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第1章

15話 椅子創造(イコノス)

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 数日が経過した。
 今日は、ダンジョン攻略の実践テストの日だ。
 いよいよ、この学園の地下にあるダンジョンに挑戦する。

 このダンジョンは、初級のダンジョンだ。
 その上、生徒に危険が及ばないように教師たちがしっかりと管理している。
 危険性は高くない。

 だが、油断は禁物である。
 このダンジョンを侮り、先走った生徒たちがケガをした事例は少なくない。
 初級のダンジョンとはいえ、甘く見てはいけないのである。

 余とイリスは今、地下への入り口の前にいる。
 ここから先は、ダンジョン内となる。

「わたしの準備は万全です。陛下もご準備はよろしいですか?」

「愚問だな。余に不備など一切ない。いくぞ!」

 既に各グループがダンジョンに突入している。

「待ちなさい」

 余たちを呼び止めたのは、フレアであった。

「なんだ?」

「あなたたち、本当に2人だけでダンジョンに挑むつもり? いくらなんでも無謀すぎるわ」

 そう言うフレアは、6人の仲間を連れている。
 彼女を含めて7人でダンジョンに挑む心づもりか。

「問題あるまい。イリスは有能な配下だ。余とイリスの2人であれば、この程度のダンジョンは何の問題もなく攻略できる」

「ふん! 口だけは達者なようだけど、その自信がどこから来るのかしら?」

「忘れたのか? 的あて試験でも、魔法陣のテストでも、貴様が余に勝ったことがあったか? 身の程を知るがいい」

「くっ! あ、あれは……。ええい! とにかく、実戦はまた別なのよ!」

「ふむ。まあ、一理なくもないな」

 魔王軍において、模擬試合や訓練で優秀な者が、人族との実戦でイマイチだったという事例はいくつもある。

「ふん! 結果を楽しみにしていることね!」

 フレアは捨て台詞を残して去っていった。

「相変わらず無礼な女ですね」

「そう言うでない。先ほどはああ言ったが、あやつも最低限の実力はある。今年度の首席合格者だからな。浅層ぐらいであれば、問題ないだろう」

 まあ、首席とは言っても余やイリスを除いての話だが。

「陛下がそうおっしゃるのであれば、それで構いませんが……」

「それよりも、余たちもそろそろ行くとしよう」

「はい。陛下。集中することにしましょう」

 イリスがそう意気込む。
 少し緊張している様子だ。

「そう心配するな。いざというときは、余が守ってやる」

「いえ。わたしも、陛下に守られてばかりの弱い存在ではありませんよ」

「ほう。では、期待しておこう」

 余とイリスは、ダンジョンに足を踏み入れた。
 ダンジョンに入った瞬間、周囲が薄暗くなっていく。

「少し暗いな」

「わたしの雷魔法にお任せを。《ライトニング・チャージ》」

「おお。明るくなったな。ずいぶんと腕を上げている」

 余がイリスのこの魔法を最後に見たのは、いつだったか……。
 彼女も順調に成長しているようだ。

「ありがとうございます。これも全て陛下のおかげです。平和な世だからこそ、魔法の鍛錬に集中することができるのです」

「謙遜するな。それはイリスの努力の結晶だろう。……さて、先に進むとするぞ」

 ダンジョン内を進んでいく。
 途中、モンスターに遭遇したが、特に苦戦することなく撃破していく。

「どうだ? イリス。何か気付いたことはあるか?」

「はい。やはり、ダンジョンには魔素が満ちています。これなら、わたしの魔力も回復しやすいですね」

「ふむ。そういうものなのか」

 余は魔力不足になったことがない。
 魔素が満ちているから回復しやすいという感覚は、余にはわからない感覚だ。
 しかし、イリスが言うのであればそうなのだろう。

「はい。ダンジョン内では、外よりも魔法の威力が増します。ダンジョン内で、多くの魔法を使用できるようになります」

「なるほどな。それはありがたい情報だ」

 その後も、余たちはダンジョン内を進んでいった。
 2階層の奥までは問題なく進むことができた。
 3階層への階段を発見したところで、いったん休憩を取ることにする。

「ふう……、少し疲れましたね」

「む? この程度でか?」

「陛下とわたしでは、基礎体力に差がありすぎます」

「それもそうか。配下の者の体調に気を配るのも、上に立つ者の務め。少し休むことにしよう」

 イリスが地面に腰を下ろそうとする。

「待て、イリス」

「? どうかされましたか?」

「座るのはよいが、スカートの中が見えてしまうではないか」

「…………陛下は、わたしの下着に興味があるのですか?」

「興味はないが、一応注意しただけだ」

「そうでしたか。それならば良いのですが」

 イリスが座り直す。
 せっかく余が忠告してやったというのに。
 下着が見えておるぞ。

「何を見ているのですか? そんなに見て楽しいのでしょうか? それとも、見惚れていましたか?」

「ふん! くだらんことを言うな!」

「あ、図星でしたか? 陛下も意外とかわいいところがあるんですね」

「黙れ!」

 まったく調子に乗りおって……。
 このままからかれているのは面白くない。
 配下に過度に畏敬の念を抱かれないようにするのは大切だが、ナメられ過ぎるのもよくないのだ。

「椅子創造(イコノス)」

 余は魔法でイスを創造する。
 土魔法の発展型だ。

「これは……。イスですか? なんとも豪華な……」

「余が王城にて腰かけているのと同じデザインにした。これならゆるりと休むことができる」

 余はそう言いつつ、イスに腰掛けた。

「さあ、イリス 。余の膝の上に乗せてやろう」

「えっ!? そ、それは、ちょっと恥ずかしいですね」

「余の膝の上に乗るのは嫌か?」

「いえ! そのようなことはありません! むしろ……」

「ふむ。なら、さっさと乗るがいい」

 余は少しだけ語気を強めてそう言う。
 少しして、イリスが余の膝の上に腰掛けた。

「うわぁ……。なんだか、とても不思議な感覚ですね。いつもより、視線が高いような……」

「余の膝の上にいるのだ。当然のことよ」

 余の膝に、イリスの柔らかい尻の感覚がある。
 ふむ。
 こやつとは幼少からの付き合いだが、いつの間にか成長しておったようだな。

「うう……。何だか、ドキドキします……」

「余に気を使う必要はないぞ。ゆっくり休め」

「そ、そうは言われましても……」

 イリスが顔を赤くしてそう言う。
 余たちは、そのまましばらく休憩した。

「陛下。そろそろ出発しましょうか」

「ん? もうよいのか?」

「はい。十分休めましたので」

 そう言ってイリスは立ち上がった。
 余が感じていたイリスの温もりがなくなる。
 少しだけ、残念な気持ちになった。

「よし。では、行くとするか」

 余は立ち上がり、イスを魔力に還元した。
 3階層への階段はすぐそこにある。
 余とイリスであればまったく問題ないであろうが、ある程度は気を引き締める必要があるだろう。
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