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第2章 ダンジョンへ挑戦 ミナ、リン

41話 料亭ハーゼ

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 1日の狩りを終えて、料亭ハーゼの前までやってきた。
 いい肉料理を出す店だ。

「くんくん……。相変わらず、食欲をそそる香りがします」

「楽しみだね。僕もここの料理は好きだ」

 シルヴィとユヅキがそう言う。
 ここの料理は、少しだけ高めの価格設定だ。
 さすがに毎日は来れないので、1週間に1回ぐらいの頻度で訪れている。

 俺を先頭に、店内に入る。

「よう。リン。3人席は空いているか?」

「いらっしゃい。コウタっち。好きなところに座りなよ」

 店員のリンが出迎えてくれる。
 金兎族の少女だ。
 金髪に、ウサギ耳が生えている。

 俺たちは、空いている席に座る。
 そして、注文する料理を考え始める。

「よし。ここは、リトルボアの肉炒めを大盛りで……」

「それもいいですが……。わたしはワイルドバッファローのステーキを推します!」

 シルヴィがそう言う。
 彼女が俺の意見に賛同しないのはめずらしい。
 食い物には特に拘りがあるのだろう。

「僕は……レッドピッグのソテーを食べたい」

 ユヅキがそう言う。

「レッドピッグのソテーは、前回注文しただろう。今回はやめておけ」

「別にいいじゃない。おいしいものは、毎回頼むべきだよ」

「わたしはワイルドバッファローのステーキを……」

 俺、ユヅキ、シルヴィ。
 3人とも譲らず、注文する料理の議論が加熱していく。
 そうこうしているうちに、リンが注文を聞きにきた。

「おう。注文は決まったか?」

「ああ、リトルボアの肉炒めの大盛r……」

「いえ! ワイルドバッファローのステーk……」

「ううん! レッドピッグのソテーだよ!」

 リンに対して、俺、シルヴィ、ユヅキが口々にそう答える。

「へへっ。あたいの料理で、そこまで熱くなってくれるのは嬉しいぜ。3つともつくるのでいいな? おいしくつくるから、待っててくれよな!」

 リンはそう言って、厨房に向かっていった。

「しまった……。予算がまたオーバーする……」

 俺は頭を抱える。

「いいじゃない。また稼いでいけば」

「そうですね! わたしもがんばりますよ!」

 まあそれはそうなんだけどさ。
 ここの料理は結構いい値段するから、1日分の稼ぎが平気で飛んでいくんだよな。
 やはり、毎日は来れない。

 そんなことを考えつつ、俺は料理が来るのを待つ。
 そして、しばらくして。

「おう。待たせたな。リトルボアの肉炒めの大盛りと、ワイルドバッファローのステーキと、レッドピッグのソテーだぜ!」

 リンが料理を持ってくる。
 両手と頭の上に皿を載せている。
 見事なバランス感覚だ。
 しかし、少し危なっかしいな。

「……っとと」

 リンが不意にバランスを崩す。
 両手はともかく、頭の上にまで料理を乗せるからそうなるんだ。
 彼女の体が倒れ込んでいく。

「あ、危ない!」

 俺は彼女を受け止めるべく、彼女が倒れ込んでいくところに先回りして体を滑り込ませる。
 料理も心配だが、まずは彼女の体を受け止めることが大切だ。
 それに、こんな状況なら多少変なところを触っても不可抗力だよな!
 むほほ。

「ほいっと。いやー、危ねえ危ねえ」

 リンが自力で体勢を立て直した。
 体はもちろんのこと、料理も無事なようだ。
 せっかく、俺が身を挺して受け止めようとしたのに。

「…………」

「おっ? コウタっち、あたいを受け止めようとしてくれたのか。ありがとな!」

 倒れ込む俺の頭上から、リンがそう声を掛けてくる。
 彼女は自力で体勢を立て直したので、結果的には俺が1人でズッコケたような絵面になっている。
 少し惨めな気持ちだ。

「どういたしまして……」

 俺はそう返す。
 リンの好感度稼ぎやラッキースケベは失敗したが、彼女がケガをせず料理も無事だったのはいいことだ。
 気を取り直して、食事を楽しむことにしよう。

 俺は起き上がるために、まずは視線を上に向ける。

「……むっ!? ……金色か……。ド派手だな……」

 俺はある物を視界に捉え、そうつぶやく。

「おっ、おお? コウタっち、何覗いてんだよ。金取るぞ?」

 リンがそう言う。
 あまり羞恥心がないタイプか。
 羞恥心が強いユヅキとは対照的だな。
 ちなみに、シルヴィやミナの羞恥心は普通ぐらいだと思う。

「コウタ、さいてー」

 ユヅキが冷たい目で俺を見てくる。

「ご主人様……。わたしのなら、いつでもご覧になっていただいて構いませんよ?」

 シルヴィがそう優しい声を掛けてくれる。

「い、いや……。これは不可抗力だ。すまなかったな、リン」

 意図せず、スカートの中を覗いてしまった。
 これは事故だ。
 断じて、意図的ではない。

「まあ、別にパンツの1枚や2枚見られてもどうってことねえけどよ。そういうことをしたいんなら、正面から堂々と誘えよな」

 リンは堂々としているな。
 かっけえ……。

 しかし、彼女の顔はほんのりと赤くなっている。
 おそらく、彼女が経験豊富で慣れているというわけではなくて、あくまで性格としてサバサバしているだけといったところだろう。

 ……と、そんなハプニングはあったものの、その後の食事は存分に堪能させてもらった。

「うまい。いやこれは……、かなりうまい!」

「はぐはぐ。はぐはぐはぐはぐ」

「うーん! 生きてるってすばらしいね!」

 シルヴィは無我夢中でがっつき、ユヅキは何やらポエムじみた感想を述べている。

「おーい、リン。この肉料理を一皿追加だ!」

「それと、こっちも追加をお願いします!」

 俺の言葉に、シルヴィがそう被せる。
 彼女は俺の奴隷なのだが、最近は遠慮がなくなってきている。
 俺にとっては、顔色を伺われてビクビクされるよりはずっといい。
 この調子で、恋人や家族のようにお互いに気を許した親密な関係を築いていきたい。

「はいよー。相変わらず、たくさん食べる2人だぜ」

「僕も、これを追加を頼むよ」

「おっと。こっちもか。大食い3人組のパーティだな。あたいも稼がせてもらうぜ!」

 俺、シルヴィ、ユヅキは3人ともよく食べる。
 リンにとって、俺たちは太客といっていいだろう。

 俺たちはおいしい料理を食べることができ、リンは自分の料理が認められつつ稼ぐこともできる。
 みんなハッピーないい関係だ。
 今後も、この料亭ハーゼを贔屓にしていきたいところである。
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