上 下
28 / 1,260
第1章 初級冒険者として活躍 シルヴィ、ユヅキ

28話 『氷魔法使い』を取得

しおりを挟む
 エルカ樹海での狩りを終えて数日後の夜になった。
 この数日は、休息にあてておいた。
 あの遠征で、精神的にも肉体的にも疲れたからな。

 そして、明日から冒険者活動を再開する予定だ。
 新たに得た『パーティメンバー設定』と『パーティメンバー経験値ブースト』を活かして、シルヴィのレベルをガンガン上げていこう。
 ……と、その前に。

「シルヴィ。ちょっと俺を、罵ってみてくれないか?」

「……えっ?」

 シルヴィが何か信じられないことを聞いたかのような表情をする。

「ご、ご主人様がそのようなご趣味を持っていらしたとは……」

 彼女が理解不能なものを見る目でこちらを見てくる。
 今までにないような冷たい視線だ。
 その視線はやめてくれ。
 何か新たな性癖が開花しそうだ。

「い、いや……。そういうわけではない。いろいろと事情があるのだ。とりあえず、試してくれ」

「よくわかりませんが、わかりました!」

 シルヴィがそう言って、思案顔になる。
 罵倒の言葉を考えているのだろう。

「こ、こらーっ! ご主人様のバカーッ!」

 シルヴィがそう口にする。
 かわいい。
 かわいいのだが、今回の目的はこれでは達成できないだろう。

 俺はシルヴィのステータス画面を確認する。
 やはり達成できていない。

「うーん……。ダメだな。もっと捻ってみてくれ。気合を入れろ」

 俺はシルヴィの罵倒の言葉にダメ出しをする。
 彼女は再び考え込む。
 そして、再び口を開く。

「ご主人様……。わたしを買うために借金をしたそうですが、ちょっと軽率ではありませんか? 冒険者として稼げなくなったら、奴隷落ちですよ。もっとちゃんと考えてください。あと、わたしやユヅキちゃんに色目を使うの、やめてもらっていいですか? 寒気がします」

 ゾクッ。
 ゾクゾクッ。

 シルヴィからの冷たい視線と罵倒の声を聞いて、俺の背筋に電流が走る。
 これだよ、これ。
 いい感じだ。

 ……じゃなくて。
 目的を見失いそうになった。

 俺はシルヴィのステータス画面を確認する。
 設定可能なジョブの候補として『氷魔法使い』の表記が追加されていた。
 ただし、まだ灰色の表記だ。
 試しに選択してみたが、『条件を満たしていません』と表示された。

 『氷魔法使い』のジョブの入手条件は、様々だ。
 白狼族のように適正が高い種族の場合は、生まれつき保有していることもある。
 また、修練でも取得可能。

 そして、少し裏技じみた習得方法もある。
 今シルヴィにやってもらっているのが、その裏技じみた習得方法なのである。
 『氷魔法使い』の表記が追加されたということは、この方法で間違っていないということである。

 ただし、表記の色はまだ灰色。
 ジョブとして設定可能にするには、もう一踏ん張りが必要だ。

「こんな感じでよろしいでしょうか? ご主人様」

「ああ、バッチリだよ。さすがはシルヴィだ」

 俺はサムズアップして、称賛する。

「よかったです! でも、先ほどのはわたしの本心ではありませんので。借金してまでわたしを買ってくださったことには嬉しく思っていますし、少しでも稼いでいけるようにわたしも全力でがんばるつもりです。それに、それ以上のことだって……」

 シルヴィが顔を赤らめてそう言う。
 彼女が言おうとしていることはわかる。
 だが、俺が彼女に肉体的に手を出すことはまだできない。
 ルモンドとの契約だからだ。
 俺が彼女に手を出すのは、分割払いを終えてからとなる。

「ありがとう、シルヴィ。俺も、その日が来ることを心待ちにしている。それはそれとして、次にやってもらいたいことがある」

「わかりました! 何でも言ってください!」

 ん?
 今、何でもやるっていったよね?

「よし。では、このクツを履いて俺の背中を踏んでみてくれ」

「……えっ!?」

 再び、シルヴィが何か信じられないことを聞いたかのような表情をする。
 シルヴィには、まだまだやってもらうことがある。

 『氷魔法使い』の裏技じみた習得方法とは、異性に対して極度に冷たい態度を取ることである。
 精神面、物理面の両方からのアプローチが有効だ。

 1つ注意すべき点を挙げると、男女間の信頼関係と友好度が一定以上必要だという点だろう。
 例えば通りすがりの人に罵声を浴びせて暴力を振るうだけでは、もちろん条件はまったく達成できない。
 ただの犯罪者である。

 俺とシルヴィは信頼関係や友好度が一定以上あると思うし、だいじょうぶだと思ったのだ。

 そして、その判断は正しかった。
 その後もいろいろあり、そのかいあって無事に目的を達成した。

 俺はシルヴィのステータス画面を確認する。
 『氷魔法使い』の文字が黒色になっている。
 俺はジョブ設定スキルを使用して、シルヴィのセカンドジョブに『氷魔法使い』を設定した。


シルヴィ
種族:白狼族
ファーストジョブ:獣戦士レベル7
セカンドジョブ:氷魔法使いレベル1
HP:E+
MP:E
闘気:E++
腕力:E++
脚力:E+
器用:E

アクティブスキル:
ビーストストライク
アイスショット


「……えっ!?」

 突然、シルヴィがそう声を発した。
 俺がジョブを変更したタイミングである。

「シルヴィ。どうかしたか?」

「ええっと……。何やら、今なら氷魔法が使えそうな感覚があります。いえ、気のせいかもしれませんが……」

 おそらく、気のせいではないだろう。
 氷魔法使いのジョブを設定したことで、スキル欄に『アイスショット』の表記が追加されている。

 シルヴィは信頼できる。
 俺のシステムスキルのことを伝えてもいいが、今この場であれこれ伝えても実感が湧かないかもしれない。

「気のせいかどうか、明日の狩りでさっそく試してみよう」

 実際に狩りをしつつ、様子を見て話すことにしよう。
 『獣戦士』と『氷魔法使い』のどちらをファーストジョブにするか、決めないといけないしな。

「わかりました!」

 そんな感じで、シルヴィの新たなジョブの取得は無事に成功した。
 何か大切なものを失ったような、逆に何か新しい境地に達したような、不思議な感覚がある。

 何にせよ、明日以降の狩りが楽しみなところだ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...