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1話 追放と覚醒
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「カイル、無能のお前を追放する!」
「なっ! なぜだ!? 俺はパーティの役に立っていたはずだぞ! 依頼の選定、魔物の下調べ、宿屋の確保……」
「バカかお前は! そんな雑用、誰だってできるだろうが! この俺ギゼルが率いる『白銀の狼』はBランク冒険者パーティなんだぜ? Bランク冒険者に求められることはただ一つ。強力な魔獣を討伐することだ」
「そ、それはそうかもしれないけど……。でも……」
「ハズレスキルしか持ってねえ無能をパーティに入れたのが間違いだったぜ! ザコは失せろ!!」
スキル。
10歳になった子供は、スキルを授かる。
その内容は人によって様々で、とても強力なものもあれば、ハズレスキルと呼ばれてしまうようなものもあった。
「俺だって、好きでハズレスキルを貰ったわけじゃない! 『ハキ』スキルの使い道はよく分からないけど、それでも必死に剣術や魔法を磨いてきたんじゃないか! それに、少しでも皆の役に立とうと雑用だってこなして……」
「ゴチャゴチャうるせえ! とにかく、これは決定事項なんだ! 無能はパーティから出て行け!」
「わ、分かったよ……。なら、リリサ。荷物をまとめていっしょに行こう……」
「……いいえ。私はこのパーティに残るわ」
「リリサ?」
「はっ! そういうこった! 同郷だか何だか知らねえが、無能のお前にはこんないい女はもったいねえ!」
ギゼルがリリサの胸に手をやる。
「おい! リリサは俺と付き合ってるんだぞ!!」
「いつまで勘違いしてやがる! お前はとっくに見捨てられてるんだよ! リリサからも言ってやれ!」
「リリサ! 嘘だよな? 俺とお前は、同じ村で生まれ育って……。5歳の頃には結婚の約束だって……」
「……気持ち悪い男ね。いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら? 私達はもう終わった関係なのよ」
「う、嘘だ……。そんなはずはない……。きっと何か理由があるんだろう?」
「しつこい男は嫌われるわよ。『ハキ』スキルなんて、訳の分からないハズレスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない。私のせいにしないでくれる?」
「……ということだ。ぷっ。それにしても、本当に価値のないスキルだよな。確か、スキルレベル1では掃除がうまくなるんだったか? くだらねー!」
スキルにはレベルが存在する。
レベルが上がるにつれて強力になるのだが、大抵のスキルはレベル1でもそれなりに有用なものばかりだ。
しかし残念なことに、『ハキ』スキルのレベル1は掃除がうまくなるだけ。
「一応、レベル2に上がるまでは待ってあげたんだけど。昨日上がってできるようになったことって、何だったかしら?」
「……ズボンを素早く穿けるようになった」
ステータス画面には、レベル1『掃き』、レベル2『穿き』と表記されていたけど、よく分からない。
見たことのない文字だ。
異国の言葉か、古代文字か何かかもしれない。
「そういえば、そうだったわね! ふふっ。ほんっとに使えないわよね!」
「ああ。笑っちまうほど使えねえ! はははははっ!!」
リリサとギゼルが笑う。
それだけでなく、仲を見せつけるように体を密着させる。
「くそぉおおお!! ふざけやがってぇええええ!!!」
俺は激情して、殴りかかろうとする。
「バカが」
ギゼルはあっさりと俺の攻撃を見切り、反撃を繰り出してきた。
「ぐあっ!?」
「無能のお前が俺に勝てるわけねえだろ? 『格闘王』の俺によ!」
「きゃーっ! 素敵よ、ギゼル。無能のカイルとは大違い!」
「リリサ……」
俺は彼女に手を伸ばす。
だが、その手は無慈悲にも踏みつけられた。
「しつこいぞ! 自分から出ていかねえなら……。身の程を分からせてやる必要があるようだなぁ!」
「……あぎゃっ!」
何度も何度も、足蹴にされる。
痛い……。
痛い……。
「わ、分かった……。リリサのことは諦める……。パーティからも出ていく。だから……」
「いーや、信用できるかよ! 二度と俺たちの前に現れないように、徹底的に叩き潰す!」
「や、やめろ! やめて……」
「思い知れや! 無能野郎!」
「ぎゃああああぁっ!!!」
