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27.会えて良かった

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一通りカレンに城内を案内して貰った。流石に全ては回り切れず、稽古場や図書室などは実際に使う時に教えて貰う事とした。

今案内して貰ったのは食堂、厨房、謁見室、会議室、医務室、ロビー、中庭、王様の部屋、カレンの部屋、フレイアの部屋、大ホールである。これ以外にももっと有るとの事で、此れは1日じゃ足りないと悟った。

歩いている最中、何人かの人にすれ違うのだが、すれ違う度に頭を下げ挨拶をされ、何だか凄く緊張してしまった。

「遙様、お疲れではないですか?今日は此処迄にしておきましょうか」俺の顔色を伺いながらカレンが告げる。

確かに今日は色々有り過ぎたし、城内見学で結構歩いたしかなり疲れている。俺が頷くと、彼は優しく微笑んだ。

「ふふ、そろそろ夕食の時間になりますし先に食堂に行きましょうか」彼の一声に再度頷き食堂へと向かう。

食堂は3種類有り、1つ目は晩餐会等に使う大きな部屋、2つ目は兵士やメイド等の城で働く者が自由に使える部屋、最後3つ目は王族や王が招いた人のみが使える部屋である。     

今日俺が使うのは3つ目の部屋。側近の立場だから、というよりかは王様のお招きという意味合いの方が大きいそうだ。

普段は王様と王子だけで使われているそうだが、今日は王様と王子と俺の3人となる。

部屋に着いたのはどうやら俺たちが1番のよう。椅子の近くで立っていると、カレンが座る様に促した。

しかし、礼儀的に偉い立場の人が来る前に座る訳にもいかないと考え首を横に振ると、彼はくすりと笑った。

それから次に来たのはフレイアである。何か少し気まずい。俺がフレイアを見遣ると、フレイアも少し気まずそうに視線を逸らした。

「おい、座っても良いんじゃねぇの?」フレイアはぶっきらぼうに俺に言ってくる。

「いえ、目上の方より先に座るのは失礼に値するかなって思いまして」俺が告げると、フレイアは吹き出した。

「ぶっ、真面目かよ。座れって。兄貴はそういうの気にし無ぇ奴だし人を立たせてるのとか好きじゃ無ぇからよ。座れよ。お前が座らなきゃ俺も座ら無ぇ」浴室で、何回も笑っていたフレイアの姿を鮮明に思い出させる笑顔で、少し安心した。

「えっと…では失礼します」微かに笑みを浮かべながら小さく頭を下げると、カレンが椅子を引いてくれて流れる様に着席した。

俺の着席後、フレイアも席に着く。今気付いたけど、彼にはお付きの人は居ないのだろうか。

「ふっ、カレン、お前俺にはそういう事してくれなかったのに其奴にはすんのな?」フレイアはけらけらと揶揄う様に笑っている。

え?フレイアとカレンって如何いう関係?

「ふふ、貴方様はそういうのを好まれないと心得ておりましたので」にこりとカレンが微笑むと、フレイアはまたけたけたと笑い出した。

「おま、完全に執事キャラになってんじゃん」フレイアは笑い過ぎたからか、涙目になりながらカレンを見つめる。

何だろう、2人は元々仲が良いのかな。そういえば、今思うと、カレンは脱衣所でフレイアが如何いう人だとか、行動パターンとか詳しく知っている様な口振りをしていた。

「私は本日から一生涯、遙様のお世話係です」カレンは俺を見つめて微笑み掛ける。

「そりゃ良かった。良い主人で良かったじゃねぇか」フレイアがちらりと俺を見遣る。

「あの、お話中申し訳無いんですが、お二人は仲が良いんですね…?」気になってしまい、つい質問してしまった。

2人はぽかんとしたかと思いきや、フレイアはけらけらと笑いカレンはくすくすと笑った。

2人の話によると、2人は同い年で、最初カレンが見習いの頃は共に稽古や勉学に励み、カレンが一人前の従者として認められてから1ヶ月前迄のおよそ何年かはフレイアのお付きがカレンだった様である。

先王が亡くなり、今の王様が国王として即位したタイミングでカレンは王のお付きとして昇格したとの事だった。

だから2人は昔から仲が良く、互いの事を知っているのだ。其れは頷ける。頷けるけど、何だか俺だけ置いてきぼりな感じがして、少し寂しく感じた。

「待たせてすまぬ。何やら話が盛り上がっている様だな」王様が入室し、其の声に慌てて俺とフレイアは立ち上がった。

王の一声で全員がが着席する。

「遙、其の衣装も素敵だな。其方に似合っておる。フレイアとはもう打ち解けたのか?楽しそうで何よりだ」王が優しい笑みを向けてくれた。

「このような色の服は初めて着たんですけど、夕焼けの様な色で気に入りました。フレイアさんはとても優しくて楽しくて素敵な方です」王に釣られる様に微笑みながら答えると、王は少し眉根に皺を寄せた。

「うむ、気に入って貰えたなら何よりだ。遙の欲しい物が有れば何でも用意するぞ。弟と仲良くしてくれるのは嬉しいが、ちと妬ける」苦笑を浮かべる王にフレイアは小さく溜息を吐いた。

「兄貴、ンな取って食う訳じゃ無ぇんだからよ。ったく、独占欲出し過ぎると嫌われんぞ?印まで付けてよ」印ってまさか胸元のあれの事?

