病み彼

ふわパカ

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飲む

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此処が来夢の家…一軒家か。割と大きい。前にも来た事あるような懐かしい感じがする。来た事あるのかな昔。

本人は居るだろうか。緊張する。インターホンを押そうとする手が震えていた。

会ったって覚えてないのに何を話そう。相手はショックを受けるだろうか。どんな顔で会えば良いんだろう?俺は如何やって接していたんだろう。

震える手でインターホンを押す。返事はなかった。もう一度押しても返事はない。誰も居ないのか。

仕方なく帰ろうとした時だった。体に電気が走ったかのような衝撃に襲われて俺は地面に膝をついた。頭の中を駆け巡るのは来夢という人の顔。

頭が痛い。片手で頭を抑えた。気分が悪い。クラクラする。体に力が入らない。

来夢という人の嬉しそうな顔。怒った顔。泣いている顔。色んな彼の表情が思い出される。でも何でそんな表情になっているのかは分からない。如何いう事が俺たちにあったのかまでは思い出せない。

思い出そうとすると頭が痛い。まるで思い出す事を遮るかのように。

最後に思い出した彼の表情。これは…これは、俺と…キス?した。如何して…

胸がドキドキする。俺たちの関係は何?キスするような仲なのか?分からない。


あれからどうやって家に帰ってきたかは覚えてない。来夢の事しか俺の頭にはなかった。最後に思い出したキスは何だったんだろうか。

ふと時計を見ると時刻は17時だった。買い物に行かなきゃ。


買い物中は何を作るかという事と来夢という人の事しか考えてなかった。あのキスがとても気になる。駄目だ、今は取り敢えず来夢って人の事は忘れよう。


買い物を終えた俺は夕飯の支度を始めた。兄さんも足立さんもイタリアンが好きだから今日の夕飯はイタリアンにしよう。気に入ってくれると良いな。


夕飯を作り終える頃に兄さんたちが帰ってきた。グッドタイミング。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「お邪魔します」

兄さんは「いい子にしてた?」とか言って俺の頭を撫でた。俺はガキじゃねぇっての。

足立さんは俺をじっと見つめて「エプロン姿も様になってるね愛空君」と褒めてくれた。喜んで良いんだろうか。

「わ、美味しそう。全部愛空が作ったの?」

「うん。兄さんも足立さんもイタリアンが好きだから」

「愛空君って凄いよなー。イタリアンまで作れちゃうなんて」

「ほら手を洗ってきてください二人とも。冷めちゃいますから」

この三人で夕食を食べるなんて初めてだ。なんか面白いメンバーだな。

「あの、ところでどうして俺は二人に囲まれてるんですかね」

ちゃんと向かい合わせになるように配膳したにも関わらず俺の両隣に二人がいる。流石に狭い。

「細かい事は気にしちゃ駄目だよ愛空君」

「いや気にするなって言われても気にしますよ」

俺が離れようとすると両脇から二人が俺を引き止める。何度か離れようとしたけどその度に引き止められる。流石に疲れた。だから諦める事にした。


他愛もない話をしながら楽しい時を過ごした。二人とも残さず食べてくれたし満足。


洗い物を終えると兄さんがワイングラスを3つ持ってきた。そして俺の隣りに居た足立さんがワインを取り出す。

そっか、二人はお酒が飲める歳なんだよな。なんか年の差を感じて少し悲しくなる。俺なんかまだ子供じゃん。

ワインは三つのグラスに注がれた。何で三つ?まさか俺?なわけないよな。

「ほら愛空、乾杯しよう」

兄さんが俺にワインの注がれたグラスを渡した。え?何言ってんの?俺まだ飲めねぇし。

「俺二十歳じゃないじゃん。兄さんや足立さんは飲めるかもしれないけど」

「今日くらい飲んでも大丈夫だよ」

聞き間違いでもしてるのだろうか。あの真面目な兄さんが飲んでも大丈夫だなんて…明日は槍が降るかも。

「愛空君、今の時代はこうやって未成年でも酒を飲む子は多いんだよ?俺もこういう時は飲んでたし」

「え、そうなんですか?」

俺の考えが時代遅れって事か?如何するか迷っていると兄さんは俺からグラスを取り上げた。

「まぁまだ子供だからやめておこうか。ね、如何する?」

なんか子供扱いされた。其れが気に食わなくて俺は兄さんからグラスを奪い返した。

「飲む。俺だってガキじゃねぇし」

後から考えたらこれは策略だったのかもしれない。俺を煽って飲ませようって魂胆だったのかもしれない。まんまと罠にはまっちゃったんだ俺は。

やっぱり俺はまだ子供なんだな。この後に起こる出来事を予想する事はこの時の俺には出来なかった。
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