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89話 少しだけ、少しだけで構わないのだが
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「最後の項目? 魔石や魔物の素材の買取金の件か?」
「はい。一般的に言って、ドラゴンを討伐した者は前述の討伐報奨金に加え、ドラゴン特有の巨大な魔石だったり爪や鱗だったりを売却することで巨万の富を得ます」
「あー、はいはい。魔石、爪、鱗ね」
俺はチラリとドラにゃんに視線を向ける。
魔石というのは、魔物の体内にある核だ。
人間で言えば、心臓のような部位だな。
「確かに、フレイムドラゴンともなれば大きな魔石を持ってそうだな……」
「ひいぃっ! そ、そんな目で見ないでほしいのですにゃ!」
俺のつぶやくような言葉に、怯えた様子のドラにゃんがビクリと肩を震わせた。
「悪い悪い。それで、ものは相談なんだけど……」
「な、なんですかにゃ……?」
「魔石を少し分けてくれないか? 少しだけ、少しだけで構わないのだが」
「い、嫌ですにゃ!」
「そこをなんとか!」
「というか、少しだけ分けるなんて無理ですにゃ! 死んじゃうにゃぁ!!」
やっぱり無理か。
まぁ、人間で言えば『心臓を少しだけ分けてくれ』って言っているようなものだもんな。
不可能だ。
……いや、そうでもないのか?
現代の地球の医療技術なら、心臓の一部を切り取って培養して移植したりとかできそうな気がするが……。
どうだったかな。
俺はあんまりそういう分野に詳しくないんだよな。
まぁいずれにせよ、そういうことに取り組むのはよほど切羽詰まって他に選択肢がないときか。
今回のように、『明確な理由はないけど、とりあえず金が欲しい。あって困るものでもないし』ぐらいの動機で魔石の一部を分けてくれと言うのは、さすがにドラにゃんに悪いか……。
「ふぅむ。残念だが、ドラにゃんはもう俺たちの仲間だもんな。あまり酷いことはしたくない。諦めるとしよう」
「そうしてくれるとありがたいですにゃ。……あ、でも……」
「なんだ?」
何かをしようとしているドラにゃんに、俺はそう尋ねる。
「ちょっと待ってくださいにゃ……。えいっ!」
ボンッ!
ドラにゃんが、少女の姿からドラゴンの姿に戻った。
改めて見ても威圧感のある姿だ。
「むっ!? な、なんでござるか?」
「ま、まさかテイムが切れてまた敵対を!?」
「マズいですよ! やっぱりドラゴンのテイムは無理があったのでは……」
桜、エリス、アイシアが焦った声を出す。
それぞれ、剣を抜いたり杖を構えたりして、戦闘態勢を整える。
受付嬢や他の冒険者も慌てた様子だ。
「え、ええっ!? ちょっと待ってくださいにゃ! 物騒なことを考えるのはやめてくださいにゃ!」
逆にドラにゃんが焦った声を出す。
テイムの影響か、フレイムドラゴンの形態でも人形態のときと同じ声が出せるようになっているようだ。
「みんな、落ち着こうぜ。ドラにゃん、どうしてドラゴン形態に戻ったのか説明してくれないか?」
「はいですにゃ。それは――これですにゃぁ」
ドラにゃんが、前足で器用に何かをつまみ上げた。
その物体を見て、俺は目を見開く。
「おぉっ! それは、お前の竜の鱗じゃないか」
「はいですにゃ」
「これをくれるのか? 鱗をわざわざ剥ぐなんて、痛い思いをしただろう」
「いえ。これは、はげれかけの鱗だったのですにゃ。大した痛みはないのですにゃ」
「なるほどな。そりゃちょうど良かった」
人間で言えば、ちょうど抜け落ちる直前の歯や髪の毛みたいなイメージだろうか?
