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第5章

570話 何をしている

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「そんなことは――」

「あるに決まってんだろ! だから、俺は逃げる! ここで捕まってたまるか!」

「我から逃げ切れると思っているのか?」

「やらなきゃ分からねえだろ!」

「ならば、実力で無力化するまでだ!」

 盗賊とナディアが同時に動く。

「死ね!」

「はあああっ!」

 ――キィィン!
 二人の剣戟音が響き渡る。

「な、なんて速さだ……。これが王都騎士……」

「ふふっ。まだまだこんなものではないぞ」

「ぐぅぅっ……」

「しかし、お前も盗賊風情にしては見どころがある。改めて言おう。投降すれば、悪いようにはしない。このまま大人しく捕まる気はないのか?」

「…………」

 ナディアと男が睨み合う。
 そのときだった。

「――うっ!?」

 盗賊の男がうめき声を上げた。
 彼の背中から腹部に向けて、剣で貫かれたのだ。

「な、なにっ……!?」

 ナディアが困惑の声を上げる。
 彼女は目の前にいる盗賊の男を攻撃していない。
 つまり、第三者の攻撃ということになる。

「何をしているナディア・エルカインド」

 男を背後から刺した張本人――コウタ・エウロス男爵が語りかけてくる。

「俺は『邪魔者は薙ぎ払え』と言ったはずだぞ?」

 コウタはそう言って、突き刺した状態の剣をグリグリと動かす。

「ぐっ! コウタ……エウロスぅぅうっ!! 貴様ぁぁあああっ!!!」

 盗賊の男が最後の力をふりしぼり、コウタに向かって斬りかかる。

「――ふん」

 コウタは軽く避けて、剣を男の体から引き抜いた。
 そして続けて、その剣を横に振る。

「ごふっ……」

 男の体が真っ二つになり、その場に崩れ落ちた。
 男の瞳から光が失われていく。
 その凄惨な光景を目の当たりにしたナディアは、言葉を失っていた。
 そんな彼女にコウタが話し掛ける。

「盗賊に情けをかけるな。どうせこいつには数多の前科がある」

「そ、それは……そうだろうが……。しかし……!」

「王都騎士の甘ちゃんめ。そんなことだから、お前は弱いままなんだ」

「…………」

 コウタの言葉を聞き、ナディアは黙り込む。
 彼女の心に迷いが生じていた。
 だが、それを悟られないよう、表情を引き締める。

「まぁいい。作戦はこれで終わった。残りのチームと合流し、村に帰還する。今日のところはゆっくり休むといい」

「……あ、ああ」

 ナディアは複雑な気持ちを抱えながら、返事をした。
 その後、コウタに遅れてシルヴィやユヅキたちが合流し、さらにはティータ、グレイス、ネリスたちも現れる。
 盗賊たちを殲滅した後の彼女たちの表情は晴れやかだ。
 こうして、『悠久の風』による盗賊の掃討作戦は無事に終わったのであった。
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