こうして俺は、ギゼルの手によって数十分に渡り暴行を受け続けた。
ボロ雑巾のようになった俺はその場に捨て置かれた。
意識を失った俺が目覚めたのは、夕暮れだった。
俺はやり場のない怒りを胸に、街を出る。
そして森に辿り着く。
「くそっ! くそおおおおぉっ!!!」
剣を振り回す。
寄ってくる低級の魔物を片っ端から討伐していく。
「無能だと? ハズレスキル持ちの無能だって? なんで……、どうして……」
剣術はそこそこ自信があった。
村の同世代の中で一番強かったし、冒険者になってからもDランクには一番先に上がった。
「なんでだよ! こんな訳の分からない『ハキ』スキルなんて、いらない! いらなかったんだよおぉっ!」
叫びながら、剣を振るい続ける。
スキルを使いこなせない者が中級以上に上がることは難しい。
素の能力では俺よりも弱かったギゼルやリリサも、スキルが馴染んでからはあっという間に俺を追い越してしまった。
「はぁ……、はぁ……。ははっ……。こんなことしたって意味がない……。そうだ……。これからどうしようか?」
しばらくすると、体に違和感を覚えた。
「これは……。スキルのレベルアップか。レベル1『掃き』、レベル2『履き』に続いて、いったいどんな役立たずスキルなんだ?」
俺は自嘲気味にそう呟く。
その時だった。
「グルオオオオオォッ!!!」
「ビッグトレントだと!? どうしてこんな街の近くに!?」
「グルオォッ!」
「ぐっはあああぁっ!」
俺はビッグトレントの攻撃を受けて、吹き飛ばされる。
「さっきまで狩っていた低級の魔獣とはレベルが違う……。こりゃどうしようもないな」
「いやダメだ。あんなに馬鹿にされたまま、死んでたまるかよ。おらあああぁっ!!」
「グルオォッ!」
俺はビッグトレントと死闘を繰り広げる。
「ちっ! やはり力の差は歴然……。こうなりゃ、最後の賭けだ!」
「『ハキ』スキルよ! お前の新しい力を見せやがれっ!」
ステータス画面の文字が変容していく。
レベル3『葉切』。
「文字は読めねえが、俺は信じるぞ! このスキルで、あいつを倒すんだ!」
「グギャアァッ!」
「いけえぇっ! これが俺の新たなる技だああぁっ!」
「グ、グルオォッ!?」
「いっけえええぇっ!!」
俺は渾身の力で剣を振った。
ズシャーン!!!
「ふっ。どうにかなったか……」
俺は力を使い果たして、倒れ込む。
背後には、葉が全て切り落とされて絶命しているビッグトレントの姿があったのだった。
「なっ! なぜだ!? 俺はパーティの役に立っていたはずだぞ! 依頼の選定、魔物の下調べ、宿屋の確保……」
「バカかお前は! そんな雑用、誰だってできるだろうが! この俺ギゼルが率いる『白銀の狼』はBランク冒険者パーティなんだぜ? Bランク冒険者に求められることはただ一つ。強力な魔獣を討伐することだ」
「そ、それはそうかもしれないけど……。でも……」
「ハズレスキルしか持ってねえ無能をパーティに入れたのが間違いだったぜ! ザコは失せろ!!」
スキル。
10歳になった子供は、スキルを授かる。
その内容は人によって様々で、とても強力なものもあれば、ハズレスキルと呼ばれてしまうようなものもあった。
「俺だって、好きでハズレスキルを貰ったわけじゃない! 『ハキ』スキルの使い道はよく分からないけど、それでも必死に剣術や魔法を磨いてきたんじゃないか! それに、少しでも皆の役に立とうと雑用だってこなして……」
「ゴチャゴチャうるせえ! とにかく、これは決定事項なんだ! 無能はパーティから出て行け!」
「わ、分かったよ……。なら、リリサ。荷物をまとめていっしょに行こう……」
「……いいえ。私はこのパーティに残るわ」
「リリサ?」
「はっ! そういうこった! 同郷だか何だか知らねえが、無能のお前にはこんないい女はもったいねえ!」
ギゼルがリリサの胸に手をやる。
「おい! リリサは俺と付き合ってるんだぞ!!」
「いつまで勘違いしてやがる! お前はとっくに見捨てられてるんだよ! リリサからも言ってやれ!」
「リリサ! 嘘だよな? 俺とお前は、同じ村で生まれ育って……。5歳の頃には結婚の約束だって……」
「……気持ち悪い男ね。いつまで昔のことを引きずっているつもりかしら? 私達はもう終わった関係なのよ」
「う、嘘だ……。そんなはずはない……。きっと何か理由があるんだろう?」
「しつこい男は嫌われるわよ。『ハキ』スキルなんて、訳の分からないハズレスキルを貰ってしまったあなたが悪いんじゃない。私のせいにしないでくれる?」
