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74話 二年生の秋

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「うーん。すっかり秋ねえ……。過ごしやすい季節だわ」

 昼下がりの王立学園で、私は伸びをしながら言った。

「確かにそうですね。風も涼しくなってきましたし」

 隣にいるアリシアさんがそう同意してくれる。
 彼女は、私の数少ない友人の一人である。
 私はこの学園に入学する前からポーション関係でそれなりに有名だった。
 主席で合格してしまったこともあり、入学直後から多くの生徒に話しかけられた。
 その中には、当然のように爵位の高い家の子息や令嬢もいた。
 彼らは、私が侯爵家の令嬢であることを知っていたため、媚びへつらってきたり、下手に出たりと様々だったが、どの対応をとっても疲れることに変わりはなかった。
 そんな中、仲良くなったのがアリシアさんだ。

(アリシアさんは『ドララ』のヒロインだけあって、最初はちょっと苦手意識を持っていたんだけどね……。でも、接していくうちに段々と気が合うようになったのよね)

 今ではこうして、二人で一緒にいることが多い。

「ところで、イザベラ様は午後の授業は何を受講されるんですか?」

「私? 私は錬金よ。アリシアさんは魔法でしょ? 確か、回復魔法だっけ?」

 この王立学園には十三歳から十八歳の生徒が通う。
 日本で言えば、中高一貫校みたいなイメージだ。
 授業風景も概ね似ていると言えば似ているのだが、少し前のように実地訓練があったり、選択授業が多めだったりする。
 今日の午後は選択授業がある。
 それぞれ伸ばしたいと思っている教科、あるいは苦手を克服したいと思っている教科を選ぶことが多い。

「はい。イザベラ様に教わった回復魔法を高めていきたいと思っています」

 アリシアさんは希少な光魔法に適性がある。
 それに加えて回復魔法の適性も少しあり、私が教えてあげたのだ。
 まあ、私は最初のアドバイスをしたぐらいだけど。
 それ以上に伸ばすなら、きちんと授業を受けるしかない。

「いい心掛けね。さ、そろそろ昼休憩も終わりにしましょうか」

「あ……。その、イザベラ様にお願いしたいことがあるのですが……」

 アリシアさんの表情が曇る。
 一体、何だろうか?
 まさか、また何か嫌がらせをされたとか?
 彼女は平民の血が混じっているとして、入学直後は他の生徒達から嫌がらせを受けていた。
 私が注意して、なくなったと思ったのだけれど。
 隠れた嫌がらせはまだ続いていたのかもしれない。
 もしそうだとしたら、すぐに対処しなければ。

「どうかしたの?」

「あの、今度の秋祭りのことなんですけど……」

「ああ、あのお祭りね。去年は楽しかったわ。特に露店なんかは目移りしてしまうものね。アリシアさんは、去年は行かなかったの?」

「は、はい。実は行ったことがないんですよ。だから、今年こそ行ってみたいなって思っていて。それで、イザベラ様と一緒に行きたいなって思っているんです」

 アリシアさんは恥ずかしそうにそう言ったのだった。
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