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第1章

30話 ご注文はお決まりですかにゃ?

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 王都の大通りにあるカフェ。
 そこは、いわゆる高級店だ。
 店内は広く、落ち着いた雰囲気である。
 ただし、普通の店とは異なる特色も持っている。
 店員は全員がメイド服を着用しているのだ。

「おかえりなさいませ、お嬢様、ご主人様。三名様ですね?」

 店員がそう言って、余たちを出迎える。
 おかえりも何も、余はこの店に初めて来たのだが。

「ええ、三人よ。席を用意してもらえるかしら」

 余の代わりに、フレアがそう答える。
 どうやら、この店における定番のやり取りのようだな。

「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」

 案内されたのは、個室だ。
 なかなかゆとりのあるスペースに、テーブルとイスが用意されている。
 店員は一度下がっていった。

「ここは貴族御用達の店で、一般客が入ることは滅多にないの。だから、ゆっくりできるでしょ?」

 フレアがそう説明する。

「へえ。それはありがたいですね」

「うむ。フレアは、このような店によく来るのか?」

「ええ。月に一度ぐらいは来るわね。最近は忙しくて、来ていなかったけど……」

「ほほう」

 彼女にこんな趣味嗜好があったとはな。
 バーンクロス家の娘として、メイドと接する機会などいくらでもあっただろうに。
 わざわざ金を払って同じようなシチュエーションを楽しむとはな。

 余たちがそんな会話をしている間に、店員がこちらに向かってきた。
 手にはトレイを抱えており、それには飲み物が乗せられている。
 いや、そんなことよりも……。
 余はその店員の顔を見る。
 どこかで見覚えのある顔だが……。

「ご注文はお決まりですかにゃ?」

 その店員が話しかけてきた。
 頭には猫耳。
 メガネをかけ、尻尾まで生えている。
 属性を盛りすぎだろう。
 猫耳のメガネっ娘のメイドとか。

「「…………」」

 イリスとフレアが唖然とした表情で少女を見る。
 見覚えのある少女の顔が引きつっていた。

「……おい、シンカ。こんなところで何をしている?」

「シンカとはダレノコトデショウ?」

 彼女が裏声でそう言う。

「声色を変えたぐらいで、バレぬとでも思ったか?」

「うぐっ!」

 余の言葉を受け、観念したように息をつく彼女。

「……なんで君たちがここにいるのさ。まさかいるとは思わなかった。気づいていれば、他の人に接客を変わってもらったのに」

 彼女はそう言いながらため息をついた。

「ここは私の行きつけの店よ! アクアマリンこそ、いつの間に働き始めたのかしら?」

「僕は二週間前からここでバイトしてるんだよ。学費と生活費を稼ぐためにね。学園から補助金が出てるけど、少し足りないし」

 彼女は”流水の勇者”として人族に多大な貢献をしてきたはずだが。
 まさか資金難に陥っているとはな。
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