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第1章 初級冒険者として活躍 シルヴィ、ユヅキ

34話 『土魔法使い』の取得

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 ユヅキが無事にシステム上のパーティに加入した。
 さっそくレベリングといきたいところだが、その前にやっておきたいことがある。

「コウタ。さっきのは何だったの? 『コウタのパーティに勧誘されています。受諾しますか?』っていうやつ」

「今は気にしないでくれ。それよりも、やってほしいことがある」

 パーティについて詳しく説明するのは後でいいだろう。

「やってほしいこと?」

「ああ。……おっ、この石がいい。これを洗って、と」

 俺は細長い石を拾う。
 円柱形の石だ。
 直径5センチ、長さ20センチくらいである。

 俺はそれを、持ち歩いていた飲料水で洗う。
 ユヅキとシルヴィはそれを不思議そうな顔で見ている。

「ユヅキ。ちょっとこれをしゃぶってみてくれないか?」

「え、ええと。それにいったい何の意味が……? いやだよ、そんなの」

「ちゃんと洗ったからきれいだぞ」

「そうじゃなくて、やる意味がわかんないよ……」

 ユヅキがそう訝しげにそう言う。

 くそっ。
 こうなるか。

 シルヴィに俺への言葉責めを依頼した際には、少し戸惑いつつもやってくれた。
 彼女は俺のことを盲信してくれているところがあるからな。
 立場的にも、一応は奴隷だし。

 しかし、ユヅキと俺の関係は対等だ。
 彼女の兄ユーヤに対して俺は貸しがあるが、彼女本人に対して貸しはない。
 年齢は彼女より俺のほうが少し上だが、冒険者に年齢はあまり関係ない。
 冒険者ランクは同じDだし、経験自体は彼女のほうが上だ。

「仕方がない。シルヴィ、少し手本を見せてやってくれ」

 俺はシルヴィにそう振る。
 一度手本を見ることによって、謎の行為に対する心理的なハードルは下がるだろう。
 それに、シルヴィがこれをやることにも一応意味はある。
 彼女が『土魔法使い』のジョブを取得できれば、将来的にサードジョブ以降が開放されたときの候補になる。

「わかりました! こうですか?」

 シルヴィは小さな口をめいいっぱい広げ、円柱形の石を頬張る。
 なんだか少しいけないことをしている気分になる。

「悪くない。だが、もっと奥までくわえるんだ」

「んん! んーっ!」

 シルヴィは俺の指示に素直に従う。
 そして、しばらくして。
 シルヴィが無事に『土魔法使い』のジョブを取得した。
 やはり、MSCの裏技じみたジョブの取得方法は、この世界でも通用しそうである。

「よし。もういいぞ、シルヴィ。ありがとう」

「ぷはっ! いえ、どういたしまして。なんだか、新たな道が拓けたような気がします」

 シルヴィが爽やかな顔でそう言う。
 新たな道とは、どういう道なのか。

 冒険者としての新たな道か?
 しかし、彼女は『土魔法使い』のジョブを取得しただけであり、ファーストジョブやセカンドジョブに設定はしていない。
 ステータスやスキル上の恩恵は受けていないはずだが……。

 冒険者として以外の新たな道なのかもしれない。
 ここを深く考えるのはよそう……。

 俺は、また新たな手頃な石を探す。
 シルヴィにくわえてもらったものと同じサイズ感の石を見つけた。
 飲料水で洗っておく。

「さあ、次はユヅキの番だ。おとなしくこれをくわえろ!」

「え、ええー……。まだちょっと嫌なんだけど……」

 ユヅキがなおも難色を示す。
 少しだけ心理的なハードルは下がったが、まだ踏ん切りがつかないようだ。
 別に、ただ石をくわえるだけなんだけどな。

「ゴチャゴチャうるせえ! いいからくわえればいいんだよ! シルヴィ、ユヅキを取り押さえろ!」

 ここは強行作戦だ。
 ムリヤリにでもやらせてジョブを取得できれば、それでいい。
 ユヅキもいつか理解してくれるだろう。

「わかりました!」

「ちょっ……」

 ユヅキの抵抗も虚しく、シルヴィに取り押さえられる。
 シルヴィのほうが少しだけ身体能力が高い。
 その上、俺も取り押さえるのに協力しているからな。
 ユヅキになすすべはない。

「さあ、これをくわえるんだ! 歯は立てるなよ」

 石に歯を立てると、歯を悪くするかもしれないからな。
 俺は安全に配慮しつつ、ユヅキの口に円柱状の石を突っ込む。

「むぐーっ!」

 ユヅキがそう悲鳴を上げる。

 ……ん?
 これはユヅキのためでもあるんだが、何だかいけないことをしている気分になってきたな。

 年頃の少女を複数人で押さえつけ、口に細長い棒を突っ込む。
 完全にアウトじゃねえか。
 このシーンをユーヤやアーノルドに見られたらマズイかもしれない。

「ちっ。さっさと終わらせるぞ!」

 俺は円柱状の石を前後させる。
 MSCの経験上、こうしたほうがジョブの取得確率が上がるのだ。

「むーっ!」

 ユヅキがそう悲鳴を上げる。
 もう少しだからガマンしてくれ。

 そして、しばらくして。
 彼女は無事に『土魔法使い』のジョブを取得した。
 順調だ。
 何も問題はない。

 ……と言いたいところだが。

「もうっ! 信じらんない!」

 バシーン!
 俺はユヅキから強烈な平手打ちをもらってしまった。

 さらに、その後1時間ぐらいユヅキはほとんど口をきいてくれなかった。
 即座に町に帰ってユーヤやアーノルドに報告されなかっただけ、まだマシだと言えるが。

 ジョブのことを説明して、何とか許してもらうことはできた。
 さっそく、ユヅキに『土魔法使い』のジョブを設定することにしよう。

 彼女から俺に対する好感度が大きく下がってしまった気がするが、実際に土魔法を使えることを確認すれば、また評価も回復するはず。
 何とか挽回したいところだ。
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