「……ということだ。ぷっ。それにしても、本当に価値のないスキルだよな。確か、スキルレベル1では掃除がうまくなるんだったか? くだらねー!」
スキルにはレベルが存在する。
レベルが上がるにつれて強力になるのだが、大抵のスキルはレベル1でもそれなりに有用なものばかりだ。
しかし残念なことに、『ハキ』スキルのレベル1は掃除がうまくなるだけ。
「一応、レベル2に上がるまでは待ってあげたんだけど。昨日上がってできるようになったことって、何だったかしら?」
「……ズボンを素早く穿けるようになった」
ステータス画面には、レベル1『掃き』、レベル2『穿き』と表記されていたけど、よく分からない。
見たことのない文字だ。
異国の言葉か、古代文字か何かかもしれない。
「そういえば、そうだったわね! ふふっ。ほんっとに使えないわよね!」
「ああ。笑っちまうほど使えねえ! はははははっ!!」
リリサとギゼルが笑う。
それだけでなく、仲を見せつけるように体を密着させる。
「くそぉおおお!! ふざけやがってぇええええ!!!」
俺は激情して、殴りかかろうとする。
「バカが」
ギゼルはあっさりと俺の攻撃を見切り、反撃を繰り出してきた。
「ぐあっ!?」
「無能のお前が俺に勝てるわけねえだろ? 『格闘王』の俺によ!」
「きゃーっ! 素敵よ、ギゼル。無能のカイルとは大違い!」
「リリサ……」
俺は彼女に手を伸ばす。
だが、その手は無慈悲にも踏みつけられた。
「しつこいぞ! 自分から出ていかねえなら……。身の程を分からせてやる必要があるようだなぁ!」
「……あぎゃっ!」
何度も何度も、足蹴にされる。
痛い……。
痛い……。
「わ、分かった……。リリサのことは諦める……。パーティからも出ていく。だから……」
「いーや、信用できるかよ! 二度と俺たちの前に現れないように、徹底的に叩き潰す!」
「や、やめろ! やめて……」
「思い知れや! 無能野郎!」
「ぎゃああああぁっ!!!」
こうして俺は、ギゼルの手によって数十分に渡り暴行を受け続けた。
ボロ雑巾のようになった俺はその場に捨て置かれた。
意識を失った俺が目覚めたのは、夕暮れだった。
俺はやり場のない怒りを胸に、街を出る。
そして森に辿り着く。
「くそっ! くそおおおおぉっ!!!」
剣を振り回す。
寄ってくる低級の魔物を片っ端から討伐していく。
「無能だと? ハズレスキル持ちの無能だって? なんで……、どうして……」
剣術はそこそこ自信があった。
村の同世代の中で一番強かったし、冒険者になってからもDランクには一番先に上がった。
「なんでだよ! こんな訳の分からない『ハキ』スキルなんて、いらない! いらなかったんだよおぉっ!」
叫びながら、剣を振るい続ける。
スキルを使いこなせない者が中級以上に上がることは難しい。
素の能力では俺よりも弱かったギゼルやリリサも、スキルが馴染んでからはあっという間に俺を追い越してしまった。
「はぁ……、はぁ……。ははっ……。こんなことしたって意味がない……。そうだ……。これからどうしようか?」
しばらくすると、体に違和感を覚えた。
「これは……。スキルのレベルアップか。レベル1『掃き』、レベル2『履き』に続いて、いったいどんな役立たずスキルなんだ?」
俺は自嘲気味にそう呟く。
その時だった。
「グルオオオオオォッ!!!」
「ビッグトレントだと!? どうしてこんな街の近くに!?」
「グルオォッ!」
「ぐっはあああぁっ!」
俺はビッグトレントの攻撃を受けて、吹き飛ばされる。
「さっきまで狩っていた低級の魔獣とはレベルが違う……。こりゃどうしようもないな」
「いやダメだ。あんなに馬鹿にされたまま、死んでたまるかよ。おらあああぁっ!!」
「グルオォッ!」
俺はビッグトレントと死闘を繰り広げる。
「ちっ! やはり力の差は歴然……。こうなりゃ、最後の賭けだ!」
「『ハキ』スキルよ! お前の新しい力を見せやがれっ!」
ステータス画面の文字が変容していく。
レベル3『葉切』。
「文字は読めねえが、俺は信じるぞ! このスキルで、あいつを倒すんだ!」
「グギャアァッ!」
「いけえぇっ! これが俺の新たなる技だああぁっ!」
「グ、グルオォッ!?」
「いっけえええぇっ!!」
俺は渾身の力で剣を振った。
ズシャーン!!!
「ふっ。どうにかなったか……」
俺は力を使い果たして、倒れ込む。
背後には、葉が全て切り落とされて絶命しているビッグトレントの姿があったのだった。
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