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60話 剣道部のセツナ

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 現在の桃色青春高校の野球部には、5人の部員が所属している。
 龍之介、ミオ、アイリ、ノゾミ、ユイだ。
 野球は本来、最低でも9人でプレイするスポーツである。
 不足分を野球ロボで補っている形だが、その野球能力は心もとない。
 可能な限り早く、人間選手に置き換えていきたいと龍之介は考えていた。

「さて……。どこを回っていくか……」

 キャッチャーのユイは、第一体育館でスカウトした。
 第二体育館などに行ってみるのもアリだろう。
 その他にも候補はたくさんある。
 龍之介は頭を悩ませながら、学校内を歩いていた。

「おや? あそこにいるのは……」

 そんな時である。
 龍之介の視界の端に、1人の少女の姿が映った。
 黒髪ロングの少女で、身長はやや高い。
 そして、その最大の特徴は――

「剣道着か……。良いな……」

 剣道着を着ていたことである。
 その少女は、剣道場の前で1人佇んでいた。

「うむ……。覗いてみるか」

 龍之介は少女に近づいていく。
 そして、背後から声をかけた。

「何をしているんだ?」

「きゃあっ!?」

 いきなり話しかけられた少女は、驚いて振り向く。
 龍之介の姿を見ると、すぐに冷静になった。

「なんだ……貴方でござったか」

「ござ……? ……俺のことを知ってるのか?」

「うむ、知っているでござる。貴方のことは色々と……」

 少女がジト目で龍之介を見つめる。
 桃色青春高校の男子生徒は龍之介のみだ。
 生徒数が多いので彼の顔を知らない者も多いが、こうして知っている者も少なくない。

「すまないな。驚かすつもりはなかったんだ」

「別に構わぬ。これしきのことで鍛錬前の精神統一を乱された某(それがし)が修行不足なだけ故……」

 少女が首を振る。
 龍之介は、そんな彼女の言葉遣いが気になっていた。

(おいおい……。今の時代に、一人称が『某(それがし)』かよ。しかも、語尾が『ござる』口調だったし……)

 龍之介は内心でツッコむ。
 この少女は、古風な喋り方が特徴的であった。

「まぁ細かいことはいいか……」

「む?」

「俺のことを知ってくれているようだが、改めて自己紹介しよう。俺の名前は龍之介。2年生で、野球部のキャプテンを務めている」

「これはかたじけない。某はセツナ。同じく2年生で、剣道部に所属しているでござる」

 龍之介とセツナがお互いに名乗る。
 しばらく見つめあった後、セツナが口を開いた。

「それよりも……」

「ん?」

「どうして某の背後に立っていたのでざるか? まさか、某も手籠めにする気でござるか?」

 少女は龍之介を警戒している様子であった。
 何やら悪い噂が流れているようだ。
 それに対して、龍之介は苦笑いする。

「そんなわけないだろう。俺はただ……」

「ただ?」

「剣道着姿が新鮮で見惚れていたんだ。綺麗だな、素敵だなって」

 龍之介が正直に答えると、セツナはキョトンとした表情を見せた。
 そして、少し間を置いてからプッと噴き出す。

「……ふふ。そんなことを言われたのは初めてでござる。さすがは龍殿。噂通り、口がお上手であられる」

 セツナが口元に手を当てて笑う。
 その仕草はとても可愛らしく、龍之介の胸を高鳴らせた。

(よしっ! 好感触だぞ……これはいける!!)

 龍之介は手応えを感じていた。
 剣道着姿の美少女が笑っている姿は、とても絵になる。
 このまま口説き落としてしまいたい。
 彼はそう考えた。

「セツナさん、剣道着がとてもよく似合っているな」

「む? そうでござろうか?」

「ああ。凄く可愛いよ」

「むむっ……。か、可愛いなど……。そのような……」

(おお! 効いてるっぽいぞ!!)

 セツナの反応に、龍之介は強い手応えを感じる。
 この調子で畳みかけていけば、彼女の心も掴めるかもしれない。

「セツナさんは魅力的だな。話し方が武士っぽいし」

「それは褒めているのでござるか?」

「もちろんさ!」

「……そうでござるか」

 セツナは少し嬉しそうだ。
 龍之介はさらに言葉を続ける。

「そうだ! セツナさん、野球をやってみないか?」

「野球でござるか? しかし、某には剣道がある故……」

「もちろん兼部で構わないさ。それに、全く別の競技をするのも良い刺激になるんじゃないか?」

「なるほど……。それも一理あるでござるな……」

 セツナが考え込む。
 龍之介はここが攻め時だと考えた。

「それに、セツナさんなら今の野球部に足りないものを補ってくれそうなんだ」

「足りないもの? それは守備位置とかでござるか?」

「いいや、バストサイズさ!」

「……はぁ?」

 セツナが呆気に取られたような顔をする。
 しかし、龍之介は止まらなかった。

「俺はつい最近、貧乳ラブに目覚めてね。しかし残念ながら、今の野球部には貧乳力が足りないんだ! このままじゃ甲子園で優勝なんて、夢のまた夢になってしまう!!」

「…………」

「頼むよ、セツナさん! 貧乳の救世主として、俺たちを助け――ぶげっ!?」

「ふん。またつまらぬものを斬ってしまった……」

 セツナは龍之介を木刀で殴り倒す。
 そして、冷たく言い放った。

「某は忙しい故、失礼するでござる」

 セツナは剣道場の中へと消えていく。
 残された龍之介は、殴られた痛みでしばらく悶絶していたのだった。
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