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35.おやすみなさい

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暫くすると戸を叩く音が聞こえ、カレンから声が掛かった。

「遙様、カレンで御座います。王様から話を伺いました。遙様の眠る準備を整えましたので中へ入っても宜しいでしょうか?」彼の問い掛けに入るよう答えると、中へと入ってきた。何だろう、手に持ってるのは。

「此方は遙様がよく眠れるようにと用意させて頂きましたお香と飲み物で御座います」態々飲み物とアロマを用意して持ってきてくれたみたい。本当に優しいな、カレンさんは。

「態々有難う御座います。何だかいきなり王様の部屋で眠る事になってしまいまして…俺が此処で寝ても大丈夫なんでしょうか…?」俺が問いかけると、彼は小さく笑みを浮かべた。

「ふふ、此方のお部屋で眠れるのは世界中何処を探しても遙様だけですよ。さあどうぞ、遙様。此方は加密列茶になります。其れと枕元に薫衣草のお香を置かせて頂きますね」彼から飲み物を受け取ると、彼は枕元にお香を置いてくれた。あれ、此の香りは…ラベンダーのお香かな。

「有難う御座いますカレンさん。頂きます」彼から貰った飲み物を口に含む。此の口に広がる香り、知ってる気がする。

何口か味わいやっと気付いた。此れ、カモミールだ。母親がよく寝る前に飲んでたっけ。

カモミールティーを飲む間、王が掛けてくれた掛け物がずれ、俺の素肌が露わになる。其れを見たカレンが微かに笑みを浮かべた。

「ふふ、随分と王様に愛されていますね」一瞬、何でいきなりそんな事を言うのか分からず首を傾げると、彼が己の首を指差し"ほら、沢山痕が"と付け足した。

彼の言わんとしている事を理解すると、かあっと顔が熱くなる。やばい、王に付けられた痕を見られたんだ。

「わ、違います!此れは、えっと…」慌てて掛け物を正すと、彼はくすりと笑う。

「何が違うのですか?分かっていた事ではありませんか。遙様は、王様に印を付けて貰う為に此方へ足を運んだのではありませんか」其れはそうなんだけど、あの時は其の意味を知らなかったからで….

「だって、あの時は王様の言っていた事が分からなかったから…もう、カレンさん、揶揄うのはやめて下さい」真っ赤になりながら訴えると、彼はまたくすりと笑う。

「ふふ、初心ですね遙様は。でも…こんなにも見せつけられてはちょっと妬いてしまうかもしれません」彼は小さく笑い、そして直ぐに何処か寂しげな表情で俺を見つめてくる。何だろう、何でこんな顔をするのだろうか。

「カレンさん…?」俺が彼を見つめ返すと、彼は微笑み俺の頭を優しく撫でた。

「すみません、何でも御座いません。遙様、今日は色々な事があってお疲れでしょう?明日から本格的に側近になる為のお稽古が始まりますから、ゆっくり身体を休めて下さい」またいつもの表情で彼が告げる。でも俺は先程の彼の寂しげな表情が心に引っ掛かっていた。

「はい…そうですね、そうします。カレンさんも今日は俺のお世話で一段とお疲れでしょうし、ゆっくり休んで下さいね。カレンさんが用意して下さった此のお茶とお香のお陰で、ぐっすり眠れそうです」俺が告げると、彼は少し驚いた様な表情を見せた後、直ぐに笑みを浮かべた。何に対して驚いたのだろうか。

「ふふ、遙様はお優し過ぎます。普通は従者にゆっくり休めだなんてあまり言いませんよ。私は全く疲れてなどおりません。遙様のお側でお仕え出来てとても幸せな一日でした。お香も飲み物もお気に召して頂けた様で安心致しました。どうぞゆっくりお休みになって下さい」彼は柔らかな笑みを浮かべながら俺を見つめる。そして俺が飲み物を飲み終えたのを確認すると、カップを下げ、俺の服を正してくれた。

「別に優しくなんか…従者と言っても俺にとってはカレンさんは大切なお方ですし、身を案じるのは当たり前の事です。俺もカレンさんが傍に居て下さったから何とか一日乗り越えられました」俺が答えると、彼は優しく微笑みながら俺の頭を撫でた。此の人に撫でられると、心がポカポカする。

「誰よりも優しい貴方様のお側でお仕え出来てとても嬉しく思います。遙様の其のお気持ち…身に余る光栄に御座います」彼は俺をまっすぐ見つめ、そして深々と俺へ頭を下げた。急に頭を下げられ、俺は如何して良いか分からずわたわたとしてしまう。

「わ…そんな、顔を上げてください」俺が慌てて彼の肩にそっと触れると、やっと彼が顔を上げた。其の顔は何処か嬉しそうで、幸せそうな表情だった。

「ふふ、遙様は今迄出会って来た方達の中でずば抜けてお優しいですね。ってつい長話をしてしまいますね。お休みの時間なのに申し訳ございません。また朝の湯浴みの時間になりましたら参りますのでゆっくり休んでください」彼が優しく微笑み、俺に横になるよう促す。小さく頷きながら横になると、布団をふわりと掛けてくれた。

「カレンさん、今日も一日ありがとうございました。また明日もよろしくお願いしますね。おやすみなさい」そう言って俺が目を瞑ると、彼は優しく微笑んでそっと頭を撫でてくれた。

なんか色々あり過ぎた一日だったな…また明日も頑張らないと。


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