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第5章

256話 宿屋へ

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 俺たち『悠久の風』は、エルカの町に帰還した。
 そして、宿屋へとやって来た。
 この世界に来て間もない頃、お世話になった宿だな。
 懐かしい。
 しかし、受付にいるのは見覚えのない顔だった。

「ようこそおいで下さいました。当店『憩い亭』の受付をしております、セバスと申します。ご予約を頂いておりますでしょうか?」

「いや、予約はしていない。8人部屋を1つ頼みたい」

「畏まりました」

 セバスは恭しく頭を下げる。

「お客さんたち、もしかして以前ウチに泊まったことあるかい?」

 受付の奥にある扉から出てきた中年の女性が話しかけてきた。

「ああ、お久しぶりだな。冒険者のコウタだ」

 俺は答える。

「そんな名前だったね。思い出してきたよ。あのときはそっちの嬢ちゃんと3人組だったねぇ」

 女性はそう言ってシルヴィとユヅキを見る。
 2人は小さく会釈をした。

「あれから人数が増えたのさ。今日は仲間と一緒に泊まりに来たんだ」

 ミナとリンはこの町に家がある。
 しかし、しばらく手入れしていないので泊まるには適さないだろう。
 ティータ、ローズ、グレイスはもちろんこの町に家を持っていない。

「そうかい。8人部屋だったね? セバスさん。案内してやんな」

「はい、奥様」

 セバスが女性の指示に従い、俺と仲間たちを部屋の前まで連れて行く。
 客の俺たちにタメ口で、受付のセバスにさん付け?
 言葉遣いが適当だな。
 まあ、年齢だけを考えるのなら妥当ではあるが。

「こちらのお部屋にお願いします」

「わかった。ありがとうな」

「いえ。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」

 セバスは一礼して去っていった。
 ずいぶんと丁寧な物腰だ。
 こんな普通の宿で働いているのに違和感を覚える。
 以前はいなかったし。
 何か訳ありかな?
 まあいい。
 俺たちは部屋に入り、荷物を置く。

「ふう……。ようやく一息つけたな。お茶でも入れて休憩するか」

「はい。わたしにお任せください!」

 シルヴィがすぐさまそう言う。
 彼女は腰が軽い。
 奴隷という立場を考えると当然ではあるが、彼女の実質的な立場は俺の恋人だ。
 もっと図々しい態度でも構わないという話はしている。
 しかし、染み付いた性分はなかなか抜けないらしい。

「シルヴィ。僕の分もよろしく頼むよ」

「わたくしもお願い致します」

 ユヅキとローズがちゃっかりと乗っかる。

「はい。ご主人様のついでに、皆さんにも入れてあげますね」

 シルヴィは奴隷という立場上、他のメンバーに対して一歩引いた態度で接する。
 しかし最近は、慣れてきたのか若干の変化がある。

「……ありがとう。シルヴィちゃん……」

「乾いた喉に染み渡るぜ!」

 ティータとグレイス、そして他のみんながお茶を受け取り、口を付ける。
 こうして、俺たちはしばらくの間、宿屋の一室で休憩したのだった。
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