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52話 9回の表 中継プレイ

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 9回の表、桃色青春高校が大ピンチを迎えている。
 プリンセスガーディアン・ハイスクールに連打を浴びてしまったのだ。
 姫様の【王女の勅命(プリンセス・オーダー)】の効果を受けた相手打線は、非常に厄介である。

 アイリやノゾミの守備に助けられたことで何とかツーアウトまでこぎつけることができたが……。
 ここで迎えるバッターは、1番のソフィだ。
 しかも、既にカウントはツーボール・ノーストライク。
 あとワンアウトで勝ちだというのに、そのアウト1つが遠い。

「さぁ、龍之介さん! どこからでもかかって来なさい!!」

 ソフィがバットを構える。
 その姿は、姫様に激励を受けた影響もあってか凄まじい威圧感を放っている。

(ここまで追い詰められたのは久しぶりだ……)

 龍之介は額から流れる汗を拭うと、キャッチャーのユイと目を合わせる。
 ユイのサインに、龍之介が頷いた。
 そして、投球モーションに入る。

(押し出しのフォアボールを出すわけにはいかん……。ここは確実にストライクを取らないと……)

 龍之介は腕を振り切って、ボールを投げ込んだ。
 指先から離れたボールが、凄まじいスピードでキャッチャーミットに向かって直進する。

「ふんっ!!」

 ソフィのスイングもそれに負けないほど速かった。
 バットから発せられた鈍い金属音がグラウンドに響き渡る。
 打球は、左中間のレフト寄りに飛んでいく。
 レフトを守るのがノゾミならば、捕球が可能だっただろう。
 しかし、今の桃色青春高校の左翼手は野球ロボが務めている。

「ぐっ……! そこに飛ばされるとは……っ!!」

 龍之介が歯を食いしばる。
 打球は野球ロボの守備範囲を大きく超えていた。

『ソフィ選手の打球が左中間を破りました! これは長打コースになりそうだ!!』

 実況ロボが興奮気味にそう叫んだ。
 桃色青春高校にとって、この試合初めての長打。
 ツーアウト・ランナー満塁であったため、当然のこととして1点は入る。
 2点目もほぼ間違いなく入るだろう。
 問題は、3点目――1塁ランナーの長駆ホームインを阻止できるかだ。

「龍先輩、フライアウトに出来なくてごめんなさい。でも……せめて3点目だけはっ!」

 センターのノゾミが懸命に走り、フェンスに跳ね返った打球を最速で捕球した。
 そして、中継のアイリに向かってバックホームする。

「とりゃあああ!!」

 ノゾミが大声を出しながら、送球を放つ。
 アイリはボールをキャッチすると、すぐに本塁に向かって投げた。
 1塁ランナーのリンディルと捕手のユイが交錯する。
 判定は――

『アウトッ!!』

 間一髪のアウトだった。
 ツーアウト・ランナー満塁の状態から2得点は許してしまったものの、3点目を防ぐことには成功したのである。

『これは桃色青春高校、ファインプレイが出ました! フェンスで跳ね返った打球を、センターのノゾミ選手が最速で処理! 中継のアイリ選手は、ボールとホームを結ぶ直線上から無駄のない鋭い送球! そして、キャッチャーのユイ選手がしっかりとタッチして、ホームへの突入を阻止しました!!』

 実況ロボが称賛する。
 観客からも大きな拍手が起こった。

「ありがとう、ノゾミ! アイリ! ユイ!!」

 龍之介はベンチに引き上げつつ、仲間の名前を呼ぶ。
 彼女たちは嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに気を引き締めた。
 龍之介も、同じく気を引き締める。
 まだ試合は終わっていない。

「次はちょうど、1番から始まる好打順だ。ノゾミとアイリに出塁してもらって、俺がホームに返す! 不甲斐ないピッチングを見せてしまったし、何とか挽回してみせるぜ!」

「龍様の責任じゃありません。そもそも4番打者の私が点を入れられていないのが問題なのです。私こそ、ここまでの不甲斐なさを挽回させていただきます!!」

 龍之介とミオがそう意気込む。
 桃色青春高校は逆転こそ許したものの、こうして気合十分のまま9回裏の攻撃へと入っていくのだった。


     123456789 計
―――――――――――――――――
プリンセスガ|000000002|2|
桃色青春|00010000 |1|
―――――――――――――――――
9回表、プリンセスガーディアン・ハイスクールの攻撃終了



【高校野球】2099年東京都秋大会雑談スレ20【ダークホース桃色青春高校】

339:代走名無し@野球大好きオジサン
うおおお!!
9回表に2点を返して、逆転だああああ!!

340:代走名無し@野球大好きオジサン
ギリギリの攻防でハラハラしたが、よく追いついたな!
すごい底力だ!!

341:代走名無し@野球大好きオジサン
まさかプリンセスガーディアン・ハイスクールがここまでの連打を見せるとは……
守備だけのチームだと思っていたぜ

342:代走名無し@野球大好きオジサン
攻撃前の、姫様の激励が効いたんだろう
おそらく、あの激励がなければここまでの打線にはなっていなかったはずだ

343:代走名無し@野球大好きオジサン
しかし、1塁ランナーはあそこで無理する必要があったのか?
結果的に、2点止まりになったじゃないか
無理せずに3塁にストップしていれば、なおもツーアウト・ランナー2塁3塁で2番打者だろ?
もっと点を取れた可能性が高いと思うぜ

344:代走名無し@野球大好きオジサン
いやいや、普通に考えてあれは走るだろ
ほぼセーフになるタイミングだし
桃色青春高校の中継プレイが上手すぎただけだ

345:代走名無し@野球大好きオジサン
ノゾミ選手はやっぱり足が早いよな
フェンスに跳ね返った打球をあそこまで素早く処理できるとは……
それに、肩も悪くない

346:代走名無し@野球大好きオジサン
光ったのは中継に入ったアイリ選手だな
本塁とノゾミ選手を結んだ直線上にしっかりと位置取っていた
地味だけどファインプレイだぜ

347:代走名無し@野球大好きオジサン
ユイ選手のタッチプレイも見事だった
盗塁阻止能力だけじゃなく、クロスプレイも得意だなんて

348:代走名無し@野球大好きオジサン
不甲斐ないのは龍之介投手だな
完封勝利の直前で2失点なんてよ

349:代走名無し@野球大好きオジサン
>>348 いや、9回2失点は上出来だろ
不甲斐ないのは投手としてではなく、打者としてだよ
4番のミオ選手もそうだが、やはりクリーンナップが点を取らないと勝てないぜ
今のところ、5番のユイ選手の犠牲フライだけだもんなぁ

350:代走名無し@野球大好きオジサン
最終回の攻撃で、龍之介選手やミオ選手あたりが意地を見せるのか?
あるいは、このまま終わってしまうのか?
拝見させてもらおうか
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