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60話 戦鬼アイシア

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 Cランク昇格試験の合格者が発表された。
 残念ながら、俺の名前は載っていなかった。
 俺がトボトボを帰ろうとしたとき、見知らぬ女性から声を掛けられた。
 何でも、彼女の父親は俺に負けたことがあるらしい。

「悪いが、心当たりがないな……。君のお父さんの名前を聞いてもいいか?」

「あっ、はい。父の名前は……」

 アイシアがそこまで言った時だ。

「儂じゃよ。パワードじゃ」

 壮年の男が割り込んできた。
 彼はギルドマスターのパワードだ。
 そういえば、彼も俺に負けていたな。

「ギルマスの娘さんだったか。それで? 俺を呼び止めたのは興味本位か?」

「いえ。違います」

「ほう。ではなんの用事だ?」

「単刀直入に申し上げます。私と試合をしてください」

「はい?」

 いきなり何を言い出すのだ、この子は。

「私は父のようになりたいんです。かつて『豪腕』と呼ばれた父のように。だから、父を倒したというあなたと戦ってみたい」

「あれはたまたまさ。今回の昇格試験に落ちた俺なんかと戦っても、仕方ないだろ?」

 俺はそう答える。

「落ちた? 何を言っておる?」

 ギルマスが割って入ってきた。

「カエデは合格したじゃろうが」

「あん? あの合格者一覧に名前がねえぜ。1位から40位まで確認したが、なかったぞ」

 一度見直したし、ユーリも見てくれている。
 見落としはないはずだ。

「む。目立つように枠外に記載したのじゃが、逆に見落とされてしまったか」

「枠外?」

 俺は改めて掲示板を見直す。
 すると、確かに俺の名前が書いてあった。
 1位のブレイブよりもさらに上の枠外にデカデカと書いてある。


特別昇格者:カエデ(筆記4、魔法20、戦闘30)


「おお……。合格していたか」

「おめでとうでござる」

「3人とも合格していて良かったですわ」

 桜とエリスがこちらに来て、祝福してくれる。
 ユーリも満足気だ。
 しかし、気になる点が1つある。

「なあ。俺の魔法と戦闘の点数、おかしくね?」

 他の受験者の点数から判断して、10点満点だと思うのだが。

「見ろ。またあの猫だぜ……」

「魔法の高評価は納得だな。あれほどの威力の魔法を使えるんならな……」

「戦闘はそれ以上に凄えぜ。何せ、元Aランク冒険者のギルマスに勝っちまったしな」

「ああ。頭は残念なようだが、それを補って余りある魔法と戦闘能力だ」

 掲示板前の受験者たちがそう言う。
 筆記試験の悪さは許してくれ……。
 冒険者としての知識どころか、そもそもこの世界の常識に疎いのだから。

「お前さんの魔法と戦闘能力に対する点数付けは、確かに過去に例を見ないものじゃ。それだけ、お前さんの力が規格外だということじゃの」

 パワードがそう言う。

「……というわけで、父を倒し、前例のない特別昇格者になったカエデさんと戦ってみたいのです!」

 アイシアがそう言ってくる。

「うーん……」

 正直、面倒くさい。
 無事にCランクに昇格できたことだし。
 桜とエリス、それにユーリと共にクエストを受けたい。

「アイシアのやる気は分かったけどなあ……」

「お願いします! 私はもっと強くなりたいんです!」

 そう言われても……。

「お前さんにとっても利がある話じゃぞ」

「何がだ?」

 俺はパワードにそう問う。

「アイシアはBランク冒険者じゃ。『戦鬼』の二つ名を持つ。そんな彼女をギルドマスターである儂の目の前で倒したりすれば、さらなる高評価に繋がる」

 Bランク冒険者か。
 俺の次の目標だな。
 目指すべきレベルを知っておくのも良さそうか。

「ふむ。なるほどな」

「楓殿。拙者も、お二人の試合を見てみたいでござるよ」

「わたくしもですわ。きっと、めったに見られないハイレベルな試合となりましょう」

 桜とエリスが目を輝かせてそう言ってきた。

「……わかったよ。ただし、手加減はしないからな」

「ありがとうございます!」

 こうして、俺はアイシアと戦うことになったのだった。
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