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第3章 武の名地テツザンへ

126話 壁ドン

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 宿屋の一室で、酒盛りをしているところだ。
 ユヅキに口移しでエールを飲ませてもらった。
 酔いのせいか、今夜の彼女は非常に積極的だ。

「ユヅキさんばかりずるいのです」

「おう。コウタっちを独り占めするなよな」

 ミナとリンがユヅキを押し退けて、俺に抱きついてきた。
 いつの間にこれほどまでみんなの好感度が上がったのだろう?
 以前からある程度深い仲にはなっていたし、俺から彼女たちへの好意は間違いのないものだが。

「わ、わかったから、そんなに強く引っ付くなって」

「わたしのことも構ってください!」

 さらにはシルヴィが負けじと割り込んできた。
 そうして、宿屋の部屋での酒盛りは、カオスな様相となった。

 どんちゃん騒ぎは続いていく。
 この空気なら、もしかすると『英雄』の取得条件である”あれ”も可能かもしれない。
 いざ尋常に!
 ……そう思ったが――
 ドン!!!

「ちっ! うるせえぞ、隣のやつ! 部屋で騒いでるんじゃねえよ!!!」

 隣の部屋の宿泊客から、壁越しにそう言われてしまった。
 悪い意味の方の壁ドンだ。

「す、すんませーん」

 俺はそう謝っておく。

「ふう。まだまだ飲み足りないが、そろそろお開きにするか……」

 これ以上騒いで、また怒られたら問題だ。
 宿屋の方から注意が来て、最悪出禁になる可能性すらあるだろう。
 それは避けたい。

「えー。まだ飲み足りないないのです!」

「そうだぜ。朝まで飲もうぜ!!」

 ミナとリンが駄々をこねる。

「飲むかどうかは別として……。少し夜風に当たらない? さすがにみんな酔い過ぎだと思うな」

 ユヅキが提案してきた。
 確かにみんな酔っている。
 ユヅキも含めてな。

「なら、外に出てみようか。一応、俺のストレージに酒瓶を入れておくよ。基本は散歩での酔い醒ましが目的だから、飲むことはないだろうけど」

「ご主人様と夜のお散歩……。すてきです!」

「あたいも行くぜ!」

 シルヴィとリン。
 それにユヅキとミナも加えて、みんながついてきてくれるようだ。

「じゃあ、行こう」

 俺たちは宿から出て、通りを歩く。
 夜風が涼しい。

「町中に向かうか?」

「ボクはむしろ、町外れに行ってみたいのです」

「確かに行ってみたいかも。エルカの町の近郊とはまた違った自然の雄大さがあるよね」

 ミナとユヅキがそう答える。
 エルカの近郊は、緑が豊かだ。
 ホーンラビットが生息しているエルカ草原や、フォレストゴブリンやクレイジーラビットが生息しているエルカ樹海がある。

 そして、ここテツザンの周囲には山が広がっている。
 やや荒れ気味の山だ。
 緑は少なめだが、これはこれで荒々しい自然の雄大さを感じる。

「よし。じゃあ、山に向かって歩いていこう」

「「「「おー!」」」」

 俺は、みんなと一緒に山の方に足を進める。
 適度に酔いを覚まして、明日に備えたいところだ。
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