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6.何言ってるんですか

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俺は再び屋上から下を見た。でも不思議な事に先輩の姿がない。まさか、もう救急車が来て運ばれたのか?でもあれから10分も経っていない。

俺は慌てて職員室に駆け込んだ。

「…!先生!人が、屋上から落ちたんです…!今すぐに救急車を呼んで!早く!」

「落ち着きなさい棗君。誰が落ちたんだい?」取り乱した俺を宥めるように教師が俺を見つめる。

「2年の先輩で、竜胆翔先輩です」俺は彼の名を告げた。胸が苦しい。

「竜胆翔?そんな生徒いたか?」教師がきょとんとする。まさか知らない?ああ、でも生徒数多いし知らなくても仕方ない。

「俺もそんな名前の生徒は知りませんね。夢でも見たんじゃないか?」2年の学年主任の教師が後ろから告げる。2年の学年主任が知らないだと?どういうことだ?

「そんな…彼を知らないと?どういう事ですか?」俺はわけが分からなくなって頭を抱えた。

それから数分後、救急車が到着した。しかしどこを探しても転落したと見られる人は見当たらなかったらしい。

「真面目な君が嘘をついたとは思えない。しかし実際に転落した人はいなかった。やはり夢でも見たんだろう」俺のクラスの担任の教師が俺を心配そうに見つめる。違う、何かがおかしい。だって俺は本当にこの目で先輩が落ちるのを見た。でも、下を見た時に先輩の姿はなかった。わけがわからない。夢だったのか?

ふと自分の手を見た。手の甲は赤く腫れ上がっていた。そうだ、あの時先輩に何度も踏まれたからだ。やはり夢なんかじゃない。

「夢なんかじゃありません….本当に翔先輩が落ちるのを見たんです。俺は助けられなかったんです…」涙が溢れてくる。担任は俺の頭を優しく撫でてくれた。

「しかし誰も転落していなかったし。そもそも竜胆翔という生徒は存在しないんだ」担任は小さくため息を吐くと全校生徒の名と写真が載った名簿を持ってきてくれた。

1~3年どのページを見ても先輩の名も写真もなかった。しかしあるページで手が止まる。俺を襲ってきた3人の男たちだ。

「先生!この3人が俺と翔先輩を襲ってきたんです」名簿を見ている俺を見守っていた担任に俺はあの男3人を指し示した。

「この3人が?なら後で話を聞き出すか。放課後職員室に来なさい。今はもう5限が始まってるし、途中からでも授業受けてきなさい。受けられる?」担任はどうやら俺の話を真剣に受け止めてくれているようだ。

正直授業を受ける気になれないが小さく頷いた。


そして放課後、俺は職員室へと向かった。ミーティングルームに通される。そこにはあの男3人とそれぞれの学年主任、俺の担任がいた。

「俺、3人の先輩方に春頃に屋上で襲われて…でも翔先輩が助けてくれたんです。それから今日の昼に屋上で翔先輩をカッターで切りかかろうとして、しまいには先輩を突き落としたんです」俺は正直に伝えた。

「お前ら何をやったか話せ」3年の学年主任が男3人に圧をかける。

「…たしかに4月頃、下駄箱に手紙入れて屋上に呼び出して襲おうとした事も間違いありません。でも、誰かに止められて…誰だったか」男の1人が口を開く。まさか翔先輩を忘れたと?

「服脱がせようとしたら止められて…でもそれから覚えてないんですよ。誰に止められたのかも」別の男も発言する。覚えてない?あんな事をしておいて?コイツら忘れたフリをしているのでは?

「最低な野郎だなお前ら。新入生に手を出すとは。反省しろ。今日の事はどうなんだ」3年の学年主任が強い口調で男3人を責め立てる。

「今日の昼、ラウンジでその1年が飯食ってたから話しかけて…屋上行って…何で俺らコイツと屋上行ったんだっけ?何したんだっけ?」別の男が学年主任の質問に答える。コイツもシラを切るつもりか。

「何言ってるんですか。忘れたフリをしているんですか?」俺が男3人を睨むと男3人はきょとんとする。まるで本当に理解出来ていないかのような表情だ。

「傷付けた事は謝る。すみませんでした。でも正直に俺たちは話しました。もうしません」男の1人が告げると男3人は頭を下げた。

「お前ら後で家に連絡するからな」学年主任が男3人を叱る。

「もう良いです。失礼します」俺は頭を下げてその場を後にした。

何かがおかしい。これじゃまるで竜胆翔という存在自体が消えてしまったみたいではないか。

先輩の家に行ってみよう。何度か先輩の家には行った事があるから行ける。
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