慌ててちらりとカレンを見遣ると、カレンは微かに首を横に振った。此れは変に口出しするなって事だろうか。

「そうなら良いが…お前は昔から私の真似事をする事が多かったから今回もそうではないかと思ってな。印…其れは良い。遙、食後私の部屋に来れるか?」急な質問にはい、と思わず即答してしまった。

「真似なんかじゃ無ぇよ。俺は唯…いや、何でも無ぇ。おい遙、即答したが意味分かって返事してんのか?」フレイアは何かを言い掛けるも言葉を濁す。そして、少し怒りと悲しみを含んだ様な表情で見つめてきた。

「え?えっと…」確かに即答してしまったけど、深い意味など有ったのだろうか?首を傾げながら王を見つめると、王は不敵に笑みを浮かべた。

「其れは弟の前で言える様な事では無いが言って良いのか?」王は挑発する様にフレイアに問い掛ける。フレイアは盛大に溜息を吐いた。

「あー、そんなもん聞いた暁には飯が不味くなる。早く飯にしようぜ?稽古した後で腹減ってんだよ」フレイアは王から視線を外すと、俺をちらりと見遣る。視線が絡み合うと直ぐに逸されてしまった。

「噫、私も空腹だ。食事を頼む」王が頷くと傍に控える従者に食事を運ぶよう指示をした。

一体どんな料理が来るのだろうか…少しワクワクする。

直ぐに豪華な食事がテーブルに並べられた。見た事無い様な食事ばかりで、目を奪われる。とても美味しそうな良い香りがして、腹の虫が鳴ってしまった。

「さぁ、今日はいつもより豪華にした。遙、其方に会えた今日という記念日を共に祝おう。其方が此の地に舞い降りてくれて良かった。乾杯」王の一声に3人でグラスを触れ合わせる。そして、一口口に含んだ後に気付いた。

此のグラスの中身酒じゃねぇか!俺未成年!!

「如何だ遙。口に合う酒か?とても品質の良い酒なんだが…」王は一気に酒を飲み干すと、俺をじっと見つめてくる。

「あ、えっと…とても嬉しいんですけど俺未だ未成年なのでお酒は飲めないんです…」申し訳なさそうに告げると、王は考え込む様な素振りを見せた。

「ふむ…其方は若く見えるが歳は幾つになる?此方の世界では15になれば酒は飲めるのだが」王が真っ直ぐに見つめる。此方の世界では15歳が成人なのかな。其れなら俺も飲めるのか。

「あ、俺は17歳です。此方では15歳から飲めるんですね。俺の居た世界では20歳から飲酒出来るって法律でした」元居た世界の法律に反する様で飲み辛いけど、此処は折角だから飲むべきなのだろうか。郷に入っては郷に従え、とも言うもんな。

「17だったのか。やはり思っていた通り若いな。此の部屋に居る誰よりも若い。だが其の年齢なら飲酒は問題無さそうだが…他の飲み物を用意させるか?」俺を案じた王は少し心配そうに見つめてくる。気を遣わせてしまって申し訳無い。

「お気遣い有難う御座います。折角用意して頂いた物ですし此方を飲ませて頂きます」にこりと微笑むと、王は笑顔で頷いた。

「まぁ酒は好みも有るだろうし無理はするなよ」静かに聞いていたフレイアが優しく声を掛けてくれた。王もフレイアも優しいな。

「はい、有難う御座います」俺が軽く頭を下げると、2人は微かに笑みを浮かべた。

「遙様、どうぞ無理はなさらないでくださいね。あまり強く無いお酒も御座いますので何なりと仰ってください」傍に控えていたカレンが耳打ちしてくる。此処の人たちは優しくて温かい人で、此処に来れて良かったって今は思える。

「本当に皆さんは優しくて良い方たちですね。俺、最初は右も左も分からない様な所に来て不安だったけど、でも今は皆さんの様な人たちに会えて良かったって思います。本当に有難う御座います」ぽろりと思わず本音が洩れる。俺の言葉を聞いた王、フレイア、カレンは皆頷いたり微笑んだりと、優しく反応してくれた。
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