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第1章
最終話 家族旅行
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数週間後――
「では、出港だ!」
俺の掛け声で遠征軍は出発した。
目指すは魔大陸。
長い航海になるだろうが、俺たちならば乗り越えられるはずだ。
「わーい! 父よ、魔大陸とやらが楽しみじゃのう!」
「ちょっと、リリナ姉。遊びに行くんじゃないんだから……」
俺たち一家に割り当てた大部屋のリビングで、リリナとルークがじゃれ合っている。
3つの大隊からなる遠征軍は総勢1000人を超えており、一隻の大型船に乗り込んで進んでいた。
総大将は俺で、副大将がルーク。
そして、3人の大隊長は……
「ご主人、アタシの配下どもの士気は高いぜ」
「右に同じくです。私の配下たちも、やる気に満ちていますよ」
「みんな、略奪のチャンスを心待ちにしているぜ」
レスティ、ロゼリア、ガルドだ。
紅猫族の元奴隷、レスティ。
俺がまだブリケード王国の第一王子だった頃の、親衛隊隊長を務めていたロゼリア。
ブリケード王子の元第二王子で、今や女体化した上でブリケード王国の女王となっているガルド。
いずれも竜の加護を持つ強者である。
元より中上級スキルを所持していたこともあり、その実力はトップクラスだ。
そして――
「むぅ……。なぜ余が独立遊撃隊とやらの隊長なのじゃ!?」
「しょうがないと思うよ。リリナ姉は気分屋だから」
「うむむ……。そんなことはないのに……」
リリナは駄々をこねている。
彼女の精神はまだまだ未熟だ。
竜王リリアの魂から影響を受けているのか、傲岸不遜なところがあり、気分屋なところもある。
大人数の兵を任せることはできない。
だが、彼女ほどの強者を遊ばせておくのももったいない。
そこで独立遊撃隊の隊長を任せることにしたのだ。
「ライル様、あたいは何もしなくていいのか? 王妃なのに……」
「王妃だから、だよ。遠征軍と名乗ってはいるが、半分は家族旅行みたいなもんさ。ゆっくり羽を伸ばしてくれ」
「そうか……。ライル様がそれでいいなら……」
ルーシーが頷く。
彼女は竜の加護を持っており、その戦闘能力は高い。
だが、元はただの村娘だったこともあり、レスティやロゼリアあたりにはどうしても劣ってしまう。
ルーシー特有の事情として『たくさんの他者の魂をその身に宿している』というものがあるが、最近はホムンクルスへの転生も進んでいる。
そのため、彼女に昔ほどの戦闘能力はない。
王妃として、家族旅行を楽しんでもらおう。
ま、彼女に限らず、全体的にのんびりと遠征を楽しんでもらうつもりだが……。
「ふふ……。サティも張り切っていましたよ。『ついに初陣だ!』って」
「サティは勇敢だよなぁ。アタシの娘なんて、いつもクヨクヨしてるぞ」
「ミラちゃん、研究職向きの魔法使いですからね。私の娘は懐いていますが……」
「今頃、4人で仲良くやっているでしょう。将来的な道は分かれると思いますが、遠征中の臨時パーティとしては最高のメンバーです」
サテラ、ミルカ、スピカ、アイシャの声が聞こえてくる。
彼女たちはそれぞれ、俺の準側室もしくは愛人だ。
サテラは山村生まれ。
ミルカは盗賊被害に遭っていた村の娘。
スピカはストレアの町の大商人の娘であり、今や聖竜帝国でも有数の大商人の会長。
そして、アイシャはストレアの冒険者ギルドのギルマスの娘であり、ギルド職員として隠密の仕事も請け負っていた女だ。
言うまでもなく、彼女たちは全員が俺の子を生んでいる。
サテラの娘サティは格闘家、ミルカの娘ミラは研究職寄りの魔法使いで……。
スピカやアイシャの娘は、それぞれ親の仕事に興味を示しているらしい。
格闘家、魔法使い、商人、隠密……。
確かに、パーティとしてバランスがいいな。
「冒険者の魂がうずきますね、シャオさん」
「ああ。だけどよ、アタシたちの子どもはまだ小さいからな。今回は付きっきりで世話しねぇと」
「そうですね……」
キーネとシャオも、遠征軍に参加している。
かつて盗賊団を不用意に刺激して被害を拡大させた、元低ランク冒険者のキーネ。
俺と出会う前から高ランク冒険者で、その腕を見込んでシルバータイガー狩りに参加してもらったシャオ。
以前は戦闘能力に差のあった2人だが、あれから10年以上が経ったこともありその差は縮まっている。
キーネのパーティメンバーの男たちも含め、共に依頼を受けることもあるらしい。
「ふふ……。いろんなことがあったなぁ……」
大部屋で無秩序に繰り広げられる家族の会話に耳を傾けながら、俺は過去に思いを馳せる。
素敵な出会いがあった。
辛い出来事もあった。
S級スキル【竜化】からの悪影響もあり、ちょっとオラついた時期もあった。
だが、そうした経験が俺を成長させてくれた。
今の俺は、最高に充実している。
「……ん? ルーク、どうした?」
「いえ、改めて確認したいことが……」
ルークが神妙そうな面持ちを浮かべている。
なにか重要な話だろうか?
