上 下
2 / 94

2話 最強の猫耳装備

しおりを挟む
 視界が白い空間から切り替わった。
 俺の目の前には、草原が広がっている。
 ここが異世界か。

「とにかく、これからのことを考えることにしよう」

 ん?
 今の高い声はだれだ?

「近くに人がいるのか?」

 俺はそうつぶやく。
 まただ。
 また高めの声が聞こえた。

「……って、これは俺の声じゃねえか!!」

 おかしい。
 俺は男だ。
 声変わりもとっくに終えており、もっと低い声だったはずだ。

「異世界に来た影響で、声質まで変わっちまったのか? まるで女子みたいな声だぜ」

 にわかには信じがたいが、現実としてこうなっているので信じざるを得ない。
 アニメで聞いたことがあるような可愛らしい声だ。 
 自分の声帯でこんな高い声が出せてしまうことに、違和感バリバリだ。

「まあ、気にしてもしかたがない。まずは、この世界のことを知っていこう」

 俺はそうつぶやき、歩き出す。
 しばらく歩くと、街道らしきところにたどり着いた。

「ここが街道か。馬車が通ってこないかな?」

 そう思った矢先、ちょうどよく荷車を引いた馬が通りかかった。

「すみませーん。この辺りで街へ行くにはどちらへ行けばよいのでしょうか?」

 俺は馬に乗っている男性に話しかける。

「おお? お嬢ちゃんが1人で、こんなところで何をしているんだ?」

「実は俺、この街道を歩いていたんですけど迷ってしまいまして……」

「おお、そうだったのか。それは大変だっただろう」

「ええ。それで、最寄りの街はどこにあるのか教えていただきたいのですが……」

「そうだな……。ここからなら、北にあるフィレントの街の方が近いぞ」

「わかりました! ありがとうございます!」

 普通に教えてくれた。
 親切な人だ。
 彼と別れ、言われた方角へ向かい始める。

「あれ?」

 おかしい。
 足に違和感ある。

「疲れてきたな。まだ大して歩いていないのに……」

 もしかして、この世界は重力がきつめなのか?
 もしくは、俺の筋力が落ちている?
 何だか声も高いし、転移したときに変な力が作用したのかもしれない。
 俺がそんなことを考えていたとき……

 ピコン!
 目の前に、突然画面が開いた。
 ゲームのステータス画面のような感じだ。

『女神です。重要な連絡事項あり』

 そういう表題のメール(?)が届いていた。
 画面を操作し、そのメールを開く。

『申し訳ありません。こちらの手違いで、転移時に少女の体に変質してしまったようです。テヘッ』

「おいこらっ!!」

 つい、突っ込んでしまった。

「どういうことだ!?」

 俺はメールの続きを読み進める。

『私がミスをしてしまい、楓さんの性別を間違えてしまいました。なので、異世界では女の子として生きてもらうことになります』

「ふざけんなよ! なんで、いきなり男から女になるんだよ!? そんなこと、普通できないだろ!」

『女神の力ならできるのです』

 まるで俺の思考を先読みしていたかのように的確なメール文面だ。

「そんな力があるなら、元に戻す方法を考えろよっ!」

『…………』

 メールに続きはない。

「くそったれぇ~」

 俺は天に向かって叫んだ。
 俺は自分の体を確認する。
 着ているのはいつも来ているTシャツとジーパンだ。

「良かった。服まで女物になっていたら、どうしようかと思ったぜ」

 ほっと胸を撫で下ろす。
 体が少女に変わってしまったのは受け入れがたい。
 この上服装がスカートだったりしたら、精神に多大なダメージを受けるところだった。
 まあ、体の変化に比べれば服装なんて些末な問題だけどな……。

