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第5章

501話 再突入の準備

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 誘拐されたミルキーとルンを追跡した俺たち『悠久の風』。
 突入のタイミングや作戦を考えていたところ、チセと遭遇した。
 彼女は『過剰魔力症』の患者であり、俺が治療を試みていた少女だ。
 なおかつ、ミルキーとルンが運び込まれたらしき家の住民でもある。

「チセ、君はどうしてここに来た? あの家に忘れ物でもあるのか?」

 『毒蛇団』の掃討作戦を実施するにあたり、チセたちの一家には一時的に一般街の宿屋に避難してもらっていた。
忘れ物でもなければ、ここに来る理由はないだろう。

「いえ……。怖そうな人たちが宿屋に入った後、中からは大きな物音がしてきたのです。そしてしばらくして、2つの大きな麻袋を持った男たちが出てきました」

「大きな麻袋……。おそらく、その中にミルキーとルンがいたのだろうな……」

「そのミルキー様とルン様がどなたかは存じませんが、これは男爵様にとって一大事なのではないかと思い、こっそり追いかけてきた次第です」

「よく来てくれた。その行動力は素晴らしいぞ」

「あ……ありがとうございます」

 俺が褒めると、チセは照れくさそうにした。

「それで、その男たちがあの家に入ったのは間違いないのか?」

「はい。あの家は、本来は私たち一家の家です。私が見間違えるはずありません」

「ふむ……」

 チセの言うことはもっともだ。
 確か、彼女たち一家は半年ほど前に引っ越してきたのだったか。
 また、チンピラから聞き出した情報によれば、そのさらに半年前までは『毒蛇団』の構成員たちが出入りしていたとも言う。

(情報を統合すると……。あの家は、普通の家に見せかけた隠しアジトといったところか?)

 『毒蛇団』は闇の組織だ。
 おそらく、スラムにいくつかの拠点を持っているのだろう。
 スラムの奥地にあった最も大きな拠点は、つい先ほど俺たち『悠久の風』が立ち入り捜査を行なった。
 だが、ほぼもぬけの殻だった。

 おそらく、他のアジトに移ったのだろう。
 その移動先が、チセたち一家が少し前まで住んでいた家だというわけだ。

「ありがとう、チセ。有益な情報だ」

 ネリスから聞き出した情報や、『パーティメンバー設定』の恩恵による方角把握でもあの家が怪しいと目星を付けていた。
 チセの証言は、その信憑性をさらに高める重要なものである。
 これで堂々と突入ができるというものだ。

「さて、では突入するぞ。みんな準備はいいか?」

「はい!」

「仲間を取り返そう!」

「ミルキーさんの無事を祈るのです!」

「へへっ。ルンの泣き顔を見るのが楽しみだぜ!」

 仲間たちがやる気に満ちた声を上げる。
 リンは強がってはいるが、声が少し震えている。

 泣き顔か……。
 それで済めばかなりマシな方だな。
 なにせ、盗賊に誘拐されたのだ。
 それも、俺たち『悠久の風』と敵対している盗賊たちにだ。
 ひょっとすると、もう……。

(いやいや、まだ大丈夫だ!)

 俺の『パーティメンバー設定』による方角探知は機能している。
 少なくともまだ生きてはいるはずだ。
 なぜか『念話』が届かないのは不安だが……。
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