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64話 こ、腰がぁ……

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 オスカーが【アイスアーマー】を発動した。
 副次的な効果により、彼の身体能力は少し増しているはずだ。

「よし、行きますよ! ふんぬぅ!!」

 オスカーが掛け声とともに、魔獣を持ち上げた。
 知的な彼には似合わない掛け声が聞こえたけど、今は指摘しないでおく。
 そのままオスカーは、魔獣を肩に担いで歩き出した。

「すごいですわ! オスカー様」

「意外にやりますね。インテリぶっているだけの男ではないということですか」

 アリシアさんは結構毒舌だなぁ。
 いや、これはこれで喜ばしい変化なのかな?
 少し前までは、男性と関わることすら避けていたからね。
 男性に慣れてきているのかもしれない。

「よっ。ほっと」

 オスカーが一歩ずつ進んでいく。

「さすがですわ。オスカー様」

 私は褒め言葉を口にする。

「このくらい、大したことありませんよ」

 余裕そうな口ぶりだけど、相当ギリギリなようだ。
 息切れしているし、足取りもおぼつかない。

「オスカー様、ご無理をなさらずに」

「いえいえ。無理なことなど何もありません。本気を出しますよ。はあああぁっ!」

 オスカーがさらに魔力を開放する。
 出力を上げた分、多少は余裕ができるだろう。

(……あれ?)

 今、少しだけど『覇気』を感じたような。
 気のせいかな?
 あれは基本的に王族しか使えない技だ。
 『ドララ』の知識と経験がある私は例外的に使えるけど。

「ふっ! ぬぅんっ!!」

 オスカーが似合わない掛け声と共に一歩一歩進んでいく。
 うん。
 凄いのは確かなんだけど、明らかに無理しているよね。
 普段から肉体も鍛えているエドワード殿下やカインならまだしも、魔法系のオスカーでは限界がある。

「…………」

 アリシアさんは心配そうに、オスカーを見つめている。
 彼女は男性に免疫がなく、その上何故か敵視さえしているようだけれど、根は優しい子だ。
 このまま放ってはおけないのだろう。

「あの、せめてわたしも手伝い……」

 アリシアさんがそう言い掛けた時だった。
 ピキッ!
 嫌な音が響く。
 同時にオスカーの顔色が変わった。

「うぐっ!? ぐはああぁっ!!」

 彼が悲鳴と共に崩れ落ちた。
 魔獣の死体は地面に落ち、ドスンという音を立てる。

「オスカー様!」

 私は慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか?」

「こ、腰がぁ……」

 どうやらオスカーは、腰を痛めてしまったようだ。
 まぁ、これだけ大きな荷物を運べば当然か。
 それにしても、なんて情けない。
 オスカーの将来が不安になる光景だ。
 いや、私たちのために頑張ろうとしていたのは理解しているので、責める気はないのだけれどね。
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