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第5章

504話 地下への階段

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「グレイス?」

「ほら、ここに小さな穴があるだろ?」

「その穴がどうかしたのか?」

「分かりにくいようにカモフラージュされているけどよ。たぶんこれは鍵穴だぜ。ここをこうして……ほらよっと」

 ガチャリ。
 鍵が開くような音が鳴る。

「おおっ! すごいな、グレイスは」

「へへっ、これぐらいは朝飯前ってもんよ」

 グレイスが嬉々とした表情を浮かべる。
 『兇賊』のジョブを持つ彼女にとっては、ピッキングはお手の物らしい。
 実務としての盗賊の経験もあるしな。

 俺は感心しつつ、扉を開ける。
 中は暗い。
 だが、奥の方から微かな光が漏れているようにも見える。
 その上、『パーティメンバー設定』による方角把握の効果でも、ミルキーとルンはこの先にいることが示されている。

「よし、いくぞ」

 俺たちは慎重に階段を下っていく。

「……」

「……」

「……」

 緊迫した空気が流れる。

「また扉ですにゃ」

「……えっと。結構頑丈そうな扉ですね」

 セリアとエメラダが指摘する。
 階段を下りてきた俺たちを出迎えたのは、重厚な金属製の扉だった。

「まさかの二段構えとはな……。グレイス、いけるか?」

「うーん……。鍵穴らしきものは見当たらねぇな」

「ここまで重厚そうな扉で、鍵なしということはないと思うが……」

「ひょっとすると内側からしか開けられねぇタイプかもしれねぇ」

 確かに、セキュリティを万全にするならばそうなるか。
 外側と内側で合言葉を設定するとか、あらかじめ定められた時刻にだけ鍵を開けておくとか。
 ただの鍵よりも、そうした方が安全なのは間違いない。

「ふむ……。とりあえず強行突破を試してみるか。――【破邪剣皇】!」

 俺はとあるジョブのスキルで、扉を切り刻んでみた。
 しかし――。
 ガキンッ。
 硬質な音が鳴り響き、跳ね返されてしまう。

「ダメか……」

「いくらコウタくんでも、金属製の扉に剣撃は相性が悪いのです」

「確かになぁ。金属製の扉をどうにかするには、殴打か、高熱か、あるいは――」

「ここはボクに任せてもらえるのです? ボクのハンマーなら、何とかなるかもしれないのです」

「ふぅむ……」

 俺は少し考える。
 ミナの剛力から繰り出されるハンマーなら、ワンチャンはあるだろう。
 いくら重厚な扉とはいえ、例えば開閉する蝶番あたりの頑強さはさほどでもないはずだ。
 破壊できる可能性は十分ある。

 だが、それだと物音が大きすぎて『毒蛇団』に侵入を勘付かれる可能性がある。
 もう既に気付かれている可能性もあるとはいえ、可能な限りリスクを減らしたい。
 他に方法は――。

「ううん。ここは僕に任せてもらった方が確実だと思うよ」

「なに? ユヅキが?」

 彼女の得意魔法は土魔法である。
 近接ジョブは『聖獣剣士』だ。
 どちらも、金属製の扉を粉砕することには向いていないように思えるが……。

「わかった。ここはユヅキに任せてみよう」

 わざわざ名乗りを上げたのだ。
 自信があるのだろう。
 俺は彼女を信じて、任せることにしたのだった。
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