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第5章

636話 交渉

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「俺も鬼じゃない。二人きりの宿屋で、手取り足取り商売のイロハを教えてもらうだけでいいんだ。それ以上のことは求めないから安心してくれ。やましいことは一切しない。神に誓おう」

「うぅ……」

 タニアは悩んでいるようだった。
 やはり、彼女は押しに弱いタイプらしい。
 もう一押しといったところか。

「頼むよ、タニアちゃん。エウロス男爵家の未来は君にかかっているんだ」

 俺はそう言って頭を下げた。
 金で貸しを作るのもいい。
 脅すのもいい。
 だが、最後はこうして誠意を示すことが大切だ。

(さぁ、どうだ……?)

 しばらく待つと、彼女がおずおずと口を開いた。

「……わ、分かりました。本当に、それだけで済むのですよね?」

「もちろんさ」

「そ、それなら……。でも、私なんかでお役に立てるのかは分かりませんが……」

「いやいや、そんなことはないさ! よろしく頼むよ!」

「は、はい……」

 頷くタニア。
 よしよし、上手くいったな。
 これでクリアしたようなものだ。

「さて、次の予定が決まったことだし、残っている料理を食べてしまおうじゃないか」

 俺の言葉に頷くタニア。
 彼女は2枚目のSSSSSランクのステーキを食べつつ、高級酒を口にしていた。
 かなり酔いが回ってきたらしく、頬は赤く染まっているし目もトロンとしているように見える。
 そんな状態でもなお料理を平らげようとするあたり、彼女の食い意地はかなりのもののようだ。

「その酒は美味いかい? いや、美味くないはずがないか。どこぞの名水を使って造られているんだからな」

 俺がそう言うと、彼女はコクリと頷いたあとに言った。

「とっても美味しいです……! こんなに良いお酒は初めて飲みました……!」

 うっとりとした表情でグラスを見つめる彼女。
 どうやら相当気に入ったようだ。
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