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124話 フレッドの思い

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 アリシアさんとフレッドが一触触発だ。
 まずはアリシアさんに声を掛けて説得を試みたけれど、不発に終わってしまった。
 彼女も闇の瘴気に取り憑かれている。
 ここは、別方面から攻めてみよう。
 私はフレッドの方を向く。

「フレッド、あなたが私を好きというのは、本当なの?」

「ええ、本当です。僕はイザベラさんを愛しています」

 フレッドは堂々と答える。
 迷いはないみたい。

「そう、嬉しいわ。だけど、ごめんなさい。私はあなたの気持ちに応えることができないわ」

「……それはなぜ?」

「考えるまでもないじゃない。私とあなたが姉弟だからよ。幼い頃から同じ屋敷で育ってきたのよ? 恋愛なんてできないわ」

「……本当に、それだけが理由ですか? 僕たち姉弟ですが、濃い血の繋がりはありません。それなのに、どうして……」

「それは……」

 言葉に詰まる。
 どうしよう。
 確かに、私とフレッドは義理の姉弟なだけなのよね。
 アディントン侯爵家の分家夫妻の間に生まれたフレッド。
 その父親が早逝してしまったため、母親が再婚したのだ。
 再婚相手は私の父、アルフォンス・アディントン侯爵である。
 本家の娘の私と、分家の息子のフレッド。
 血の繋がりがまったくないとは言えないけれど、一般的に見て結婚が許容できる程度だ。
 日本で言えばいとこ婚……いや、はとこ婚くらいだろうか。
 遺伝子上、血の繋がりが濃ければ濃いほど、子供に何らかの障がいが発生するリスクが高まるとされている。
 それは本来、どこからが明確にセーフで、どこからが明確にアウトと断言できるような類のものではない。
 ただ、日本の法制度ではいとこ婚までがセーフとされていた。
 アメリカではいとこ婚が認められていないし、逆にその他の一部の国ではもっと近い親等の者同士でも結婚できる。
 このあたりは、遺伝子上のリスクに加えて、それぞれの風習や経験則によって定められているのだ。

「とにかく、あなたは私の弟なの。弟としてしか見られないわ」

「……分かりました」

 良かった。
 分かってくれたみたい。

「あなたは私の弟なのだから、その”イザベラさん”と呼ぶのもやめてね? いつものように”姉上”と呼んでちょうだい」

「…………」

 ふう。
 何にせよ、これでアリシアさんとフレッドが激突する事態は避けられたわね。
 後は、ゆっくりとアリシアさんを説得して、フレッドの闇の瘴気を浄化してもらって……。
 ああ、そうそう。
 エドワード殿下、カイン、オスカーにも、フレッドの闇の瘴気が伝染してしまっていたのよね。
 フレッドほど優先度は高くないけれど、落ち着いたら念のため彼らも浄化してもらわないと。
 私はすっかり気を抜いて、そんなことを考えてしまっていたのだった。
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