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113話 頼むから笑ってくれ

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 フレッドの植物魔法によって、私、エドワード殿下、オスカーは捕らえられてしまった。
 残るカインがフレッドを追い詰めたのだが、トドメは刺せない。
 二人は友人関係にあるし、フレッドは私の義弟だからだ。
 首筋に剣を突きつけたまでは良かったが、フレッドは諦めたふりをして魔力を練り上げていた。
 カインはそれをまともに受けてしまい、お腹に大きな穴を空けられてしまった。

「てめぇ! よくもカインを!!」

「フレッド! あなた何をしているの!?」

「…………」

 フレッドは無表情のまま何も答えない。
 自分のしたことを理解していないのだろうか?
 闇の瘴気により、正気を失ってしまっているのか……。

「うおおおぉっ! 【覇王闘気】!!」

「【絶対零度】!!」

 エドワード殿下とオスカーが、それぞれ大技を発動する。
 エドワード殿下を拘束していた蔦は引き千切られ、オスカーを拘束していた蔦は凍り付き粉々に砕け散った。
 その余波で、私の蔦の拘束も緩む。

「くっ……」

 フレッドは慌てて植物魔法を再発動させようとするが――

「させねぇよ」

「そこまでです」

 エドワード殿下とオスカーがフレッドの植物魔法を阻止する。

「今だ! 早くカインを治せ!」

「はいっ!」

 私は急いでカインの元に駆け寄り、回復魔法をかける。
 だが、出血が多すぎる。
 とてもじゃないが、助かりそうにない。

「ポーションを……って、ああっ! フレッドに預けていたのだったわ……」

 普段の私は、懐にポーションをいくつか常備している。
 でも、今日は楽しい秋祭り。
 少しでも身軽に動けるようにと、フレッドに預けてしまっていたのだ。
 こんなことなら持っておくべきだった。

(私がもっとしっかりしていれば……)

 後悔先に立たずとはこのことだ。

「ごめんなさい……カイン」

 涙が出てくる。
 どうしてこうなった。
 大切な人を守れない。

「……泣くな……イザベラ嬢」

「えっ?」

 瀕死のはずのカインの声が聞こえてきた。
 その声は弱々しいものだったけど、確かに聞き覚えのある彼のもの。
 カインはゆっくりと目を開けたあと、力を振り絞るかのように言った。

「俺は大丈夫だ……だから泣かないでくれ」

「で、でも……そんなに血が出てるのに……」

「俺のことはいい……。それよりも、イザベラ嬢の無事を確認できてよかったよ。それに、あんたが泣いている姿を見る方がよっぽど辛いんだ。頼むから笑ってくれないか……?」

「カイン……」

 カインは優しい笑みを浮かべながら、震える手で私の頬に触れる。
 私は涙を拭き取り、笑顔を作ったのだった。
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