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114話 奥の手

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 フレッドの暴走を止めるために戦ってくれたカインが、傷つき倒れてしまった。
 彼の傷は深い。
 私の半端な回復魔法では、治療しきれない。

「誰か……誰かいないの!? このままじゃカインが死んじゃう!!」

 私は周囲に助けを求める。
 だが、いつの間にかダンスの参加者たちは誰もいなくなっていた。
 これは――

「イザベラ! この周囲には闇の瘴気により結界が張られているようだ!!」

「その通りです。入ってこれるのは、一定以上の魔力を持つ者のみ。救援は期待できません!」

 エドワード殿下とオスカーが、フレッドを引き付けつつそう言う。
 どうやら、私を助けてくれる人は誰もいないらしい。

「クソッ!! なぜです!? なぜそんな平民上がりの下賤な者を気にかけるのですっ!?」

 フレッドがそう叫ぶ。
 貴族の中には、平民を見下す人も多い。
 特に、高位の貴族ほどその傾向は強いだろう。
 アリシアさんも、母親が平民だとして学園では冷たい目で見られている。
 カインも、ひょっとしたら当初は苦労していたのかもしれない。
 一年遅れで私が入学した頃には、すでに女生徒から大人気だったけど。

「彼は立派な騎士よ。ただ、それだけのことだわ」

 私は冷静に答える。
 カインは非常に向上心がある。
 努力家でもある。
 『イザベラ嬢を守るために強くなる』なんて言っているけど、頑張る理由はそれだけではないだろう。
 かつて共に暮らしていた孤児仲間、彼を見出したレッドバース子爵家、それにこのイース王国そのものに対しても恩義を感じているはずだ。
 だからこそ、彼は命をかけて戦うのだ。
 私はカインを尊敬している。
 そんな彼を貶めるような発言は許せない。
 でも、フレッドもカインの実力は認めていたはずだけれど……。

「くそぉーっ!! なぜだぁっ!! なぜ僕を見てくれないっ!!!」

 フレッドは叫びながら、さらに強力な攻撃魔法を放つ。

「ぐっ! 【ファイアーウォール】!」

「【アイスウォール】!」

 エドワード殿下とオスカーが防御魔法で迎え撃つ。
 王立学園でも、トップクラスの実力を持つ二人だ。
 しかし、暴走したフレッドの出力にこれ以上は耐えきれないのか、二人の表情には余裕がない。

「カインはどうにか治療できんのか!? フレッドを抑えるのも限界に近い!!」

「イザベラ殿! あなたなら、何か奥の手があるのでは!?」

「あるよ。でも……」

 私は唇を噛む。
 あれを使えば、私は意識を失う。
 それに、きっと私達の関係は壊れてしまう。
 次に目を覚ました時には、もう――

「イザベラ嬢……。俺に構うな……。逃げろ……」

 カインは苦しそうな顔で、途切れ途切れに言葉を発する。

「でも……」

「俺はいいんだ……。最後に、イザベラ嬢の盾になれたから……。欲を言えば、フレッドの奴を正気に戻してやりたかったがな……。ぐふっ!!」

「カイン!?」

 カインは口から血を吐き、ガクリと首を垂れる。
 その姿を見て、ようやく私は決断をしたのだった。
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