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第5章

513話 真なる強者

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 俺たち『悠久の風』への抵抗を続けてきた『毒蛇団』。
 その終わりの時が訪れようとしている。
 シルヴィやユヅキの活躍により、下っ端や中堅構成員たちは撃破済み。
 頭領のアルヴィンがミルキーやルンを人質に取ったのは少々厄介だったが、ネリスが裏切ったフリをしてくれたおかげで、無事に電流スイッチを奪うことができた。

 今は俺の風魔法により、アルヴィンは空中に固定されている。
 こうなっては、彼はまともに抵抗もできない。
 できるとすれば――

「殺せぇ! そ、その男を殺すんだ!! ネリスぅ!!!」

 こうして、かつての部下であったはずの彼女に懇願することだけだ。
 彼の言葉を受け、ネリスがニッコリと笑う。

「ふふっ。アルヴィン様……貴方との思い出が走馬灯のように蘇って参りました」

 アルヴィンとネリスの間にも、ちゃんと歴史があるのだろう。
 黒狼団の頭目カイゼルとグレイス。
 あるいは、俺とシルヴィのようにな。

「あの女、また……!」

「今度はコウタを刺させたりしないから……!」

 シルヴィとユヅキが俺の前に陣取る。
 さっき刺されたのは、ただのフリだ。
 そう心配するようなものではない。
 俺は悠然と、ネリスとアルヴィンの様子を見守る。

「ふふっ。あたくしは、アルヴィン様が強いと思っていました。少なくとも、この町にいる限りは最強だと」

「その通りだろ……! 俺を阻む奴らは全員殺してきた! 町の衛兵! 王都から来た騎士! 縄張りを侵す冒険者ども! 全て俺の力でねじ伏せてきたんだ……!」

「ええ、そうですね。でも――」

 ネリスがクイッと顎を持ち上げる。
 彼女の瞳には、宙に浮かぶアルヴィンの姿が映っていた。

「貴方は所詮、井の中の蛙だったようですね。こちらにおられるエウロス様こそ、真なる強者でございます」

「なにぃ!?」

 ネリスの言葉を聞き、アルヴィンの顔色が真っ青になる。

「お前、まさか……。裏切ったのか!?」

「先程からそう言っているではありませんか。まさかまだ、土壇場で助けてもらえるなんて思っていませんよね?」

「ぐっ……。そんな……」

「アルヴィン様。今までありがとうございました。貴方のおかげで、とても楽しい毎日を過ごすことができましたよ。でもそれも、今日で終わりです」

「う、嘘だ……。お前は俺の女だぞ……。なぁ、頼むよ……。もう一度、俺の女に戻ってくれ……。何でも言うことを聞いてやろう……。そうだ! 金をやる! 地位もだ! 『毒蛇団』の副頭領に引き上げてやろう! だから――」

「もう無駄ですよ」

「ぐああっ!!」

 ネリスが毒々しいナイフでアルヴィンの左手の甲を突き刺す。

「チンケな盗賊団の副頭領になんて、今のあたくしにとってはどうでもいいことですわ。エウロス様のご寵愛をいただければ、それで満足なのですから」

「なにぃっ!? ご寵愛だと? お前、まさか……」

 アルヴィンの表情が絶望に染まる。
 その様子に、ネリスは微笑みを浮かべたのだった。
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