病み彼

ふわパカ

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子供じゃねぇんだから

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夢を見た。誰と一緒にいるかは分からないけど隣りに誰かがいた。俺より背が高かったからきっと男の人。夢の中の俺は凄い笑顔で幸せな気分だった。


目が覚めた俺は兄さんの姿を探した。いないみたいだ。窓から太陽の優しい光が差し込んでくる。その眩しさに目を細めながら時計を見遣ると時刻は7時だった。


それにしてもさっきの夢は何だったんだろう。あの人は誰だったんだろう。ただの夢の筈なのに凄く気になって仕方がない。


「おはよう愛空。よく眠れた?」

いつの間にか兄さんが傍に来ていた。エプロンを着けているからきっと朝食を作っていたのだろう。

「おはよう。久々にゆっくり寝れた」

兄さんは笑いながら俺の頭をわしゃりと撫でた。やっぱり兄さんに撫でられると落ち着く。


朝食を食べ終えて部屋に戻ると兄さんは出掛ける支度を始めた。何処に行くんだ?

「兄さん…何処に行くの?」

「勤めてた病院だよ。留学終えたしね」

兄さんって凄いよな。自分の夢に向かって前向きに頑張るなんて。俺も見習わなきゃ。

「留学中の事を報告したり仕事に復帰する手続きをするとなると少し遅くなるかも。それから一旦元の家に戻って愛空の必要な物を持ってくるよ」

「荷物くらい自分でやるよ。色々した後だと疲れてるだろ?」

「大丈夫。それじゃ何の為に今日学校休んだか分からないでしょ?ゆっくり休んでて」

俺は頷く事しか出来なかった。駄目だな俺…兄さんに迷惑掛けっぱなしじゃん。

「じゃあ行ってくる。ご飯は自分で出来るよね」

「出来るよ…子供じゃねぇんだから…」

兄さんは楽しそうに笑った。それにつられて俺も笑った。久しぶりに心から笑った気がする。


もう17時だ。今頃兄さんは何してるんだろう。

夕飯の支度でもするかな。そうだ、兄さんの好きなオムライスを作ろう。

冷蔵庫の中身を確認すると卵がなかった。てか空っぽに近い。それもそうか、昨日から住み始めたんだから。

仕方がない、買い物に行ってくるか。此処からなら直ぐ近くにスーパーがあるし。


買い物中に男の人に話しかけられた。どこかへ行こうと言うのだ。何を言ってるんだか。俺は愛想笑いを浮かべながら断り、直ぐに買い物を終えて店を出た。


「逃げないでよー。ねぇ暇だろ?遊びに行こうよ」

さっきの男がどうやらついてきたようだ。俺の腕を掴んでくる。

「やめてください。暇じゃありません。失礼します」

相手の腕を振り払うと俺はさっさと歩き出した。それでもなお男はついてくる。俺は歩みを止め振り返ってじっと男を見た。

「何?遊びに行く気になった?」

嬉しそうに相手は笑顔を浮かべている。遊び相手を探してるとかどれだけ暇なんだよこの人。

「いいえ。全くありません。これからご飯作らなきゃいけないので。他の人をあたってください」

「えー…君が良いのに」

男はがっかりしたのか肩を落とししょぼくれる。何なのこの人。

「…すみません。じゃあ失礼します」

「待って、またどこかで会えない?」

「え?何でですか?

「何でって…そりゃまた会いたいから誘ってるんだけど」

「…何でですか?初めて会ったばかりじゃないですか」

「そうなんだけど…君に一目惚れしちゃって」

……一目惚れ?男の俺に?

何も言えずにぽかんとしてると男は俺に近づいてくる。

「うん、一目惚れ。本当は連絡先知りたいけど君はガードが固いから教えてくれないよね。もし運命ならまた会えるよね。その日を楽しみに待ってるよ。じゃあね」

男は言いたいだけ言って去って行った。残された俺は呆然と彼が去るところを見送った。


家に帰り夕飯の支度をする。色々と安売りしてたから沢山買ってしまった。オムライスとサラダも作ろう。コンソメスープも作ろうかな。


作り終えて時計を見遣ると時刻は19時。お腹、空いてきた。でも兄さんを待とう。先にお風呂でも入るか。


お風呂から出たは良いが重大な事に気付いた。服がない。そうだ、俺の家にあるんだ。兄さんの借りるか。

服を着てみるとやはりサイズが大きい。肩の位置が合わずに肩が出てしまう。ズボンの裾は折らなければ床についてしまう。

兄さんは身長が185cmある。俺は175cm。いや、嘘。高校一年の時には173cmになった。高校二年になってからは171cmになって今は170cmになってしまった。どうやら老化が始まっているらしい。


テレビを見たりスマホを弄ったりしながら時間を潰した。もう21時だ。段々眠くなってきた。ウトウトしてしまう。


22時までは頑張ったがついに寝てしまった。
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