンヤはいつでも戦えるように、魔力を高めていく。
 ミレアも臨戦態勢を取った。
 そして、二人が警戒していると、暗闇の中から魔物が現れた。

「……スライムか」

 現れたのは、緑色のゼリー状の身体をした魔物だった。

「コイツは雑魚だ。あたしに任せてクレ」

 ミレアはそう言いながら、拳を構え近づいていく。

「ふんっ!」

 ミレアの拳がスライムに吸い込まれる。
 だが、液状の体にはイマイチ相性が良くないように見える。

「このスライムの核は……ココだ!」

 ミレアの鋭い殴打がスライムを襲う。
 コアを砕かれたスライムは消滅した。
 後には豆粒のような魔石が残される。

「いい動きだな」

「まあナ」

 ミレアは得意げに胸を張る。

「それじゃあ、どんどん行こう」

 シンヤは意気揚々と奥へ進んでいった。
 そして、再びスライムが現れる。

「次は俺に任せてくれよ」

「む? シンヤの手を煩わせるまでもナイが……」

「ずっと見ているのも退屈だからさ。な?」

「わかった。シンヤがそう言うナラ」

 ミレアが一歩下がる。
 シンヤは魔力を高めていく。

「【ファイアーアロー】」

 炎の矢を放ち、一撃で仕留めることができた。
 魔石と謎の石を拾い上げ、シンヤはミレアの元へ戻る。

「どうだ?」

「……威力がおかしくナイか?」

「え?」

「スライムは核を攻撃すればモロい。だが、火魔法だと液状の体に阻まれて、なかなか難しいハズなんだガ……」

「あー……。俺、魔力が高いからかな?」

「ソレにしても、初級のファイアーアローで倒せるとは……。やはりシンヤは規格外ダ」

 ミレアが感心した様子で言う。

「ところで、魔石といっしょにこんなのが落ちていたのだが……」

「ん? ああ、コレはスライムゼリーだな。スライムがたまにドロップするんダ」

「ドロップ?」

 何となくの察しはつくものの、分からないことは素直に聞き返すシンヤ。

「……シンヤは田舎の出身だと言っていたナ。あたしも知ったのは最近だし、シンヤが知らないのも無理はナイか」

 ミレアはそう前置きして説明を始めた。
 倒した魔物は消滅する。
 普通の動植物とは異なり、体が魔素でできているそうだ。

 その魔素は討伐後に霧散するが、その一部が近くにいた者の体内に取り込まれ、吸収される。
 取り込んだ者が体内に蓄えた魔素の量に応じて、身体強化や魔力増強などの恩恵が得られる。
 また、魔素を構成していた核となる部分には魔石が含まれており、それは冒険者ギルドや商人に売ってお金に変えることができる。

 霧散する魔素や魔石とはまた別として、各魔物に対応した固有のドロップ品というものもあるらしい。
 スライムゼリーは、スライム固有のドロップ品だ。
 食用として人気らしい。
 豆粒サイズの魔石やスライムゼリーをカバンに詰め込み、シンヤとミレアは先へと進むことにしたのだった。
 ダンジョンの一階層を進んでいく。

「む。ココの先に……」

「いるな。俺も分かったよ」

 ミレアの言葉に被せるように、シンヤが言った。

「……ナゼ分かる?」

「魔法を開発していたんだよ。せっかくだし、実戦で試しておこうと思ってね」

 シンヤがそう答える。
 この街に来てからの数日間、彼は遊んでいたわけではない。
 地球に比べて魔素が多いこの世界で、魔法の開発に取り組んでいたのだ。
 転移してきた初日に使用した【イーグルアイ】や【フィジカルブースト】に加え、今ではいくつかの魔法を使えるようになっていた。

「魔法? 探知魔法を使ったノカ?」

「ああ。こうやってね。【ソナー】」

 シンヤが右手を前に出し、魔法を発動させる。
 すると、シンヤの前方に青白い光が広がった。

「コレは……?」

「俺の魔力に反応して光っているんだ。魔物や人間の存在を把握できる」

「なるほど。便利な魔法があるのだナ」

 ミレアが感心している。

「まあ、範囲が狭いから気休め程度だけどな」

「いや、十分凄いゾ。あたしは赤猫族として魔物の察知能力には自信があったのだが、シンヤの前では無意味かもしれナイ」

 ミレアが自嘲気味に言う。

「そんなことないさ。ミレアだって強いだろ? それに、俺も田舎者で右も左も分からない。ミレアのことは頼りにしている」

「ソウか……。ありがとう」

 ミレアが微笑みながら礼を言う。

「それじゃあ、引き続き探索と狩りをするか」

「ワカッタ」

 シンヤとミレアは引き続き、ダンジョン一階層の探索を進めていくのだった。
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