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第5章

653話 アスター騎士爵の事情

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「いいぞ! 腰の振り方が上手くなってきた!!」

「左様ですか!? はははっ! この歳になってまさかこのようなご指導を受けることになるとは……」

 俺の指導を受け、アスター騎士爵がそう答える。
 俺たちを乗せた馬車は、すでに目的地であるアスター騎士爵邸に到着している。
 だが、ちょうど講義がいいところだったので、停車した馬車の中で引き続き講義を行っているのだ。
 順調にいけば、残り数分ぐらいで終わるだろう。

「しかし、残念ですなぁ……」

「何が残念なんだ?」

「エウロス卿に伝授していただいたこの技巧ですが……。もう少し若い頃にエウロス卿にお会いできていれば、妻との仲ももっと良好に保てたかもしれないと思いましてな」

 アスター騎士爵が力なく笑った。
 今の彼は40代で、末端貴族家の当主だ。
 一方の妻は、隣接する男爵領の三女と聞いている。

「おいおい、さっきの話と違うじゃないか。お前と妻の仲は良好だと言っていたはずだが?」

「ははは……。エウロス卿は既に見抜かれておられるでしょう? あれは建前ですよ……。実際のところ、私と妻の仲は冷え切っています」

「ほう? なぜだ?」

「妻は……私のことを愛していないのです」

「それはまた……。なぜ分かる?」

「はは……。分かりますよ。彼女は男爵家の三女として、相応しい相手との結婚を望んでいました。ところが、平民だった私が下手に功績を上げて領地を賜ったため、政略結婚の駒として私の元に嫁ぐことになったのですから」

 アスター騎士爵は、世襲ではなくて本人の功績で爵位を得たようだ。
 その点では俺と同じか。
 まぁ、俺はいきなり男爵なので、少しばかりレベルは違うけどな。

「微妙なところだな……。男爵家の三女であれば、騎士爵家当主の嫁になってもおかしくはないと思うのだが……」
俺の感覚だとそうだ。

 ただ、貴族の階級制度については、俺はあまり詳しくないのでなんとも言い切れないが……。
 俺の言葉を聞いたアスター騎士爵は、自嘲気味に笑って言った。
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