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第5章

594話 堅物

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「もちろん分かっているさ。だが、彼女は非常に優秀だ。引き抜くメリットは大きい」

 エルカから王都までの道中で、何度か戦闘を見せてもらった。
 素の実力としては、『悠久の風』の面々と比べても高い水準にある。

「でしょうな。しかし、だからこそ仕える相手には拘るでしょう。エウロス男爵は女性を口説くのがお得意のようですが、今回ばかりは相手が悪い。ナディア殿は堅物騎士としても有名なのです。これまで、浮いた話は一つも聞いたことがありません」

 ギルマスの言葉に、思わず苦笑してしまう。
 たしかに彼女は真面目だし、融通が利かない部分もあるが……それが良い方向に働いている面も多いのだ。
 堅物なんて評価は、彼女に失礼だと思う。

「ギルマスは勘違いをしているな」

「と言いますと?」

「彼女は堅物なんかじゃない。むしろとても柔らかい子だよ」

「ほぅ……?」

 ギルマスの目が光る。
 彼は有能な冒険者を欲しているのだ。
 そんな彼が、こんな目をするということは……そういうことなのだろう。

「ぜひ詳しく聞かせてもらいたいものですな……!」

「いいだろう」

 俺は頷いた。

「あれは、エルカから王都に向かう途中のことだった。山岳部の村に泊めてもらって――」

 俺はナディアとの夜について、事細かに語った。

「……ということがあったんだ」

「そ、そんなことが……! エウロス男爵は手が早いとの噂でしたが、まさか道中でナディア殿に手籠めにしていたとは……!」

「誤解を招くような言い方をするんじゃない!」

 まったく!
 人聞きの悪いことを言わないでほしい。
 俺とナディアは、ちゃんと段階を踏んでいるんだからな。
 ただ、そのスピードが少しだけ速かっただけだ。

「彼女の胸は、実に柔らかかったよ。堅物なんて、とんでもない話だ」

「なんとぉ!? あの甲冑の下には、そんな素晴らしいものが……?」

 ギルドマスターが驚いている。
 まぁ、気持ちは分からないでもない。
 騎士として甲冑を着込んだナディアには、性的な魅力を感じにくい。
 しかし、実はその下には夢のような肉体が存在していたのだ。
 ギャップ萌えというやつだな。

「ま、見ているがいい。彼女の心はすでに俺のものだ。ウルゴ陛下と上手く交渉して、きっと引き抜いてみせるさ」

「なるほど……。冒険者ギルドとしては、優秀な冒険者が増えることはありがたい。応援しております」

 俺たちは固い握手を交わす。
 その瞬間だった。

「むっ!?」

 ギルマスがさらに力強く手を握ってきた。
 まるで万力のようにギリギリと音を立てて締め上げてくる。
 一体何のつもりだ?
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