「お父さん……。僕が副大将として確かな戦功をあげられたときは……」
「……ああ、リリナとの婚約の件か。男として、王として二言はないぞ。もちろん許可する」
「ありがとうございます!」
ルークが嬉しそうに言う。
彼はリリナに好意を抱いているのだ。
双子なのにどうかとも思うのだが、細かいことは考えないようにしている。
リリナにはリリアの魂が少し混じっているため、完全な双子というわけではない……のか?
よく分からん。
俺もリリアとは『そういう関係』だった時期があるし、ちょっとした嫉妬を覚えなくもないのだが……。
自分の息子に嫉妬するのはみっともない。
それに、リリナはリリアの魂を持つ存在であると同時に、俺の娘でもある。
ただでさえ、俺は民衆どもから『好色王』だの『女好き王』だの呼ばれているのだ。
万が一にも娘に手を出して、これ以上イメージを悪化させるようなことがあってはならない。
代わりに、双子の姉と結婚したシスコン王としてルークの名を広めてもらうことにしよう。
そうなれば、相対的に俺の悪評は薄まるはず。
ルークには少し申し訳ないけどな。
結婚自体は本人の望み通りだし、それぐらいは受け入れてもらわないと。
「ふふ……。ルークよ、頑張るのじゃぞ!」
「うん! リリナ姉のためにも、僕、頑張るよ!」
リリナとルークが引き続きじゃれ合っている。
本当に仲良しだな、この2人は。
聖竜帝国の未来は明るい。
俺の子や孫、そしてその子どもたちが、この国をさらなる高みに導いてくれるはずだ。
そのためにも、まずはこの遠征兼家族旅行を無事に終えて――
「むっ!?」
グラグラと船が大きく揺れる。
まるで、何かが船に掴みかかっているような衝撃だ。
「な、何が起きているんだ!? 敵襲か!?」
「落ち着いてくれ、ルーシー。あれは……クラーケンの触手だ!」
俺は窓を見る。
巨大な触手が船に絡みついているのが見えた。
「クラーケン……? よしっ、今夜はイカ焼きじゃ! いくぞ、ルークよ!」
「うん、行こう! リリナ姉!!」
2人が飛び出していく。
甲板に出た彼らは、クラーケンの触手に攻撃を加え始めた。
「うりゃあ!」
「てやぁっ!!」
リリナの蹴りとルークの剣が、クラーケンの触手を切断した。
だが、討伐には至っていない。
船上での戦いということもあり、ちゃんと手加減をしているようだ。
「子どもにばかり戦わせるわけにはいかないな。俺たちも行くぞ!」
「おう、ご主人!」
「お任せください!」
「やってやんぜ!」
俺は剣を取り、飛び出した。
その横には、レスティ、ロゼリア、ガルドが並ぶ。
少し遅れて、別室からサティやミラまでもが飛び出してきた。
「みんな、遠征の前哨戦だ! 軽く蹴散らして、イカ焼きの大宴会を開くぞ!!」
「「「おー!!」」」
俺たちはクラーケンに攻撃を加える。
こいつを討伐したら、次は魔大陸だ。
それ以降も、様々な出来事が俺たちを待っているだろう……。
俺たちの戦いはまだまだ始まったばかりだ!!!