「はぁ……、これから先、どうしたらいいんだ?」

 さっきから、ため息ばかりついている気がする。
 ピコン!
 またメールが届いた。
 女神からだ。

『せめてものお詫びとして、最強のチート装備を送ります。本当は肉体自体を強化できればよかったのですが、そちらに存在する生命や物体への直接的な干渉はできませんので』

「おおっ! こういうのを求めていたんだよ!」

 俺はさっそく、メールに添付されていたデータを解凍する。
 ポンッ!
 俺の目の前に、装備が具現化された。

「……って、何だこれ?」

 猫だ。
 猫の着ぐるみだ。
 猫耳付きのフードに、モコモコしたボディ。
 さらに、肉球付きの手袋と足袋まである。

『これが今のカエデさんにとってもっとも役立つ装備だと思います。見た目はアレですが、攻守に秀でています。さらにサポート機能まで幅広くカバーしていますので』

「こんなの武器でも防具でもないじゃないか!」

 俺はそう突っ込みつつも、一応着てみることにする。
 まずは、猫の着ぐるみを着て、さらに手袋と足袋を装着した。

「うわー、やっぱり恥ずかしいな」

 鏡がないので確認できないが、こんな屋外で猫の着ぐるみを着ていると変人にしか見えないだろう。
 百歩譲って、日本の秋葉原や日本橋ならギリギリセーフかもしれない。
 もしくは、自宅や友人宅でパジャマとして着るのもなくはない。

 しかしここは異世界で、しかも街道だ。
 通行人に見られたら、変人扱い間違いなしである。
 脱ぎたいところだが、最強の装備らしいし使わないわけにもいかないだろう。

 せめて、俺の顔が美少女なことを祈る。
 多少変人でも、顔が良ければ全てが許されるのだ。
 俺の声と体つきが少女化しているのは自覚したが、顔はどんな感じなのだろう?

「うーん、なんか変な気分だな」

『それでは、その装備を着たまま街に向かいましょう。相当に強力な装備ですので、一度そこらの魔物と戦闘しておくといいですよ。では、ご健闘をお祈りしていますね』

 女神からのメールはそこで終わった。
 まだまだ聞きたいことがあるのだが、頭の中で問いかけても返信はない。
 このメール自体にも、返信機能はないようだ。

「とにかく、街に向かうとするかな」

 俺は街道に沿って歩き出す。
 前途多難な幕開けだったが、いったいどうなることやら……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【第一部完結】無能呼ばわりされてパーティーを追放された俺だが、《神の力》解放により、《無敵の大魔導師》になっちゃいました。

マツヤマユタカ
ファンタジー
『アイテムコピー』という外れスキル持ちのアリオン=レイスは他には一切魔法が使えず、 14歳という年齢的にも非力であったため、冒険者パーティーには中々入れなかったが、 なんとか受け入れてくれるパーティーに巡り会うことが出来た。 だがそのパーティーリーダー、ゲイスの目的は別にあった。 それはアリオンの『アイテムコピー』の能力を悪用し、金貨や宝石をコピーさせて大もうけしようと いうものであった。 だがアリオンはそれを頑なに拒絶する。そのため日々パーティーの仲間たちにいじめられ続けていた。 だがある時、ついに痺れを切らしたゲイスによって上級ダンジョンに取り残されるアリオン。 絶体絶命の窮地を救ってくれたのは、美しき剣聖レイナ=ベルンと静かなる賢者ネルヴァ=ロキの二人であった。 彼らはたちまちアリオンの身体から流れる強大な神の力を感じ取る。 そしてアリオンの能力を解放するのだった。 それによってアリオンは上位スキル『能力コピー』を手に入れる。 このスキルはどのような魔法や、魔物の能力でさえもコピーしてしまうというとんでもない能力であった。 アリオンは上級ダンジョンをレイナたちと共にクリアしていく過程で、様々な魔物たちの能力を手に入れていく。 そして無敵の大魔導師へと成長を遂げるのであった。 一方アリオンを追放したゲイス一味は、強大な存在となったアリオンによって痛い目に遭わされたにもかかわらず、まったく改心することなく恨みを持ったがために、どんどんと没落していくのであった……。 小説家になろう様でも《『アイテムコピー』という外れスキル持ちでパーティーを追放された俺だが《 神の力》を解放したことで上位スキル『能力コピー』となり、 どんな強大な魔法もコピーしまくり《無敵の大魔導師》になっちゃいました。》というタイトルで投稿し、 ブックマーク登録2000以上、評価ポイント平均4・5をいただいております。 是非とも一度、ご覧ください。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...