いや、鱗は竜にとっての皮膚みたいなものだよな。
となると、人間にとっても皮膚として考えるくらいが妥当かもしれない。
自分の腕から生皮を剥ぎ取るとなるとかなり嫌な感じだが、ちょうど日焼けの後に肌が剥けるぐらいのイメージだったら大したことないか。
「きれいな鱗だし遠慮なく使えるな。ありがとう、ドラにゃん」
「どういたしましてですにゃ」
これで報酬の件も一件落着だな。
俺はそう思ったのだが――
「「「…………」」」
桜、エリス、アイシアがジト目を向けてきたのだった。
「はい。一般的に言って、ドラゴンを討伐した者は前述の討伐報奨金に加え、ドラゴン特有の巨大な魔石だったり爪や鱗だったりを売却することで巨万の富を得ます」
「あー、はいはい。魔石、爪、鱗ね」
俺はチラリとドラにゃんに視線を向ける。
魔石というのは、魔物の体内にある核だ。
人間で言えば、心臓のような部位だな。
「確かに、フレイムドラゴンともなれば大きな魔石を持ってそうだな……」
「ひいぃっ! そ、そんな目で見ないでほしいのですにゃ!」
俺のつぶやくような言葉に、怯えた様子のドラにゃんがビクリと肩を震わせた。
「悪い悪い。それで、ものは相談なんだけど……」
「な、なんですかにゃ……?」
「魔石を少し分けてくれないか? 少しだけ、少しだけで構わないのだが」
「い、嫌ですにゃ!」
「そこをなんとか!」
「というか、少しだけ分けるなんて無理ですにゃ! 死んじゃうにゃぁ!!」
やっぱり無理か。
まぁ、人間で言えば『心臓を少しだけ分けてくれ』って言っているようなものだもんな。
不可能だ。
……いや、そうでもないのか?
現代の地球の医療技術なら、心臓の一部を切り取って培養して移植したりとかできそうな気がするが……。
どうだったかな。
俺はあんまりそういう分野に詳しくないんだよな。
まぁいずれにせよ、そういうことに取り組むのはよほど切羽詰まって他に選択肢がないときか。
今回のように、『明確な理由はないけど、とりあえず金が欲しい。あって困るものでもないし』ぐらいの動機で魔石の一部を分けてくれと言うのは、さすがにドラにゃんに悪いか……。
「ふぅむ。残念だが、ドラにゃんはもう俺たちの仲間だもんな。あまり酷いことはしたくない。諦めるとしよう」
「そうしてくれるとありがたいですにゃ。……あ、でも……」
「なんだ?」
何かをしようとしているドラにゃんに、俺はそう尋ねる。
「ちょっと待ってくださいにゃ……。えいっ!」
ボンッ!
ドラにゃんが、少女の姿からドラゴンの姿に戻った。
改めて見ても威圧感のある姿だ。
「むっ!? な、なんでござるか?」
「ま、まさかテイムが切れてまた敵対を!?」
「マズいですよ! やっぱりドラゴンのテイムは無理があったのでは……」
桜、エリス、アイシアが焦った声を出す。
それぞれ、剣を抜いたり杖を構えたりして、戦闘態勢を整える。
受付嬢や他の冒険者も慌てた様子だ。
「え、ええっ!? ちょっと待ってくださいにゃ! 物騒なことを考えるのはやめてくださいにゃ!」
逆にドラにゃんが焦った声を出す。
テイムの影響か、フレイムドラゴンの形態でも人形態のときと同じ声が出せるようになっているようだ。
「みんな、落ち着こうぜ。ドラにゃん、どうしてドラゴン形態に戻ったのか説明してくれないか?」
「はいですにゃ。それは――これですにゃぁ」
ドラにゃんが、前足で器用に何かをつまみ上げた。
その物体を見て、俺は目を見開く。
「おぉっ! それは、お前の竜の鱗じゃないか」
「はいですにゃ」
「これをくれるのか? 鱗をわざわざ剥ぐなんて、痛い思いをしただろう」
「いえ。これは、はげれかけの鱗だったのですにゃ。大した痛みはないのですにゃ」
「なるほどな。そりゃちょうど良かった」
人間で言えば、ちょうど抜け落ちる直前の歯や髪の毛みたいなイメージだろうか?
いや、鱗は竜にとっての皮膚みたいなものだよな。
となると、人間にとっても皮膚として考えるくらいが妥当かもしれない。
自分の腕から生皮を剥ぎ取るとなるとかなり嫌な感じだが、ちょうど日焼けの後に肌が剥けるぐらいのイメージだったら大したことないか。
「きれいな鱗だし遠慮なく使えるな。ありがとう、ドラにゃん」
「どういたしましてですにゃ」
これで報酬の件も一件落着だな。
俺はそう思ったのだが――
「「「…………」」」
桜、エリス、アイシアがジト目を向けてきたのだった。
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