「では、出港だ!」
俺の掛け声で遠征軍は出発した。
目指すは魔大陸。
長い航海になるだろうが、俺たちならば乗り越えられるはずだ。
「わーい! 父よ、魔大陸とやらが楽しみじゃのう!」
「ちょっと、リリナ姉。遊びに行くんじゃないんだから……」
俺たち一家に割り当てた大部屋のリビングで、リリナとルークがじゃれ合っている。
3つの大隊からなる遠征軍は総勢1000人を超えており、一隻の大型船に乗り込んで進んでいた。
総大将は俺で、副大将がルーク。
そして、3人の大隊長は……
「ご主人、アタシの配下どもの士気は高いぜ」
「右に同じくです。私の配下たちも、やる気に満ちていますよ」
「みんな、略奪のチャンスを心待ちにしているぜ」
レスティ、ロゼリア、ガルドだ。
紅猫族の元奴隷、レスティ。
俺がまだブリケード王国の第一王子だった頃の、親衛隊隊長を務めていたロゼリア。
ブリケード王子の元第二王子で、今や女体化した上でブリケード王国の女王となっているガルド。
いずれも竜の加護を持つ強者である。
元より中上級スキルを所持していたこともあり、その実力はトップクラスだ。
そして――
「むぅ……。なぜ余が独立遊撃隊とやらの隊長なのじゃ!?」
「しょうがないと思うよ。リリナ姉は気分屋だから」
「うむむ……。そんなことはないのに……」
リリナは駄々をこねている。
彼女の精神はまだまだ未熟だ。
竜王リリアの魂から影響を受けているのか、傲岸不遜なところがあり、気分屋なところもある。
大人数の兵を任せることはできない。
だが、彼女ほどの強者を遊ばせておくのももったいない。
そこで独立遊撃隊の隊長を任せることにしたのだ。
「ライル様、あたいは何もしなくていいのか? 王妃なのに……」
「王妃だから、だよ。遠征軍と名乗ってはいるが、半分は家族旅行みたいなもんさ。ゆっくり羽を伸ばしてくれ」
「そうか……。ライル様がそれでいいなら……」
ルーシーが頷く。
彼女は竜の加護を持っており、その戦闘能力は高い。
だが、元はただの村娘だったこともあり、レスティやロゼリアあたりにはどうしても劣ってしまう。
ルーシー特有の事情として『たくさんの他者の魂をその身に宿している』というものがあるが、最近はホムンクルスへの転生も進んでいる。
そのため、彼女に昔ほどの戦闘能力はない。
王妃として、家族旅行を楽しんでもらおう。
ま、彼女に限らず、全体的にのんびりと遠征を楽しんでもらうつもりだが……。
「ふふ……。サティも張り切っていましたよ。『ついに初陣だ!』って」
「サティは勇敢だよなぁ。アタシの娘なんて、いつもクヨクヨしてるぞ」
「ミラちゃん、研究職向きの魔法使いですからね。私の娘は懐いていますが……」
「今頃、4人で仲良くやっているでしょう。将来的な道は分かれると思いますが、遠征中の臨時パーティとしては最高のメンバーです」
サテラ、ミルカ、スピカ、アイシャの声が聞こえてくる。
彼女たちはそれぞれ、俺の準側室もしくは愛人だ。
サテラは山村生まれ。
ミルカは盗賊被害に遭っていた村の娘。
スピカはストレアの町の大商人の娘であり、今や聖竜帝国でも有数の大商人の会長。
そして、アイシャはストレアの冒険者ギルドのギルマスの娘であり、ギルド職員として隠密の仕事も請け負っていた女だ。
言うまでもなく、彼女たちは全員が俺の子を生んでいる。
サテラの娘サティは格闘家、ミルカの娘ミラは研究職寄りの魔法使いで……。
スピカやアイシャの娘は、それぞれ親の仕事に興味を示しているらしい。
格闘家、魔法使い、商人、隠密……。
確かに、パーティとしてバランスがいいな。
「冒険者の魂がうずきますね、シャオさん」
「ああ。だけどよ、アタシたちの子どもはまだ小さいからな。今回は付きっきりで世話しねぇと」
「そうですね……」
キーネとシャオも、遠征軍に参加している。
かつて盗賊団を不用意に刺激して被害を拡大させた、元低ランク冒険者のキーネ。
俺と出会う前から高ランク冒険者で、その腕を見込んでシルバータイガー狩りに参加してもらったシャオ。
以前は戦闘能力に差のあった2人だが、あれから10年以上が経ったこともありその差は縮まっている。
キーネのパーティメンバーの男たちも含め、共に依頼を受けることもあるらしい。
「ふふ……。いろんなことがあったなぁ……」
大部屋で無秩序に繰り広げられる家族の会話に耳を傾けながら、俺は過去に思いを馳せる。
素敵な出会いがあった。
辛い出来事もあった。
S級スキル【竜化】からの悪影響もあり、ちょっとオラついた時期もあった。
だが、そうした経験が俺を成長させてくれた。
今の俺は、最高に充実している。
「……ん? ルーク、どうした?」
「いえ、改めて確認したいことが……」
ルークが神妙そうな面持ちを浮かべている。
なにか重要な話だろうか?
