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第5章

425話 あーん

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 深夜に、リン(?)に病人食を作ってもらった。
 暗くてよく顔が見えないのだが、兎耳が生えているし、これまでにずっと聞いてきた声質なので、間違いなくリンだ。
 病人食を受け取った俺は、自分の手でスプーンを掴もうとするが、上手く力が入らない。

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですかぁ?」

 リンは俺を心配して、ベッドの横まで近づいてきてくれる。
 そして、俺の手を取ると、ゆっくりとスプーンを持たせてくれた。

「あ、ああ……悪いな」

 俺は何とか礼を言う。

「いえいえぇ。気にしないでください。それよりも、早く食べないと冷めちゃいますよぉ」

「そうだな……」

 俺はそう言って、スープを口に含む。
 リンの補佐があるので、その動きは安定している。
 温かいスープが、胃の中へ落ちていく。

「うまいな」

「ふふ、よかったですぅ」

 リンが嬉しそうな声で言った。

「ふぅ……。しかし、これほど体が弱ったのは久しぶりだ」

「そうなのですかぁ?」

「ああ。……悪いが、続きはリンの手で食べさせてもらえないか?」

 もはや、スプーンを持つことすら覚束ないのだ。
 さっき飲んだひと口のスープが吸収され始めたら、一気に改善していくだろうが……。
 今はまだまだ体調が芳しくない。

「そ、それは構いませんけどぉ。少し照れますねぇ」

「リンがこんなことで照れるとは、意外だな。……いや、そうでもないのか?」

 リンは男勝りな性格だ。
 日中の魔物との戦闘時も、夜の運動会でも、アグレッシブな動きを見せる。
 しかし意外に乙女なところもある。
 こうしたやり取りで照れても、不自然とまでは言えない。

「ええっとぉ。だから、ワタシはお姉ちゃんじゃなくて――」

「話は後だ。今は、少しでも早く食べさせてくれ。ほら、あーん」

「あ、あ~ん」

 俺は口を開けて待つ。
 すると、リンが恐る恐るとばかりにスプーンを差し入れてきた。

「どうですかぁ? おいしいですかぁ?」

「ああ。最高に美味しいよ」

「えへへ、良かったぁ」

 リンは心底安心したような声を出す。
 いつもの彼女の声質より、やや甘ったるいような気がするが……。
 気のせいか。
 パーティリーダーである俺が弱っていれば、いつもは強気のリンも少し態度が変わるのかもしれない。

「はぁ……はぁ……」

「コウタさまぁ。次は固形の病人食を食べましょうかぁ。ちゃんとほぐしていますのでぇ」

「頼む……」

 俺はそう返事をする。
 正直、喋っているだけでも辛い。
 だが、ここが踏ん張りどころだ。
 スープに加えて固形物を食べておけば、後は消化を待つだけとなる。
 栄養さえあれば、俺の肉体は風邪ごときに負けないのだ。
 リンとともに、この窮地を乗り越えることにしよう。
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