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第3章 武の名地テツザンへ

165話 ヒール

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 ビッグベアーを無事に討伐した。
 俺たち『悠久の風』の狩りは順調だと言っていいだろう。
 次なる獲物を探して歩き始めようとした、その時。

「……あら? コウタ殿、腕に傷がありますが……」

 ローズが気づいたように言った。

「え?」

 俺は左腕を見る。
 ……いつの間にか、かすり傷を負っていたみたいだった。
 痛みは感じないが、血が流れ出ている。

「これぐらい大丈夫だ。唾つけとけば治るって」

「いけませんわ。バイキンが入ったらどうしますの? わたくしが治療して差し上げますわ」

 ローズがそう申し出てきた。

「いや、別にいいよ。そこまでのことじゃないし」

 俺はやんわり断るが……。

「遠慮なさらずとも結構ですわ!」

 ローズは強引に近づいてきて、俺の腕を掴む。

「……仕方ない。ではお言葉に甘えてお願いしようかな」

 諦めて、俺は彼女の好きにさせることにした。
 彼女が何やら詠唱を始める。

「癒やしの女神よ……」

 ローズの両手が光を帯び始めた。

「おお、すごい」

 思わず感嘆の言葉が出る。

「ヒール」

 彼女が魔法を発動させると、みるみるうちに傷が塞がった。

「ありがとう。ローズ」

「いえ、当然のことをしたまでですわ」

 微笑みながらローズは答える。

「でも、本当に助かった。こういう治癒系のスキルはなかなか使える人材がいないんだ。貴重な存在だぞ」

 MSCでも、やや希少な存在だった。
 他の魔法系のジョブと比べても、少し特殊な取得条件があるのだ。
 もちろん真っ当に研鑽しても取れるのだが、適性がなければ相当な時間ぎ掛かる。

「そ、そんな……。褒めすぎですわ! もうっ」

 ローズは照れたのか、顔を赤らめている。

「やれやれなのです。コウタくんは女の子と仲良くなるのが早すぎるのです」

 ミナがジト目で見てくる。

「え? 何かまずいか?」

「まずくはねえが、なんとなくモヤっとするぜ」

「そうだね。僕のことを蔑ろにしたら、一生恨むからね? コウタには、どんどん稼いでもらわないと」

 リンとユヅキがそう言う。
 俺と彼女たちは、やることをやっている。
 いつ子どもができてもおかしくない。

 妊娠時には女性は働きにくくなる。
 初期であれば軽い労働くらいはできるだろうが、冒険者稼業は厳しい。
 その間の生活費や子どもの養育費は、男の俺が稼ぐ必要があるだろう。

「絶対に蔑ろにしないさ。それに、お金のことも任せておけ」

 俺は『英雄』のジョブを取得済みだ。
 その副次的な効果により、精力や夜のテクニックが強化されている。
 女性が何人いようと、蔑ろにすることはないだろう。

 さらに、俺には各種のチートスキルがある。
 MSCで培った知識や経験もある。
 冒険者ランクをどんどん上げて、稼いでいくことも可能だ。

 今の俺は冒険者ランクCだ。
 今回の功績でBに上がるかもな。
 いや、さすがにビッグベアーくらいではまだ不十分か?

 ランクBになってくると、下級貴族くらいの発言力や影響力を持てるようになるはず。
 ローズやクラウスのアイゼンシュタイン家は、子爵家と言っていたか。
 子爵家は貴族の中でも中級くらいだ。
 俺がBランクになれば、ローズとの仲を公式に認められる可能性もあるだろう。

「とにかく、これで討伐任務完了だな。みんな、ご苦労さん」

 こうして、俺たちは無事に魔物を狩ることができた……かに思われた。
 だが、その直後……。
 ドゴオオオンッ!!!
 少し離れたところから、突然もの凄い爆発音が響いた。
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