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第5章

569話 ナディア

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 コウタたちが盗賊を殲滅している頃――

「クソっ! やはりアイツらは強すぎる……!」

 一人の盗賊が洞窟内を必死に走っている。
 彼は『毒蛇団』の元幹部であり、残党であるこの集団内ではリーダー的役割を担っていた男だ。

「こんなところで死んでたまるか! 下っ端野郎に装備を押し付けて正解だったぜ……」

 男が一人だけ逃げ出せた理由。
 それは、事前に上等な装備を部下に押し付けていたからだ。
 ボロい装備しか着ていない彼は、コウタたちの警戒網をすり抜けることができたのだ。

「チクショウ……。アイツら、絶対に許さねぇ……。ここから逃げられたら、いつか復讐してやる!」

 男はそんなことを呟く。
 だが、それでも足を止めることはない。
 そんなときだった。

「……?」

 前方に人影が見える。
 薄暗いため顔はよく見えない。
 だが、その人物が女性であることは分かる。

「おい! そこの女! 死にたくなかったら、道を開けろ!」

「――ふむ。エウロス男爵殿の懸念通りになったか。抜け出してくる者がいるかもしれないとは思っていたが」

 女性が淡々と語る。

「ああっ!? なんだお前は!?」

 盗賊の男は足を止め、女性の方を睨みつける。

「我か? 我は王都騎士団の中隊長を務めるナディア・エルカインドだ」

「なにぃっ!?」

「お前は盗賊だな?」

「……はん。それはどうだろうな?」

「誤魔化しても無駄だぞ?」

「……」

「お前からは、一般住民とは違う匂いを感じる。間違いなく盗賊だ」

「……くっ」

「観念しろ。他の盗賊とは別行動しているのだろうが、エウロス男爵殿たちから逃げられると思うなよ?」

「……うるせぇんだよ!」

 盗賊の男が叫び、腰に差している剣を抜き放つ。
 そして、そのまま斬りかかっていった。
 ガキンッ!!
 しかし、あっさりと防がれてしまう。

「ふん。やはり盗賊。所詮はその程度か」

「く、くそっ!」

「盗賊とて、無闇に殺す趣味はない。さぁ、大人しくお縄につくんだ! 罪を償えば、まだやり直せる!」

「ふざけるな! 誰が捕まるか!!」

「仕方がないな……。適度に痛めつけさせてもらう」

「なにぃ!?」

「――【パワー・スラッシュ】」

「ぶべらっ!?」

 盗賊の男が大きく吹っ飛ぶ。

「がっ……ぐっ……」

「もう終わりか? 根性のない奴だな」

「ひぃっ!? や、止めてくれ……」

「命乞いをするのか? 見苦しいな。だが、情状酌量の余地はある。素直に投降するなら、王都まで連れていってやろう。どうだ?」

「……ど、どうせ投降しても碌な目に遭わない。奴隷として売り払われるか、殺されるだけだ!」
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