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第5章

865話 交渉-4【チセ・ローズside】

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「まあ、落ち着いてくださいまし。貴方のご認識通り、わたくしはそれほど大層な存在ではありませんわ」

「そ、そうだろうとも!!」

「わたくしはただ、アイゼンシュタイン子爵家に生まれたというだけの存在です」

「なっ!? あ、アイゼンシュタイン家だと!? そんな馬鹿な!!」

 ローズが身分を明かした途端、借金取りの男が目を見開いた。
 その様子を見て、ローズはクスクスと笑う。

「あらあら……。どうやらご存じでしたのね」

「ぐっ……! ま、まあな……。そうか、アイゼンシュタイン家か……」

「ですが今は、もう1つの顔の方がわたくしにとって大切ですわ」

「もう1つ、だと……?」

 借金取りの男の言葉に、ローズは頷く。
 そして、自身の豊かな胸に手を当てた。

「わたくしの名前はローズ。Sランクパーティ『悠久の風』にて、栄えある序列6位を務める者ですわ」

「なっ……!? 『悠久の風』だと……!? あの有名なコウタ・エウロス子爵がリーダーを務める……」

 ローズが名乗った瞬間、借金取りの男が顔を真っ青にした。
 そして追い打ちをかけるように、チセが口を開く。

「私も、僭越ながら『悠久の風』の序列13位を拝命しています」

「っ……。そ、そうか。いや、そうでしたか……。これは大変失礼いたしました……」

 ローズとチセの言葉に、借金取りの男は深々と頭を下げた。
 彼の態度から見るに、どうやら『アイゼンシュタイン子爵家』や『悠久の風』という名前が効果てきめんだったようだ。
 こうして、本屋における交渉はチセやローズが優位に進めることになったのだった。
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