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第5章

458話 懸念

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「ふぅむ。なかなかに病状が進行してしまっているようだな」

 過剰魔力症は、罹患者を深い睡眠に誘う。
 健常者であれば、寝ているときに手や頬をつつかれても、何かしらの反応を示すものだ。
 しかし、チセの場合はそれがなかった。
 これはつまり、チセの病状がかなり進行していることを表している。

「その通りだ。だからこそ、俺たちは無理をして引っ越しを決行した」

「そうか……」

「なあ……もういいだろ? 医者の見立てでは、経過は良好なんだ。このままここで住み続ければ、いずれ症状は収まるはずだ」

「確かにそうなのだろう。だが、それは一つ大切なことを忘れているぞ」

 俺はそう指摘する。

「どういうことだ?」

「さっきも言ったが、このスラムに巣食う『毒蛇団』の掃討作戦を決行中なんだ。経済的な理由でここに住んでいるだけの者には危害が及ばないように留意するつもりだが、万全とは限らない。そもそも、ここに住んでいる時点で『毒蛇団』と何らかの関わりを持っていると疑われることになる」

 まさに今、俺がここに立入り捜査をしている最中だしな。

「それは……」

「男の一人暮らしなら、どうとでもなるだろう。女と暮らしているなら、さっきの俺じゃないが、多少は辱められる覚悟が要る。そしてさらに、年頃の娘……しかも難病により半ば寝たきりの美少女となれば、男どもの劣情を刺激するには十分すぎるほどだ。『毒蛇団』掃討時にどさくさに紛れ、その構成員に乱暴されるかもな。あるいは素行の悪い衛兵に目を付けられ、取り調べと称して酷い目に遭わされることだって考えられる」

「……」

「そんな状況で、このままここでチセと共に暮らし続けるのか?

「くっ……。だが、仕方がないじゃないか! 他に方法がない! 金もカツカツなんだ!!」

 男はDランク冒険者だ。
 1人暮らしには十分な額を稼いでいるだろう。
 妻との2人暮らしもなんとかなるか。
 だがそこに年頃かつ難病持ちの娘を抱え、しかも半年前に引っ越しを強行したばかりとなれば、経済的に困窮しているのも頷ける。
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