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第5章

626話 タニアとの待ち合わせ

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「やぁ、タニアちゃん。待ったか?」

 俺はそう言いつつ、待ち合わせ場所である噴水広場にやってきた。
 ここは王都のとある区画にある公園だ。
 休日ともなれば家族連れなどで賑わうらしいが、今日は平日であるため人影は少ない。
 ……というか、俺とタニア以外には誰もいないようだ。
 俺の声に反応した女性は振り返ると、作り笑顔で返答してきた。

「いえ、大丈夫です。私も今来たところなので」

 彼女は王都冒険者ギルドの受付嬢であるタニアだ。
 名前はセリアから教えてもらった。
 エルカの元受付嬢であるセリアだが、採用はタニアと同期であり、研修を共に受けた仲らしい。
 友人兼ライバルといったところか。

「そっか、それならよかったよ」

 俺がそう告げると、彼女は小さく会釈をして歩き出す。
 そのまましばらく無言で歩き続けた後、俺たちは人気のない路地裏へとやってきた。
 周囲に人がいないことを確認した上で、俺たちは隠しレストランへと向かう。

「いらっしゃいませー!」

 店員の声を聞きながら店内に入る俺たち。
 そこは個室タイプの飲食店であり、防音設備も整っているため密談にはもってこいの場所だった。
 席に着くとすぐに注文を済ませてしまうことにした。

「なんでも好きな物を頼んでいいぞ」

 俺は堂々と言い放った。
 狙っている女と共に飲食店に来たのなら、甲斐性を見せつけるべきなのだ。
 しかし、俺の言葉に対してタニアの反応はあまり芳しいものではなかった。

「ええっと……。私も少しばかりのお金なら持っていますし、そこまでしていただくわけには……」

 遠慮しているというよりは、どこか怯えている様子だ。
 そんな彼女に、俺は優しく語りかける。

「いいんだよ。これは俺からの気持ちだと思ってくれ。ほら、最高級の酒と肉料理を頼んじゃおうぜ!」

「で、でも……。これは仕事上の交流ですよね? 私には夫がいますし……」

「む……?」

 そうか。
 俺はタニアを狙う気まんまんだったが、そう言えば彼女には夫がいるのだった。
 先述の通り、男女の仲になることを狙っている女との会食であれば、当然男が奢るべきだ。
 その方がスムーズに話が進むだろうし、相手への好印象にもつながるだろうからな。

 しかし一方で、単なるビジネス上の関係の場合だと話は別だ。
 たとえ異なる性別だったとしても、あくまで個人対個人の付き合いなのだから割り勘が普通だろう。
 そもそも、この会食自体が彼女にとってはただの付き合いでしかないわけだしな。

「夫がいても関係ないさ。俺が奢りたいって言ってるんだから気にするなよ」
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