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第5章

264話 美少女の涙は見過ごせない

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 エメラダと知り合ってから1週間ほどが経過した。
 あれから、定期的に薬草採取の依頼を受注している。
 今日も、採取を終えて冒険者ギルドに報告を済ませたところだ。

「コウタさん。今日はエメラダちゃんの工房に行かれる予定でしたかにゃ?」

 冒険者ギルドの受付嬢セリアが訊ねてくる。

「ああ。もうすぐ約束の時間だからな」

「彼女のこと、できれば贔屓にしてほしいですにゃ」

 セリアがそんなことを言う。

「どういう意味だ?」

「エメラダちゃんは、腕は確かなのですにゃ。でも、仕入れや販売ルートの問題でなかなか商売がうまくいかないみたいなんですにゃ。あと、慈善活動もしているらしいですにゃ」

「なるほど。腕のいい調合士が、工房の経営に困っているということか」

「そういうことですにゃ。ギルドとしてもあれこれと便宜を図ってあげているのですが、公平性の問題があるので限界があるのですにゃ」

「わかった。できるだけ配慮しよう」

「ありがとうございますにゃ!」

 俺はセリアのお礼を聞きながら、冒険者ギルドを出る。
 そして、『エメラダの工房』に向かった。

 工房の近くまでやってきた。
 店の前が騒がしい。
 何かあったのだろうか。

「おい! 舐めてんじゃねえぞ! クソガキ!」

「うぅ……。ごめんなさい」

 中年の男が大きな声で怒鳴り散らしている。
 一方のエメラダは涙目になって謝っていた。

「ふん。言葉じゃなくて金を寄越せと言っているんだよ!」

 男はエメラダの胸ぐらを掴む。

「ひぃっ」

 エメラダは半泣き状態で怯えている。
 美少女の涙は見過ごせないな。

「おいっ。何をやってるんだ?」

 俺は男に声を掛けた。

「あん? なんだてめえ?」

「俺は通りすがりの冒険者だ。そんなことより、その子が嫌がっているように見えるが?」

「はぁ? なんだとこの野郎!」

 男はエメラダ解放したかと思うと、俺に向かって殴りかかってきた。
 だが、遅い。
 俺は拳を受け止めた。

「な、なんだと!?」

「遅過ぎる……。蚊が止まるかと思ったぞ」

「ふざけんな! この野郎!」

 さらに殴ろうとする男の手を、俺は掴む。

「くそがああああっ!!」

 力任せに振り払おうとするが、びくりともしない。
 そこそこの力はあるようだが、今の俺の敵ではないな。

「悪いが、俺も暇じゃないんでな。これ以上は付き合ってられない」

 俺は男の手を握る力を強める。

「ぐっ……」

「さっさと帰れ。それとも痛い目にあいたいのか?」

「ちっ。覚えていやがれ!」

 男は捨て台詞を吐き、去っていった。
 後に残されたのは、俺たち『悠久の風』と、エメラダ。
 涙目の彼女のケアをしておかないとな。
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