「お父さん……。僕が副大将として確かな戦功をあげられたときは……」
「……ああ、リリナとの婚約の件か。男として、王として二言はないぞ。もちろん許可する」
「ありがとうございます!」
ルークが嬉しそうに言う。
彼はリリナに好意を抱いているのだ。
双子なのにどうかとも思うのだが、細かいことは考えないようにしている。
リリナにはリリアの魂が少し混じっているため、完全な双子というわけではない……のか?
よく分からん。
俺もリリアとは『そういう関係』だった時期があるし、ちょっとした嫉妬を覚えなくもないのだが……。
自分の息子に嫉妬するのはみっともない。
それに、リリナはリリアの魂を持つ存在であると同時に、俺の娘でもある。
ただでさえ、俺は民衆どもから『好色王』だの『女好き王』だの呼ばれているのだ。
万が一にも娘に手を出して、これ以上イメージを悪化させるようなことがあってはならない。
代わりに、双子の姉と結婚したシスコン王としてルークの名を広めてもらうことにしよう。
そうなれば、相対的に俺の悪評は薄まるはず。
ルークには少し申し訳ないけどな。
結婚自体は本人の望み通りだし、それぐらいは受け入れてもらわないと。
「ふふ……。ルークよ、頑張るのじゃぞ!」
「うん! リリナ姉のためにも、僕、頑張るよ!」
リリナとルークが引き続きじゃれ合っている。
本当に仲良しだな、この2人は。
聖竜帝国の未来は明るい。
俺の子や孫、そしてその子どもたちが、この国をさらなる高みに導いてくれるはずだ。
そのためにも、まずはこの遠征兼家族旅行を無事に終えて――
「むっ!?」
グラグラと船が大きく揺れる。
まるで、何かが船に掴みかかっているような衝撃だ。
「な、何が起きているんだ!? 敵襲か!?」
「落ち着いてくれ、ルーシー。あれは……クラーケンの触手だ!」
俺は窓を見る。
巨大な触手が船に絡みついているのが見えた。
「クラーケン……? よしっ、今夜はイカ焼きじゃ! いくぞ、ルークよ!」
「うん、行こう! リリナ姉!!」
2人が飛び出していく。
甲板に出た彼らは、クラーケンの触手に攻撃を加え始めた。
「うりゃあ!」
「てやぁっ!!」
リリナの蹴りとルークの剣が、クラーケンの触手を切断した。
だが、討伐には至っていない。
船上での戦いということもあり、ちゃんと手加減をしているようだ。
「子どもにばかり戦わせるわけにはいかないな。俺たちも行くぞ!」
「おう、ご主人!」
「お任せください!」
「やってやんぜ!」
俺は剣を取り、飛び出した。
その横には、レスティ、ロゼリア、ガルドが並ぶ。
少し遅れて、別室からサティやミラまでもが飛び出してきた。
「みんな、遠征の前哨戦だ! 軽く蹴散らして、イカ焼きの大宴会を開くぞ!!」
「「「おー!!」」」
俺たちはクラーケンに攻撃を加える。
こいつを討伐したら、次は魔大陸だ。
それ以降も、様々な出来事が俺たちを待っているだろう……。
俺たちの戦いはまだまだ始まったばかりだ!!!
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